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神崎廉が今まで書いてきたSS保管庫。
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長い、長い夜が来るよ。
僕は、夜明けに何を祈る?
……君は、
何を、祈った?

 

     ●

 

カシャ
暗い部屋に、映写機の音だけが響く。NYや東京と違い、都会の喧騒や明るさはここでは皆無だ。下ろされたブラインドの隙間から洩れ入る光は、月明かりだけ。その部屋で、英二は静かに映し出された想い出を見つめていた。
カシャ
永遠に変わることのない姿を。
カシャ
自分にだけ見せた、年相応の表情を。
カシャ
彼の隣で笑っている、自分を。
(……とても、幸せな夢を見るんだ)
心の中で、そっと呟く。
あんな事にならなければ、きっと現実になっていた夢。
ずっと、思い描いていた夢。
あれから何年経っても、ずっと見続けている。
あの頃のまま、二人でいろいろな場所を巡っている。荷物はカメラだけ。二人でいろいろな景色を見て、いろいろな人に会って。約束通り、日本にも行って。
ずっと、二人で。
それは、とても幸福な夢。
そして。
とても、残酷な夢でもある。
もう決して叶うことのない夢を、ずっと、…ずっと見続けている。
壁に映し出された二人の姿が滲む。
気が付けば、涙が一筋頬を伝っていた。それが合図だったのか、まるで堰を切ったかのように、とめどなく涙が溢れてきた。この七年間、決して流れなかった涙が。彼がもう居ないのだと知らされたときにも、冷たくなった頬に触れたときも、ひとり残された夜にさえ、泣けなかったのに。
「 ―― っ」
七年分の涙が、 ―― 想いが、溢れてくる。
本当は知っていた。たとえ、彼の写真をすべて隠しても。彼が最期を迎えた場所に近付くまいとしても。何も、変わらないのだと。
彼を失った現実は、何も変わりはしないのだと。
……それでも。
夜明けは訪れるのだ。
どんなに長い夜でも。どんなに暗い闇でも。いつかは、光が射し込むのだ。今、この瞬間のように。―― だから。
恐れずに。怖がらずに。瞳を開けてみればいい。
窓から射し込む光に導かれるかのように、英二は立ち上がり、ブラインドを上げて、そっと窓の外に目を遣った。
訪れた夜明けの中に、いつかの景色が浮かぶ。
あれはそう、ロング・アイランドに向かうフェリーの上で。ずっと気になっていたことを彼に尋いた時のこと。
「前に話してくれた事があったじゃないか、君の本当の名前 ―― <アスラン>っていうのはお母さんがつけたものだって。ちょっと変わった名前だよね…、何か意味があるの?」
「古代ヘブライの祈りの言葉なんだってさ。<暁>という意味だそうだ…。オレは夜明けに生まれたんで」

この夜明けに、君の名に祈ろう。
祈ることは、ただひとつだけ。
僕にとって、君と過ごした日々が幸福だったように、君にとっても、僕との日々が、幸福であったように ――
今はもう、それしかできないけれど。

 

     ●

 

ギャラリーの一番奥に飾られた一枚の写真の前で、少女は立ち止まった。ケープ・コッドから帰ってすぐに、英二が飾ったその写真には、穏やかな表情の青年が写っていた。眠っているのか、それとも祈っているのか。その横顔を、朝陽が優しく照らしている。それが自分と同じ名前を持つ人なのだと、暁にはすぐにわかった。
この写真を見て、彼を知る人は、何を感じるのだろう。
懐かしさだろうか。それとも、愛しさか。
でもきっと、皆、静かに涙を流すのだろう。
隣に立つ、シンのように。
皆、知っているから。
どんなに彼を愛しているか。ファインダー越しに感じられる深い愛を、互いの信頼を。
彼を知らない自分にさえ、その想いが伝わってくるのだから。
「……きれいな人だね」
いつの間に来ていたのか、後ろに立つ英二に向かって、暁は素直に思ったことを伝えた。……もう、大丈夫だ。素直に、そう思えるから。
「魂(こころ)も、とてもきれいなんだよ」
そう応える英二の顔も、とても穏やかだった。
きっと、もう、……大丈夫。

ねえ、アッシュ。
僕は忘れないよ。忘れられるわけがない。
どんなに月日が経とうとも。どれだけ季節が巡っても。
君と共に在った日々を、あの、幸福だった日々を、僕は、忘れない。
愛しているよ。
今までも、これからも、ずっと。
もう二度と触れることも叶わぬほど、遠く離れていても。
僕の魂は、いつも君と共にあるのだから。

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忘却はきっと罪じゃない。
それは多分、人生という闘いを生き抜く為の本能的な手立てだから。
―― それでも、忘れられるのは、怖い。

 

     ●

 

「アッシュ」
広い部屋にその声は響いた。
「アッシュ?」
そこに居るハズの、彼を求めて。
「アッシュってば」
そう、そこに居るハズだった。そこに居て、静かに自分を振り返るハズだったのだ、いつものように、ちょっとシニカルな笑みを浮かべながら。
「ああ…そうか」
その声の主は、何かを悟ったように呟いて、そのままそこにあるベッドに崩れるように座り込んだ。
「そうだったね…もう君は、居ないんだね ――」
そうだ、もう彼は居ないのだ、どこにも。たとえ彼の名前を呼んでも、泣き叫んでも、もう触れることも出来ないのだ。もう彼の声を聴くことも出来ないのだ。もう…彼の口から自分の名を呼ばれることも、ない。
どうして。どうして君は、僕を置いていってしまった?
「アッシュ…!」


………誰かが俺を呼んでる。
行かなきゃ、その声の主の許に。
どうしてお前は泣いている?
声を押し殺して。背中を丸めて。どうして。
独りきりで ―― …
お前は俺を抱きしめてくれたのに。
俺の震えも何もかも取り去ってくれたのに。
それなのに…俺のこの腕は、もう何の役にも立たない。
お前をもう抱きしめることもできない。
お前の為に、何もしてやれない。
……それでも、忘れないでほしい。
こんな願いはただの我儘だってわかってる。わかってはいるけど。それでも。
いつでも、お前の傍に居るから。
忘れないで、ほしい ――


「英二っ」
呼ばれた声に目を開けると、そこには見慣れた彼の顔があった。ただひどく、心配そうな表情(かお)をしているけれど。
「アッ…シュ……?」
我ながら呆けた声だなとは思いながら彼の名を呼ぶと、少しだけ安堵の色を見せ、それからちょっとからかうように、
「何寝ぼけてるのかな、オニイチャンは。怖い夢でも見たのか?」
「ああ…うん、何だろう、よくは覚えてないけど、ひどく…怖かったような気がする」
額にうっすら汗が浮かんでいる。思わず手をやってから、何故かぞくりとした。どうしたのだ、自分は。
「…とりあえず、何か飲むか? 取ってきてやるよ」
「! 待って…っ」
言葉より先に、彼のシャツを掴んで引き止めている自分が居た。自分でも驚くくらいに怯えている。
―― 何に?
「英二…?」
「ごめん…ちょっとだけでいいから」
そう言うとアッシュを抱きしめ、彼の胸に自分の顔を埋めていた。
「…これじゃいつかの逆だな」
「……まったくだね」
何故だろう。どうしてこんなに胸が騒ぐのだろう。
確かにここに、アッシュは居るのに。

………どうして、君は ―― …

 

     ●

 

忘却は罪じゃない。
でも、僕は忘れない。
たとえいつか肉体は滅ぶとも、僕の魂は君を憶えている。

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プロフィール
HN:
神崎 廉
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
絵描き兼字書き。
真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。
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