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じっとしているのは元来苦手である。というより、性に合わない。
けれど、訳あって匿われている ―― しかも敵国の真っ只中に ―― 身である。
否が応でも大人しくしているしか仕方がない。
知らず溜息を吐いて、政宗はぼんやりと庭に目を遣る。
然して広くもないけれど、よく手入れが行き届いていた。
「お茶でもいかがでござるか」
「ああ」
よく知った声が、いつもより控えめな調子で聞こえてくる。
座ったまま振り向くと、盆を手にした幸村が立っていた。
恐らくは政宗達の身分(というより素性)を憚ってのこともあってだろう。
厄介になっているここ・上田の町医者の細君ではなく、幸村手ずから色々と世話を焼いてくれていた。
「Thanks」
「さんくす??」
「ありがとう、ってことだ」
「…いや、これしきのこと…」
素直に礼を口にすると、幸村は少々面食らったような面持ちで見返してくる。
「…なんでそんな意外そうな顔してんだ?」
「い、いえ、別に…」
慌てて言い繕おうとする幸村を遮るように手招きする。
手で隣に座るように示すと、幸村はおずおずと横に並ぶように縁側に腰かけた。
本来であれば、他国と雖も政宗は一国の領主であり、対する幸村は一介の臣に過ぎない。
たとえ互いを好敵手と認め合い、戦場(いくさば)では対等に渡り合おうとも、通常であれば横に並んで座るなどあり得ないことである。
だから、元来生真面目な幸村が萎縮するのもわからぬわけではない。
そこが幸村のいいところでもあり、また、少々融通の利かぬところでもあるのだけれど。
暫くは無言でふたりで茶を啜る。
ふと気付けば、お茶請けに出された饅頭が、珍しく皿からひとつも減っていない。
「どうした?」
「え?」
「あんたが甘いもんに手ぇ出さないなんざ」
明日は雨でも降るんじゃねぇか、と揶揄かうように軽口を叩いてみたのだけれど。
「Un?」
いつもであれば、速攻言い返してきそうなものであるのに。
隣に座る幸村は、その言葉に怒るでも焦るでもなく、困ったように下を向いていた。
どこからどう見ても、いつもの幸村らしくない。
(あ…)
そして漸く、そのことに思い至った。
脳裏に、昨日の幸村の傷ついたような顔が浮かぶ。
『テメエの差し金じゃねぇのか』
らしくもない言葉を、投げつけた。
よりにもよって、幸村に。
(Shit…)
幸村がそのような男でないことは、誰よりも自分が一番よく知っているではないか。
それなのに。
(頭に血ぃ、上りすぎだ)
「悪かった」
「え…」
「アンタに、あんなことを言った」
「…もう、いいでござるよ」
誤解は解いていただけたのでござろう?と笑ってみせるけれど。
(下手な嘘吐いてんじゃねぇ)
笑うときは底なしに明るく、それこそ太陽のように笑うのに。
無理して笑う顔など、…見たくはない。
そんな顔をさせているのは、他ならぬこの自分なのだけれど。
「政宗殿…?」
急に押し黙った政宗に不安になったのか、幸村が恐る恐る名前を呼んだ。
ふいに引き寄せて、その唇を吸う。
「…んぅ……っ」
突然のことに、幸村は思わず政宗の体を押し返そうとするけれど、すぐにその手から力が抜ける。
相変わらず幸村はこの行為に慣れない。
けれどそれは、自分以外を受け容れていない証し。
自然と口元に笑みが浮かぶ。
「ま、政宗殿っ!!」
焦って名を呼ぶ声など気にも止めず、そのまま幸村をその場に押し倒す。
「か、片倉殿が眠っておられるのに!」
「A~N? 俺は別に聞かせてやってもいいんだぜ?」
「な、何を…っ」
「御免被ります」
突如響く、地を這うような声。
ふと見れば、閉じていたはずの襖は開かれ、その奥からは鋭い眼光が覗いていた。
「か、片倉、殿…」
「Shit、邪魔すんじゃねぇよ小十郎!」
忌々しげに舌打ちをすれば、更にどすの利いた声が響く。
「何が邪魔ですか! 政宗様! 大体誰のせいでこんなことになってると思っておいでですか!」
そして視線は組み敷かれたままの幸村へと向かう。
「すまねぇな、真田。何から何まで世話になってるってのに」
「い、いえ、某は特に何もしておりませぬ故、お気になされるな」
政宗を押し返すのも忘れたまま、幸村は律儀に答えている。
そんな健気な幸村と、いまだ幸村を押し倒したままの自分の主を見比べて、小十郎は溜息を吐いた。
それから、すぅとひとつ大きく息を吸い込む。
「政宗様!」
先程よりも更に大きな声が離れにこだまする。
そうしてずかずかとふたりに歩み寄ると、むんずと主君の服を掴み、強引に幸村から引き剥がした。
「てめ…、何しやがる小十郎!?」
「今日という今日は言わせてもらいますぞ!!」
「An? 小言はいつも言ってるじゃねーか」
呆気にとられる幸村を尻目に、小十郎は背中の傷の痛みに(恐らくは主に対しても)顔を顰めながら、その場で説教を始めた。
「いいですか、政宗様! 大体あなたは自分の立場というものをもう少し自覚していただきたい!!」
「充分自覚してるじゃねーか!」
「しておりません! そもそも…」
延々と続くやりとりを呆然と見つめていた幸村の顔に、ふと笑みが浮かぶ。
この調子であれば、小十郎の傷の具合ももう心配あるまい。
まぁ、別の意味では心配ではあるが。
「それでは某は城へと戻るでござるよ」
「あ、ちょっと待て! 幸村、話はまだ…」
「こちらの話もまだ終わっておりません、政宗様!!」
「失礼仕る」
「ゆ、幸村あぁぁ…!!」
穏やかな風が、庭の草木を静かに揺らす。
それはまるで、この一時の平穏を現すかのように。
頬を掠める風を感じるように、幸村は瞳を閉じた。
たとえそれが、これから来るであろう嵐の前の静けさであったとしても。
--- 2007.7.1 ---
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真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。