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雨はまだ止まない。
まるで、泣けない私の代わりに、天(そら)が泣いているかのように。
あたりはまだ焼け焦げた臭いが立ち込めていた。
一体どこなのだろう、ここは。確かにここに居たのに。ここで暮らしていたのに。もう見る影もなくなってしまった部屋。
まだ目蓋に焼き付いて離れない。オイルライターの炎に無残に蹂躙された部屋。そして、赤く染まっていく身体…
一番、大切な人。
子供の頃からずっと一番大好きな人。
「ねえ、真一朗…私まだ、ちゃんと言ってないよ?」
まだちゃんと伝えてない。
ずっと言いたかったこと。
一番大切なこと。
「もう…言わせてもくれないの……?」
大切な人はただひとり。
失いたくなかったのは、
たったひとりの……
「真一朗…っ」
覚悟なんて、していたつもりだった。でも、そんなもの、本当はしたくなかった。
失う日が来るなんて、思いたくなかった。
心を占めるのはたったひとりの人。
いつでも笑っていてほしかったから。
時折垣間見える翳を少しでも取り除きたかった。幸せになってほしかった。
それだけが、願い。
強さの裏に隠された寂しさと弱さを、どうしたら拭い去れるのか、それを知りたかった。
だから、たとえ違う道を行っても、大丈夫だと思った。
なかなか会えないのは寂しかったけど、それでも我慢できた。
あなたの笑顔を守れるなら、それでよかった。
どこで間違えたのだろう。
ただ、あなたが幸せになれるなら、それでよかったのに。
胸に去来するのは、数え切れない罪と後悔。
降り続く雨でさえ、洗い流しきれない程の。
あなたを失わずにいられるのなら、何だってできたのに。
自分は、みんなが思ってるような人間じゃない。
たったひとりの人のためになら、何でもする。それでたとえ、何かを失っても。誰かを傷つけても。
そんなエゴにまみれた人間だから、…だから。
これが私に与えられた罰なんだろうか。
雨音が聞こえる。
雨はまだ止まない。
きっと私の代わりに泣いてるんだ。
…だとしたら。
この雨はいつ止む?
そう、何だってできる。
あなたを失わないためなら。
絶対に、取り戻してみせるから。
●
―― 赤い。
目の前を彩る景色はすべて赤く塗りつぶされている。
ああ、これは俺の血か…
ドクドク
ドクドク
いっそ、このまますべてを終わらせるか? この自分の血と一緒に、すべての罪も後悔も流れ出てしまえば ――
誰かの嗚咽が聞こえる。大丈夫だから、と、必死に、まるで自分自身に言い聞かせるかのように。
一番、大切な人。
ガキの頃からずっと一番大好きな人。
このまま俺が死ねば、もう失うことに怯えることもない。むしろ、俺の死に縛り付けることができる。一生、俺のことを忘れずに、生きていく ――?
……違う。
違う、そうじゃない。それじゃダメなんだ。
もう泣かせないって、もうこれ以上そんな顔させないって言ったのは自分なのに。
ずっと傍に居ると、誓ったのに。
だからまだ俺は死なない。死んでなんかたまるか。七海の傍に居るのは、自分だから。
誰にもそれだけは譲れないから。
…一瞬の閃光。世界が暗転する。重いドアの軋み音が響いて、―― そして。
「ふっ…、やはりしぶといな」
「生憎…往生際が…悪いんでね……」
まだ、終わらせるわけにはいかない。
・
・
・
数え切れない罪と後悔を、洗い流すことなんてできない。
…それでも。
きっといつか、この雨は止むから。
「七海ちゃんは強いな」
空くんの言葉に、表情が曇るのが自分でもわかった。その言葉を聞いた私は、
「強くなんて…ないですよ」
そう、呟くしかなかった。
私は、強くなんてない。
私がもっと強ければ、きっと、こんな事にはならなかった。
目の前にいる空くんや、去っていった直くん達の人生を狂わすこともなかった。
そして…
一番大切な人を…あんな目に遭わすことも。
後悔だけは数え切れないほどあって。
それでも、立ち止まっているわけにはいかないから。
…それに。
立ち止まってしまったら、きっと気が狂ってしまう。
狂ってしまえたら楽なのかもしれない。
でも私には、まだすることがある。
しなければならないことがあるから。
そして何より、伝えたいから。
一番大切な、あの人に。
俯いていた私の頭上に影が落ちたと思った瞬間、いつの間にか私よりも大きくなっていたその腕に抱きしめられていた。
「空くん…?」
「オレ、前に言っただろ? 兄ちゃん追い越していい男になるって。あれ、本気だから。七海ちゃんが思わず惚れちまうくらい、いい男になるから」
それはいつか、保健室で言われた言葉。
「けどさ、やっぱ正面から…正々堂々と勝負したいんだ」
真っ直ぐ見つめてくるその表情はちょっと泣きそうで、それでも笑っていて。
ああ、やっぱり立ち止まってなんかいちゃいけないんだね。
すべてを知っても、それでも想ってくれる人の為にも。
私は、負けるわけにはいかないんだよね。
「ちゃんと勝負して、勝ってみせる」
……ありがとう。
「だからさ」
ありがとう、空くんの言葉はいつも私に元気をくれるよ。
「絶対、兄ちゃん取り戻そうな」
その力強い言葉につられて。
「……ええ」
やっと、少しだけ笑えた。
ねぇ、真一朗。
このままじゃ、空くんにもっていかれちゃうよ?
それでもいいの?
……よくない、よね?
だから…お願い。
どうか。
どうか、無事でいて ――
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真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。