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モットーは“おばかでらぶらぶでほのぼのでシアワセ”。
無印ベースですが、後半には運命のあのキャラ達も…
「ほら、いい加減起きろよ、キラ」
「う、う~ん…」
毛布を引き剥がしてもキラは起きようとしない。
そんなキラとは対照的に、アスランはもうすでにザフトの軍服に身を包んでいた。
「まったく…」
あれから3年経った今も、相変わらずキラの寝起きは悪いらしい。
「起~き~ろ」
アスランは最後の手段とばかり、キラの鼻をつまむ。
「……っ」
―― 10秒経過 ――
「……………」
―― 30秒経過 ――
「っ、…は、く、苦しいじゃんか! 何するんだよ、アスラン!」
「キラがなかなか起きないからだ」
文句を言うキラに、アスランは悪びれもせず言う。
変わらない。
まだ別れる前、ずっと一緒だった頃と同じ光景。
「何だよ、もう。大体誰のせいだと……」
「ん? 誰のせいだって?」
小声で文句を言ったのに、耳聡く聞かれていたらしい。アスランはにっこり笑って聞き返す。
何となく昨晩のことを思い出してしまったキラは、真っ赤になって黙り込んでしまう。
それに気をよくしたのか、アスランは勝ち誇ったような顔で言葉を続けた。
「ほら、さっさと着替えないと、朝食食べ損ねるぞ」
「~~~っ わかったってば」
まだぶつぶつ文句を言いながらも、キラは着替え始めた。
キラがザフトに所属して1週間が経とうとしていた。
理由はどうあれ、一度はザフトと敵対していたキラではあったが、それを監視するという名目で、ちゃっかり同室になったアスランは、言うまでもなくすこぶる機嫌が良かった。
アスランがプラントに引っ越すまでは、ほとんど片時も離れたことがなかった二人である。
それが3年も離れていたのだから、その年月を取り戻すかのように、キラがザフトに来てからというもの、何をするにも二人一緒だった。
甲斐甲斐しくキラの世話をし、よく怒るアスランと。
アスランにはちょっとわがままで(恐らく自覚はないであろう)無条件に甘えるキラ。
”冷静沈着なエースパイロット”と”憎きストライクのパイロット”というイメージを無残にも粉々にされた周りの人間たちは悲嘆にくれていた……かもしれない。
しかし、当人達にとってはそんなことは当たり前だったので、他人がどう思っていようがまったく関係なかった。
……早い話が、お互いしか見えていないのである。
「………」
ここは食堂。
キラが着替え終わってから、いつものように連れ立って朝食を摂るためにやって来たのであるが……
「何やってるんだ、キラ。ほら、さっさとしろって」
「……アスラン~~っ」
上目遣いで後ろのアスランを振り返るキラの目には涙が滲んでいた。
「どうした?」
怪訝そうに訊くアスランに、キラが指差した先にあるものは…
「………野菜ジュースがどうかしたのか? キラ」
「僕、飲めないよ…」
ザフトの食堂では、兵士の健康を気遣って、毎日献立が決められていた。
どうやら本日の朝食の飲み物は野菜ジュースだったらしい。
「おまえ、飲めなかったっけ?」
「…アスランのせいじゃないか」
「俺の?」
「そうだよ!」
そう言われて、アスランは今までのキラとの日々を思い返す。
野菜ジュース…
「…あの時のことか……?」
「そう! あの時!!」
あの時 ――
そう、それはまだ二人が幼年学校に入ったばかりの頃。
相変わらず野菜の研究に明け暮れていたアスランの母は、大量の野菜を家に持ち帰っていた。
家に遊びに来ていたキラに、アスランは以前母から作ってもらったことのある野菜ジュースを見よう見真似で作り、飲ませようとした。
…が。
できあがったのはとても素晴らしく濃い色をした液体で、幼い子供が好んで自ら飲むような代物には見えなかった。
しかし、折角アスランが自分のために作ってくれたものである。
キラはそれを全部飲み干した挙句、お腹を壊して寝込んでしまったのだった。
「…そんなこともあったな」
「そうだよ!」
(待てよ…)
「けど俺は平気だったぞ…?」
そしてアスランはある事に思い当たる。
「ちょっと待て、キラ。おまえ、あの時…」
「…何?」
その素晴らしい色の液体は、とても苦そうに見えた。
だから…
「おまえ、砂糖いっぱい入れただろう、あれに」
「…そうだっけ…?」
少しでも飲みやすくなるかと砂糖を入れることにしたのはいいが、甘党のキラはこれでもかというほど大量の砂糖を入れて飲んだのだ。
「キ~ラ~…」
「うっ」
いつものように、アスランはひとつ溜息をつく。
「確かに俺も悪かった。けど、俺だけのせいじゃないぞ…?」
「う…、ごめん…」
「とにかく! あれとは違うし、結構うまいから、これ。飲んでみろ」
「………うん」
ばつが悪いせいもあり、渋々キラは少しだけ野菜ジュースを飲んでみる。
コクン
「………」
「どうだ?」
ゴクゴクゴク
「……キラ?」
「………美味しい」
アスランを見上げるキラの目は輝いていた。
「お代わり♪」
「ちょっと待て!! また調子乗って飲んで腹壊す気か、おまえは」
「…朝っぱらからあいつらもよくやるな」
夫婦漫才か、と呟きながらそんな光景を遠目で見る人たち。
言わずもがな、ザラ隊の面々である。
「何て言うか、旦那っていうより世話焼き女房って感じだよね、我等が隊長さんは」
そう言いながら、すかさずイザークの隣に陣取るディアッカ。
「はは…」
ちょっと複雑な心境で、アスランとキラを見遣るニコル。
イザークがフォークを手に取る。
ディアッカが無言で塩を渡す。
無言でイザークが受け取って目玉焼きにかける。
またその塩を無言でディアッカが受け取る。
イザークが目玉焼きにかじりつく。
無言でディアッカがナフキンを渡す。
「………」
(人のことは言えないと思いますけどね、ディアッカ…)
こうして今日もザフトの1日は始まる。
--- 2003.3.25 ---
#1 ディアッカ・エルスマンの場合
キラ・ヤマトがザフトに来てから、アスラン・ザラの機嫌は誰の目から見ても明らかなほど良かった。
冷静沈着と目されていた彼が、あんなにも世話焼きで怒りんぼだとは、誰も想像だにしていなかっただろう。
キラ・ヤマトとアスラン・ザラは、何をするにも二人一緒で行動し、片時もお互いの傍を離れようとはしなかった。
それを微笑ましいと見るか、あいつら馬鹿じゃねーのかと呆れるか、それは人それぞれだった。
そしてここに、そんなふたりの姿に苛立ちを覚える悩める少年がひとり ――
(なんであいつらはあんなに幸せそうなんだ)
そう、実は一途にイザーク・ジュールを想うディアッカ・エルスマンその人である。
「なんか今日はまた一段と機嫌良さそうじゃないか、アスランの奴は」
いつもの光景を見ながら、完全に呆れた口調でイザークが言う。
「なんでも今度の休みにキラとふたりで遊園地に行くらしいですよ」
それに答えたのはニコルだ。
「はあ? 遊園地だと?」
あいつら幾つだ、と言いながらドリンクに手を伸ばそうとするイザークにすかさずディアッカが手渡す。
(おいおい、遊園地でデートか?)
なんて羨ましい ―― と、言いそうになるのをどうにか堪えて、イザークの方を見やると、先程ディアッカが渡したドリンクを仏頂面して飲んでいる。
(これだもんね、こっちはさ)
どこか遠い目をしているディアッカに気づいたニコルは内心苦笑する。
(はは、何を考えてるかなんとなくわかりますよ、ディアッカ…)
ご愁傷様…、などとニコルが考えているとは露知らず、少しの間3人の間に沈黙が訪れる。
「でもキラって、絶叫系好きそうですよね」
「言えてそう」
「実は僕も結構好きなんですけどね」
「何を言っている、ニコル!! 遊園地といえばティーカップだろう!!!」
「……………は?」
あからさまに不審な顔をするニコル。
そして、ディアッカはといえば。
浅黒い顔が、見てわかるほど青ざめている。
そんなディアッカに気づいたニコルが何か言うよりも早く、
「なあ、ディアッカ!!」
そんなことを気にも留めず、イザークが同意を求めるように言う。
「あ、ああ…」
(目が泳いでますよ、ディアッカ…)
口に出すのも憚られて、ニコルは内心でこっそり呟いた。
(と言うか…イザークがティーカップ……?)
思わず想像して笑いが出そうになるのを必死に堪えながら、
「イザーク、ティーカップに乗るの好きなんですか?」
「勿論だ!! 昔はよく一緒に乗ったよな、ディアッカ!」
(ディアッカとイザークがティーカップ……)
「そ、そう言えば2人も幼馴染でしたっけ」(←注・神崎的設定)
「ああ」
ちらっとディアッカの方を盗み見ると、目は相変わらず泳いだまま、どうやら冷や汗も流しているようだ。
「どうしたんですか、ディアッカ」
さすがに様子のおかしいディアッカにニコルが声をかけると、
「楽しかったよな~、あの真ん中のテーブルみたいなのをぐるぐるまわすのが!!」
ディアッカが何かを答えるより先に、豪快にイザークが言い放つ。
「あれ回すと回転が速くなりますよね」
「そう! それを隣の奴らに負けじと回す!! どのカップよりも速く回す!! そしてトップスピンをかける!! これが正しいティーカップの乗り方だ!!!」
びしっと人差し指を突きつけて、イザークが断言する。
「そ、そうなんです…ね」
「そうだ!!」
嬉しそうに答えるイザークと対照的に、ディアッカは固まったままである。
「ディアッカなんて楽しすぎて失神してたくらいだからな」
「……………え?」
(それは目が回って倒れてたんじゃ…)
ディアッカはその時の様子を思い出しているのか、こめかみを押さえたまま黙り込んでいる。
(そういう事ですか…苦労が絶えないですね、ディアッカ)
ほんとにご愁傷様です…、とニコルが思っているなど思いもしないであろうイザークは何かを思いついたようにぽんと手を打つ。
「よし、決めたぞ」
「…何をですか?」
「次の休み、俺達も遊園地に行くぞ!!」
「え!?」
ニコルとディアッカの声がはもる。
「あいつらにだけ楽しい思いはさせられないからな!!」
目を輝かせながらイザークは言う。
もはや心ここに在らず。
(ていうか…僕も決定なんですか?)
突っ込みたい気持ちもやまやまではあるが、そんな状況ではなさそうである。
(仕方ないですね…)
諦めの溜息を吐きながらディアッカの方を見ると、なんとも言えない顔をしている。
イザークと出かけられるのが嬉しいのか、はたまたあのティーカップの恐怖に怯えているのか、それとも2人きりじゃないのが面白くないのか……、きっと全部ではあろうが。
(本当に…ご愁傷様)
負けるなディアッカ。
行け行けディアッカ。
栄光のゴールは近い……かもしれない。
--- 2003.4.13 ---
#2 アスラン・ザラの場合
それは麗らかな昼下がり。
「遊園地?」
「そ、遊園地。次の休みに行かない?」
唐突に持ち掛けられた提案に、一瞬ぽかんとしてしまったキラだったが、すぐにそれが笑顔に変わる。
「行く!!」
元気よく答えたキラに、
「断られたらどうしようかと思った」
ちょっと悪戯っぽく笑いながら(でもとてつもなく嬉しそうに)アスランがチケットをキラに見せる。
「あ、ここって…」
「行きたがってただろ、月に居た頃から」
それは地球の日本国の某遊園地。なにかのはずみでその存在を知ったキラは、まだふたりが月に居た時、しきりに行きたがった場所だった。
「覚えてたの!?」
「そりゃね」
(キラのことなら何でも覚えてるさ)
その時のキラの様子は今でもはっきりと覚えている。
思わずトリップしそうになるのをどうにか抑え、キラの方を見ると、目を輝かせながら渡したチケットを見つめている。
「ありがとう、アスラン! 凄く嬉しいよ」
「昔はよく行ってたしね」
「懐かしいね、母さんにお弁当作ってもらって持って行ったよね~」
その時のことを思い出しているのか、キラは懐かしそうに笑っている。
「じゃあ、今度もお弁当持って行こうか」
「誰が作るの?」
キラの素朴な質問に、
「俺」
アスランはにっこり笑って自分を指差す。
と、途端にそれまで楽しそうに笑っていたキラの顔が能面のように白くなる。
「……何か不満でも?」
「………野菜ジュース………」
キラがぼそりと呟く。
どうやらあの一件はキラのトラウマになってしまっていたらしい。
「と、とりあえず簡単な弁当くらいは俺にだって作れるぞ!? プラントに来てからは殆ど自炊みたいなもんだったし」
「う~…」
慌ててアスランは言うが、それでもまだキラは承服しようとはしない。
上目遣いにアスランを見たまま唸っている。
「あーもう、わかったよ! じゃあ、園内のレストランででも食べよう」
「うん!」
(だからその顔には弱いって絶対わかっててやってるだろう…)
「はあ…。ほら、昼食べに行くぞ」
完全に負けを悟ったアスランは、溜息をつきながらドアに向かう。
「………」
その背中にキラがガバッと抱きついた。
「へへ、アスラン大好き!」
「だ~か~ら~、急に抱きつくな!!(襲いたくなるだろう!?)」
「あはははは」
…その後。
昼ごはんをいただいたのか、キラ自身がいただかれてしまったのかはさておき。
いつにもまして上機嫌なアスランの姿を周りは目にすることになる。
--- 2003.4.14 ---
#3 宇宙より愛をこめて(前編)
その日、アスラン・ザラの機嫌は最高に良いはずだった。
まるで自分たちを祝福するかのように晴れ渡った雲ひとつない青空。
そして隣には、愛しくて堪らないキラの笑顔。
そう、最高の気分のはずだったのだ。
「お、着いたみたいだな」
「……………」
「何してるんだ、おまえら。さっさとゲートに行くぞ!」
「……………」
「へ~、本物みたいですね、あのスペースシャトル」
「………で」
「ア、アスラン…」
「なんでおまえたちまでいるんだーーーーーーーっっ」
《ここは、ス●ースワールド。ここはスペース●ールド》
赤煉瓦仕立ての駅に降り立った一行は、目の前に広がる巨大パノラマにしばし心を奪われた。
……ただ一人を除いて。
その日、アスラン・ザラは当初の予定に大きく反して不機嫌極まりなかった。
今日は、待ちに待った休日。
そう、キラとふたりっきりで遊園地でデート、のはずだったのだ。
……それなのに………
なぜかおまけ(?)が3人も付いてきたのだ。
(わざとだろう、おまえら絶対わざとだろう……っ) ←その通りです。
怒り心頭、肩を震わせてその場から動かないアスランを心配して、キラがアスランの顔を覗き込む。
「アスラン…」
心配そうに名前を呼ばれて、ようやく我に返ったアスランだが、まだ怒りが収まるわけではなく。
「ね、僕達も行こう?」
そう言いながら、キラがアスランの手を取り、ゲートに引っ張っていこうとする。
繋いだ手の温もりに、徐々に落ち着きを取り戻していくアスランだったが…
(………まあ、折角来たんだし。百歩譲ってお邪魔虫がいるにしても、キラとデートしてることには変わりないし…)
アスランがどうにか必死に自分に言い聞かせているうちに、ゲートに着いたらしい。
「じゃ、入ろう!」
「…ああ」
(それに、キラも楽しみにしてたんだもんな)
「おまえら何やってる! 遅いぞ!!!」
「ご、ごめん」
(誰のせいだ、誰のーーーーーっ)
……やはりそう簡単には怒りは収まらないようだ。
「さあ、どれから行くかな」
パンフレットをでかでかと広げたイザークが、嬉々としてアトラクションを物色し始める。
「あ、ティーカップ発見」
ぽつりとニコルが呟く。
「ティーカップ?」
アスランとキラの声が仲良くはもって訊き返す。
(いらんこと言うな、ニコルーーーっ)
ディアッカの心の叫びを知ってか知らずか(いや、きっと知っているであろう)、ニコルは何事もないかのようにしれっとパンフレットを見ている。
「ニコル、ティーカップ好きなの?」
キラが訊くと、
「いえ、僕じゃなくてイザークが」
(イザークが!?)
仲良く思考もはもったアスランとキラであった。
予想だにしなかったことに、思わずふたりがイザークの方を見るとどうやらそれは事実らしい。
「どこにあるんだ、ニコル」
必死の形相でパンフレットを凝視している。
「ほら、ここに」
ニコルがパンフレットの一隅を指差してやる。
「よし! まずはここからだ!! 行くぞ、皆の衆!!」
(なんでおまえが仕切ってるんだ…) ←イザークですから。
で、結局。
まずはみんな仲良く(?)ティーカップに乗りに行くことになったのだった。
「意外だよね、イザークがティーカップって…」
「ああ…」
こそっとキラがアスランに話し掛ける。
「でも確かにあれ、楽しいよね~」
「おまえ、真ん中のあれ回すの好きだもんな…」
「え、だって早く回る方がなんかお得な感じするじゃん」
「おかげで俺は酷い目にあってたけどな」
「なんだよ! アスランだって結構ムキになって回してたじゃんか」
どうやらアスランもディアッカと同じ被害に遭っていた模様である。
もはや日常茶飯事と化している痴話喧嘩が始まったとみるや、
「そこ! 犬も食わないからやめい!!」
先頭を行くイザークに怒鳴られたふたりは、顔を見合わせ、じきにどちらからともなく笑い出した。
ちなみにこれもいつものパターンである。
「今日はあれ回すなよ?」
「ええ~、楽しさ半減だよそれじゃ」
そんな会話を耳聡く聞きつけたイザークの目が光る。
「…今、何て言った?」
「え?」
仲良くふたり一緒に訊き返すアスランとキラに、イザークがもう一度訊く。
「今、『あれを回す』だとかなんとか言ったろう」
「うん、僕、ティーカップの真ん中のテーブルみたいなの、よく回してたんだ」
キラがそう言うや否や、イザークがガシッとキラの肩を掴む。
「!?」
アスランが文句を言うよりも早く、
「見直したぞ、キラ!!」
「……………は?」
「おまえはティーカップの正しい乗り方を知っている!」
「え、えっと…」
イマイチ状況の呑み込めないキラとアスランを置き去りに、イザークはひとりで何かを納得している。
「よし! キラ、着いたら競争だ!!」
「競争って…」
「決まってるだろう!? どちらがより速くカップを回せるか! より一層トップスピンをかけれた方が勝ちだ!!」
(だからトップスピンは違うと思うんですけどね…)
「あ、ここですね」
そうこう言う内にどうやら目的の場所に着いたらしい。
相変わらず腹の中で突っ込みを入れながら、それを億尾にも出さずニコルが一同に声をかける。
「おお! ここか」
目を輝かせるイザークと対照的に、ディアッカの顔色は冴えない。
アスランとキラはと言えば、先程のイザークの剣幕に押されっぱなしで呆然とその場に立ち尽くしている。
「よし! 勝負だ!!」
意気揚々と”パー●ィーカップ”と書かれた看板の方に行こうとするイザークに、
「イザーク、あれ」
ニコルが冷静に指差した先にはこう貼紙がしてあった。
『危険ですので真ん中のテーブルは絶対に回さないでください』
「……………」
あからさまに不満そうなイザークと、これまた対照的に安堵に胸を撫で下ろすディアッカ。
「仕方ありませんね、他のに行きましょうか」
そしてこれまたいつものように、いつの間にやらニコルが仕切っている。
アスランとキラは、まだ何が起こっているのか把握できていない。
こうしてイザークのティーカップへの夢はあっさり打ち砕かれてしまったのだった。
「うわっ、高い……」
首が痛くなるくらい見上げた先にある、頂上。
「ねえ、これ乗ろうよ!!」
興奮気味にキラはアスランを振り返る。が……
「…アスラン?」
「え? ああ…」
(こ、これは…)
微妙に血の気が引いているのが自分でもわかる。
実は今まで内緒にしてきたが、絶叫系はほんのちょっぴり(?)苦手なアスランであった。
「あ、やっぱりキラも絶叫系が好きなんですね」
「え? もしかしてニコルも?」
何気に意気投合するキラとニコルを尻目に、アスランは覚悟を決める。
(大丈夫、大丈夫だ。落ち着け、俺。これくらいの高さ、どうってことは…)
ちらと入り口に目をやると、たった今戻ってきたばかりのコースターから降りてきた人たちの姿が目に入る。
一様に蒼白な顔をし、誰も口をきくものがいない。
(……………)
決意が揺らぎそうになるアスランだった。
「よーし! それじゃ席決めるぞー」
いつの間にやら主導権を取り返したイザークが声を上げる。
「おし! それじゃ皆、手を出せよ」
輪になって片手を出す5人。
「うーらーおーもーて、てっ」
………こうして、
「よし! 俺は一番前!!」
何だかんだ言って、嬉しそうなイザークと。
「じゃあ、僕たちはその後ろにしようか」
「そうですね」
しっかり意気投合してしまった絶叫系大好きっ子・キラとニコルと。
(なんでこいつと…)
お互いに同じことを思っている、何気に報われないアスランとディアッカ。
席順も決まり、5人は最大傾斜60度のローラーコースター、タイ●ンに乗ることになったのだった。
--- 2003.4.16 ---
#4 宇宙より愛をこめて(後編)
「あー、もうすっごい面白かった~」
「ですねー」
爽やかに、とても楽しそうに降り立ったキラとニコルは満足げに笑いあっている。
そして残りの面子はといえば。
笑顔が張り付いたままのアスランと。
口元を押さえたまま俯くディアッカと。
青い顔をして胸を抑えてしゃがみこむイザークの姿がそこにはあった。
(し、死ぬかと思った…)
どうやら今回に限っては、皆、思うところは同じなようだ。
「ねえ、また乗っていい?」
無邪気に訊くキラに、アスランが慌ててパンフレットを広げて見せる。
「キ、キラ。折角だから、他のも先に回らないか?」
「あ、そうだね」
上機嫌のキラは、アスランの態度に何も気付かずにパンフレットを見つめている。
(ナイスフォロー、アスラン)
普段なら絶対思いもしないであろうことを残りのふたりは思っていた。
「あ、じゃあこれにしませんか?」
そう言ってニコルが指差したのは、”ツイン●ーキュリー”。
「ここから近いみたいだな」
「どんなのだ?」
ひょっこり顔を覗き込ませるイザークとディアッカ。どうやらどうにか回復したらしい。
「ボートみたいなのに乗って、南国の海を回るアトラクションみたいですよ」
そう言って、”ファンタジー●ルーズ”の写真を見せる。
(これなら大丈夫か…)
「じゃあ、それ行くか」
この時、密かにニコルとキラが目配せを交わしていたのを他の面子は誰も気付かなかった。
そして ――
「…おい」
「あ~、なんかドキドキするね!」
「どういうことだ、これは…」
「え? 何のことですか?」
「図ったな、ニコルーーっ!!」
バッシャーーーーーンッ
そう叫んだときには時すでに遅し。
一行の乗ったボートは、高さ16メートルの滝から急降下していた。
「あー、気持ちよかった」
「ですね~」
全身ずぶ濡れになりながらも、満足げに笑うキラとニコル。
まさに水も滴るイイ男、である。
そしてここにもイイ男が3名ほど…
「ニコル、おまえ…」
「あ、すみません。なんか”アドベ●チャークルーズ”と間違えちゃったみたいですね☆」
(わかっててやっただろう!?)
口には出さずに3人は同時に心の中で突っ込んでいた。
「僕、次はこれに乗りたい!!」
「あ、”ヴィー●ス”ですね! スペースシャトルのまわりを回転しながら回るみたいですよ」
(もう勝手にしてくれ…)
こうして、絶叫系に明け暮れることがほぼ決定したのだった。
「わ~、綺麗だね、アスラン!」
「ああ」
ここは観覧車、”スペー●・アイ”のゴンドラの中。
いつものように隣り合って座ったキラとアスランは、仲良く眼下の夜景を見下ろしていた。
「今日はいっぱい遊んだね!」
「ああ…」
(ほんとにな…)
さすがのアスランも疲れ果てていた。
結局あの後、絶叫系アトラクションをはしごし、しかもそれぞれ最低5回ずつは乗っていたのだ。
いくら軍に身を置き、身体を鍛えているとはいえ、正直かなりこたえていた。
(これでキラとふたりっきりならな…)
「楽しかったね。また来ようね、今度はふたりで」
「え…」
アスランが聞き返すよりも早く、キラの唇がアスランの唇に触れる。
「今日はありがとう、アスラン」
はにかみながら、最高の笑顔を向けてくるキラに、アスランの理性が保つわけもなく。
「……っ………ふ…」
先程のキラがした触れるだけのキスとは比べ物にならないほどの深いキスを返す。
キラもそれを大人しく受けていたが、アスランの手が下肢に伸びるとさすがに抵抗を試みる。
「ま、待った!」
「ヤだ、待てない」
慌ててキラがアスランの手を引き剥がそうとするが、アスランは一向に手を止めようとはしない。
「続きは帰ってから!!」
思わず言ってしまってから、キラははっと気づく。
(しまった……っ)
しかしそう思っても、後の祭り。
アスランは勝ち誇った顔で、キラを見つめている。
「男に二言はないよな? キラ」
「うっ…」
とてつもなく嬉しそうに、しかし有無を言わせぬ口調でアスランに念を押されてしまった。
「う…うん」
消え入りそうな声でそう答えたものの、キラは真っ赤になって俯いてしまう。
そんな様子に満足げに微笑んだアスランは、
「じゃあ、今はこれで我慢する」
そう言って、キラの肩を抱き寄せた。
「う~……」
唸りながらも、キラはそのままアスランの肩に寄りかかる。
そうしてゴンドラが地上に戻るまで、ふたりは静かに夜景を見ていたのだった。
一方。
「ホントに凄いな、ここの夜景は」
ゴンドラの窓に張りついて外の景色を堪能するイザークと、その姿をぼんやり眺めるディアッカの姿があった。
(まったくね…アスランの奴はよろしくやってるんだろーけど)
これであいつらの乗ってるゴンドラが揺れたりなんかしてたらシャレにならんぞ、などと前を先行するゴンドラに目をやると…
「……………」
(俺は何も見ていない、何も見ていないぞ)
ディアッカが自分に言い聞かせている間も、イザークは眼下の夜景に夢中になっている。
「たまには悪くないな、こういうのも」
そんなイザークの横顔に、ディアッカはしばし目を奪われる。
(ったく…なんでこんな憎たらしいくらいキレーな顔してんだか)
イザークの白い肌は、夜闇に映えてより一層白く見える。
「どうした、ディアッカ。何をそんなもの欲しそうな顔をしている?」
さすがにディアッカの視線に気づいたのか、にやりと笑いながらイザークが振り返る。
(わかってるくせに…)
「そんな風に見えるか?」
そう広くないゴンドラの中、向かい合って座っていたイザークが、触れそうなくらいの位置まで移動してくる。
「いいぞ? ディアッカ。今日は気分がいい」
挑発するように、真っ直ぐにディアッカの瞳を見つめたまま。
「おまえとこういうことするのは嫌いじゃないからな」
そう言いながら、唇に触れる。
「素直じゃないね、ほんっとに。”好き”くらい言やいーのに」
それに応えながら、ディアッカがイザークの細い腰を抱く。
「言ってほしいのか?」
クスクス笑いながら、軽いキスを繰り返す。
「ああ、言ってほしいね」
片手はイザークの腰をしっかり抱いたまま、慣れた手つきでボタンを外していく。
「なら、言わせてみせるんだな」
そう言って、深く深く口付ける。
「たまにはこういう場所でも悪くないだろう? ディアッカ」
「…ま、どこでもあんたの中はサイコーだけどね」
(さて、と)
ひとり、荷物番をかってでていたニコルはベンチに腰掛ける。
その手には、ちゃっかりカメラが握られていた。
(今日はいろいろおいしいものを見せていただきましたしね)
にっこり笑うその姿は、外見だけなら天使のようである。
(最後くらいはいい思いをさせてあげますよ)
そんなこんなで怒涛の一日は終りを告げ、戻ってきた一行であった。
先程までの疲れはどこへやら、アスランは元気そのものである。
そして対照的に、先程までの元気はどこへやら、疲れが出てきたらしいキラはへばりかけていた。
「キラ、先にシャワー行くか?」
「ううん、アスラン先に使ってよ」
部屋に戻るなり、キラは着替えるのもそこそこに、ベッドに座り込んでしまう。
アスランが部屋に備え付けのシャワールームに消えると、
(駄目だ、眠いよ…)
そのままベッドに倒れこんでしまった。
(ちょっとだけ……)
思うが早いか、静かな寝息を立ててしまっていた。
なんとなーく、嫌な思いに駆られて早々にシャワーを浴び終えたアスランは、
(やっぱりか…!)
眠ってしまっているキラを見るなり、脱力してしまう。
(まあ…そんなことだろうとは思ったんだけどさ)
無防備に眠るキラの顔を見ながら、諦めの溜息をつく。
今日は、あの笑顔が見れただけでもよしとしよう ――
柔らかい髪を撫でて、額に口付ける。
「おやすみ」
良い夢を ――
キラを起こさないように、そっと隣に潜り込む。
(明日は覚悟しとけよ、キラ)
アスランがそう心で呟いたのは言うまでもない。
--- 2003.4.16 ---
#5 GOOD MORNING! BAD MORNING?
「ん…」
暖かな温もりに目を開けると、ちょうど目の前にアスランの寝顔があった。
(アスラン…)
その存在に安心して、また眠りに落ちようとしたが、そこでキラははたと気付く。
(やばっ)
ガバッと思わず起き上がると、
「う…、ん……」
「あ、アスラン…?」
起こしてしまったかと名前を呼んでみるが、どうやら大丈夫だったらしい。
(えと、今何時だろう…)
時計を見ると、今は朝の4時ちょっと過ぎ。
そして自分の格好はといえば、昨夜帰ってきたままの姿である。
(あちゃー、僕、あのまま眠っちゃったんだ…)
布団はきっとアスランがかけてくれていたのだろう。
思わずアスランの方を見ると、静かな寝息を立てて眠っている。
(やっぱ怒ってる…よね?)
成り行き(?)でしたとはいえ、約束を破ってしまったのだ。
まあ、その約束の内容も内容ではあるが ――
「………っ」
約束の内容を思い出し、思わず赤面してしまうキラであった。
(と、とにかく、シャワーでも浴びてこよう)
すっかり眠気の覚めてしまったキラは、アスランを起こさないようにベッドを脱け出すと、シャワールームに向かった。
蛇口をひねり、出てきた水滴が湯気をあげるのを確認して、頭からシャワーを浴びる。
(あー、気持ちいい…)
しばし目を閉じて、熱いお湯に身を委ねていると ――
「!!??」
いきなり後ろから抱きしめられて、声にならない声を上げる。
…とはいえ、こんなことをするのはひとりしか居ないわけで。
「お、おはよう、アスラン…」
首だけ回して、その犯人を見ると、
「おはよう、キラ」
回した腕はそのままで、最上級の笑顔でアスランが朝の挨拶を返す。
「え、えっと」
「寝汗かいたみたいだから、俺もシャワー浴びようかと思って」
アスランは相変わらずにっこり笑ったまま。
…が。
付き合いの長いキラにはわかっていた。
(まずい…、本気で怒ってる……)
「ア、アスラン…?」
ダメもとで名前を呼んでみる。
「何?」
アスランは相変わらずにっこり笑ったままだ。
「えっと、その…手、離して?」
「嫌だ」
あっさり返されてしまう。
(ああ、やっぱり)
手を離されるどころか、より一層ぎゅうっと抱きしめられてしまった。
「アスラン…、苦しい……」
「俺は昨日、もっと苦しかったけど?」
「う……」
(やっぱり怒ってるよ…)
おずおずと、アスランの方を上目遣いで見る。
「ごめん…」
いつもなら、ここで怯んでしまうアスランであったが、今日の彼は違っていた。
「なんで謝るの?」
「なんでって、その…約束…破っちゃったし……」
「約束って?」
「………っ」
(わざとだ、絶対わざとだ……っ)
「ねえ、キラ。約束って、どんな?」
半泣きのキラを見ても、アスランは腕を離そうとはしない。
「だ、だから、その…っ」
「うん?」
どうやら言わないと、許してくれそうもない。
「続き…帰ってからする、って……」
真っ赤になって、それでもどうにか言ったのに、
「続きって、何の?」
「~~~~~っ」
「ねえ、キラ?」
耳元で低く囁かれて、全身が総毛立つような感覚に襲われる。
それをどうにか堪えようと、ぎゅっと目を瞑るキラのそんな姿に、アスランは満足そうにひとつ笑う。
そうして、キラの顎に手をかけると、
「続きって、これの?」
「っん… ―― 」
思うまま、キラの口内を貪る。
息継ぎする暇も与えず、苦しそうな息を漏らすキラに、アスランは容赦しない。
キラの体からすっかり力が抜ける頃、ようやく唇を離す。
「…ぁ……っ」
ぼうっとした瞳を向けるキラに、アスランは今度は軽く触れるだけのキスをする。
「!?」
突然の感覚に、キラの体はびくっと震える。
気が付くと、アスランの指はしっかりキラの秘所にたどり着いていた。
シャワーのせいか、そんなに慣らしていないのに、すんなりアスランの指を受け入れる。
「や、やだよ、こんなとこで ―― っ」
「なんで?」
「なんでって…、あ……っ」
指のかわりに自身をあてがったアスランが、そっとキラの耳元で囁く。
「キラの可愛い声が響くから?」
「くっ…、や、……聞こえちゃう…よ……っ」
そう言いながらも、キラはしっかりとアスランに抱きついていた。
「誰にも聞こえないし、俺はキラの声、聞きたい」
「う……っ」
瞳に涙をいっぱい溜めて睨むキラに、ついつい意地悪したくなるアスランではあったが、
(あんまり苛めると後が怖いかな…)
「仕方ないな」
わざとらしく溜息をつき、シャワーの蛇口を最大まで捻る。
「じゃあ、こうしとこうか」
「ンっ……」
キラの唇を自分の唇で塞ぎ、先程までとは比べ物にならない程の勢いで責め立てる。
立ち上る湯煙と、内から沸き起こる熱とで、キラはもう何も考えられず、ただ必死にアスランにしがみついていた。
「う~、まだ6時じゃないか…」
ようやくシャワールームを後にしたふたりであるが、キラは疲れきってベッドに体を投げ出していた。
「いいじゃないか。朝するのが一番気持ちいいっていうし?」
さらっと、とんでもないことをアスランが口にする。
「………なんでそんな事知ってるのさ……」
恨めしそうな目でアスランを見ると、
「さあ? なんでだろうね」
「!?」
「何? やきもち妬いた?」
「………っ」
嬉しそうに訊くアスランに、キラは思わず言葉に詰まる。
悔しいけれど、図星だから仕方がない。
真っ赤な顔してふくれているキラに、涼しい笑顔を向けながら、
「心配しなくても、俺はキラしか知らないよ?」
「~~~っ、……僕だってそうだよ…」
まだふくれっ面のまま、小声でそう呟くキラを、アスランは愛しげに抱き寄せた。
アスランの体温が心地よくて、なぜかその感覚がくすぐったくて、笑いそうになるのを抑えて、キラはまだふてくされている振りをしてみる。
「もう…っ、すっごくお腹空いちゃったじゃないか…」
「じゃあ、食堂が開いたらすぐ行こうか」
「うん」
「それまで、こうしてよう?」
「……うん…」
「おはようございます、アスラン、キラ」
いつものごとく、仲良く朝食を摂っていたふたりに、ニコルがにこやかに声をかける。
「おはよう」
「おはよう、ニコル」
「昨日は楽しかったですね」
「うん! やっぱり絶叫系はいいよね」
(俺はもう御免被りたいけどな…)
楽しげなふたりをよそに、アスランはひとり遠い目をしていた。
「ああ、そういえば」
そんなアスランを知ってか知らずか、思い出したようにニコルが言う。
「最近晴天続きだから、節水にご協力ください、ってことでしたよ」
にっこり笑ってそれだけ言い残し、足取り軽やかに立ち去っていくニコル。
その台詞に、アスランが飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになったのは言うまでもない。
--- 2003.4.17 ---
「あ、ディアッカ発見!」
名前を呼ばれて読んでいた本から顔を上げたディアッカは、意外な人物を見て内心驚く。
その姿はまるで、小犬が尻尾を振ってかけよってくるというような…
(おいおい、キラ単品か? めっずらし~…)
キラがザフトに来てからというもの、アスランがいつも傍にべったりだったのだ。
キラがひとりでいるということなど、まず無いと言ってよかった。
そんなことを考えているディアッカをよそに、
「ディアッカ、今時間ある?」
などと、キラが無邪気に訊いてくるものだから、
「あ? ああ…」
ディアッカは思わずそう答えてしまっていた。
「ね、じゃあさ、ゲームしない?」
そう言って嬉しそうにキラが手にしたものを見せる。
「新機動戦記ガンダムW エンドレス・デュエル……?」
思わずタイトルを読み上げてしまったディアッカに、
「うん! 昨日、アスランと街に行った時に中古屋さんで見つけたんだ!!」
満面の笑みでキラが答える。
「って、これスー●ァミじゃないか。ハードあるのか?」
懐かしい…、とディアッカはしみじみ見入っていたが、キラはさも当然のように、
「うん、アスランに作ってもらったから」
「……………」
(あいつ、機械おたくだったのか…)
「ね、やろうよ」
「ああ、いいぜ」
……と、いうわけで。
格ゲー大会inザフトの幕が開いたのだった。
「これで5連勝!!」
「く…っ」
満面の笑みを浮かべるキラと。
とても悔しそうに臍を噛むディアッカと。
「D●Rなら負けねーのに……っ」
思わず呟いたディアッカに、
「ディアッカ、専用コントローラー持ってるの?」
キラがちょっと(?)瞳を輝かせてすかさず訊いてみる。
どうやらやりたいようだ。
「いや…」
そんなキラとは対照的に、ディアッカが溜息混じりにこう答えた。
「ムキになったイザークが壊した…」
「そうなんだ…」
なんとなく想像できて、納得してしまったキラであった。
「俺がどうしたって?」
「うわっ」
ひょっこり出てきたイザークに二人は思わず声を上げる。
「ど、どうもしないよ、イザーク」
「何やってるんだ、おまえら」
そう言いつつ画面に目を遣るイザークに、
「ね、イザークもやってみない?」
(うわっ、バカ…っ)
無邪気にゲームに誘うキラは、ディアッカの慌てように気が付かなかったらしい。
「なんだ、俺と勝負するのか?」
「うん、やろうよ」
「よし、任せとけ!!」
そう言うが早いか、ディアッカが持っていたコントローラーを勢いよく奪い取る。
(知らねーぞ…)
ディアッカの心配をよそに、第二幕が上がったのだった。
「ねー、もうやめようよぅ~…」
「まだまだ!!」
(だから言わんこっちゃない…)
勝負の結果は現時点で30対30。
さすがのキラも疲れてきたようだが、イザークはまだまだやる気満々のようだ。
「キラ、こんな所にいたのか」
「アスラン」
まさに救いの神、とばかりにキラはその声の主の方に向き直るが、思わず頭をはたかれる。
「何するんだよ~っっ」
頭をさすりながらアスランを見上げると、アスランは仁王立ちして立っていた。
(う…、怒ってる……?)
「なかなか帰ってこないと思えば…」
「だってアスラン、相手にしてくれなかったじゃないか!」
「裏技使ってやったってしょうがないだろう!?」
「そこ! 痴話喧嘩やってる暇はないぞ!」
アスランとキラがいつもの如く夫婦喧嘩を繰り広げている間に、ちゃっかりイザークの操るデスサイズが勝利を収めていた。
「あー!? 僕のサンドロック…」
「はっはっは、これで俺が31勝だな!」
イザークはやけに嬉しそうである。
「う~… アスラン、仇とって!!」
「え?」
気が付くと、手にコントローラーを握らされたアスランは、なぜかそのままイザークと対戦することになった。
「アスランが相手か。こてんぱんにしてやる…!!」
「その台詞、そっくりそのまま返してやる」
もとは負けず嫌いのアスランである。
こうして、第三幕が上がったのだった。
「アスラン、そこ!!」
「負けんなよ、イザーク!!」
戦いは熾烈を極めていた。
「くっ」
「そこだ!!」
ぶつん
鈍い音とともに、突如、画面が真っ黒になる。
「…へ?」
その場にいた全員が間の抜けた声を上げると…
「何やってるんですか、こんな時間まで」
にっこり笑いながら、モニターの電源を押さえたニコルがそこに立っていた。
心なしか、その背中に黒いオーラが漂っている。
「就寝時間はとっくに過ぎてますよ?」
(目が笑ってないぞ、ニコル…)
白熱格ゲーバトルはそんなこんなでお開きとなったのではあるが ――
「ねえアスラン、D●Rの専用コントローラー直して」
「は?」
急にキラに言われて、アスランが聞き返す。
「ディアッカが持ってるんだって。壊れてるみたいだから、ね、直して?」
キラにお願いされたら断れるわけもない。
「そりゃいいけど…」
「やった、じゃあ次は音ゲー大会だね!」
その言葉に、ニコルが敏感に反応する。
「音ゲー…?」
「うん! あ、次はニコルも一緒にやらない?」
「いいですよ、音ゲーは得意ですし」
「あ、そうなんだね」
「ええ、ピアノやってますから」
「へ~、凄いね! そういえば、ディアッカも何か楽器やってるの?」
「いや、俺の場合は楽器じゃなくて日舞」
「日舞!?」
ニコルのピアノは想像できるが、ディアッカの日舞は思いもよらず、思わず聞き返してしまったキラであった。
「ちなみに俺は民俗学の研究が趣味だ!」
聞かれてもないのにイザークが答える。
「そうなんだ…」
素直に感心するキラに、イザークも満更でもなさそうだ。
「キラは何が趣味なんですか?」
「え? 僕?」
訊かれてきょとんとしてしまったキラだが、
「うーんと、ゲームも好きだし、トリィと遊ぶのも好きだし…」
真剣に考えて答えている様子を見たアスラン以外の3人は、
(おいおい、16の男が”トリィと遊ぶ”って…)
思わず想像したものの、全く違和感がない。妙に納得してしまったところに、
「あ、でもやっぱり、アスランと一緒にいるのが一番好きだな」
えへへ、と照れ笑いを浮かべながら、それでもさらっと言いのけたキラに、それを聞いて思わず赤面するアスランという珍しい図を目にすることになったのだった。
--- 2003.4.23 ---
…どうしよう。
言うべきか。
言わないべきか。
……………
よし!!
男は度胸!(違)
「ニコル、お願いがあるんだけど…」
・ ・ ・ ・ ・ ・
…どうするか。
行くべきか。
行かないべきか。
……………
よし!!
「やっぱり行くか」
「どこに行くって?」
「うわあ」
いきなり出てきたイザークとディアッカに、ハムレットよろしくひとり悩んでいたアスランは、普段の冷静沈着さはどこへやら、思い切り驚いていた。
「い、いきなり出てくるな!」
思い切り不機嫌に怒鳴られても、イザーク達はどこ吹く風、涼しい顔をしている。
それどころか、ニヤニヤ笑いながら、
「んー? 可愛い奥さんはどうしたんだ、アスラン?」
「そうそう、折角の休みなのに、なんでこんな所で一人たそがれてんだ?」
(こいつら……)
絶対わかってて言ってるだろう…と、思いながら、アスランは逆に普段の冷静さを取り戻して行く。
「おまえたちには関係ない」
そっぽを向くアスランに、
「ふーん、いいのかな~、強がっちゃって」
「キラ、ニコルと出かけてるんだろ?」
まだニヤニヤ笑いながらふたりは言葉を続ける。
「だったらどうした」
落ち着きを取り戻したのも束の間、アスランはまた不機嫌さを顕わにする。
そう、折角の休みにこんな所で一人でいるのも、落ち着かないのも、すべてはキラが傍にいないからである。
事の起こりは昨日の夕食時まで遡る ――
「アスラン、明日の休み、キラをお借りしますね☆(←もう決定)」
いつものようにキラとふたりで仲睦まじく夕食を摂っていたところに、いきなりやって来たかと思えば唐突にそんな事を宣言するニコルに、アスランは思わず持っていた箸を落としそうになる。
「ニコル? 何だ、突然…」
「いえ、ですから。明日、キラと出かけますのでアスランはお留守番しててくださいね★」
にっこり微笑み付きで言われようとも、そんな事、承服できるわけもなく。
「なんで俺は留守番なんだ…?」
「いいじゃないですか。いつもアスランばっかりキラを独占してるんですから、たまには僕にも貸してくださいよ」
そんなこと許すわけないだろう、と怒鳴りたいのはやまやまではあるが。
確かにいつも自分と一緒でばかりでは、キラは甘える一方だし(いや、それでいいのではあるが)。
ちょっとでもここ(ザフト)の生活に慣れたほうがいいだろうし。
まあ、元来キラは誰とでも仲良くなりやすい質ではあるから、今でも結構馴染んではいるのではあるが…
遊園地に行って以来、キラとニコルが仲良くなったのは正直面白くないけれど。
でも確かに、男のヤキモチはみっともないが…
ああ、でも……
うーん…
…などと。アスランがぐるぐる考えているうちに、
「じゃあ、決まりですね。キラ、また明日」
それだけ言い残し、さっさとニコルはその場を立ち去ってしまった。
「あ」
気付いた時にはもう遅く。
がっくり項垂れるアスランに、
「あの…、ごめん、アスラン。午後には戻るから」
キラが申し訳なさそうに声をかけてくる。
(こんな事くらいでいちいち気を遣わせてどうする…)
自分を叱責しながら、アスランは優しい笑みをキラに向けた。
「大丈夫、大人しく留守番してるよ」
その言葉に、ちょっと安堵の色を浮かべたキラであったが、その日の晩は、いつも以上にしっかりスキンシップをとられてしまったのだった。
…そして、今に至るのではあるが。
心なしか嬉しそうに出かけていったキラの顔を思い出し、アスランは居ても立ってもいられなくなる。
そんなアスランの心を思いっきり焚きつけるかのように、
「しかも、ニコルの家に行ってるらしいじゃんか」
ディアッカがにやりと笑って言い添える。
「何だと!?」
どうやらアスランはどこに出かけるかまでは知らなかったようだ。
(それでどうやって様子を見に行くつもりだったんだ…)
何気に冷静に観察しているディアッカであった。
そんなディアッカをよそに、アスランはまた一人で悶々としていた。
(ニコルの家だと!? なんでわざわざ家に行く必要が… まさか、部屋に連れ込んで… いいや、ニコルに限ってそんなこと… いや、待てよ。ニコルはああ見えて、何気に侮れないところがあるし、にっこり微笑みながら、何考えてるかわからないところもあるし… ああ、くそ…っ 俺のキラが……!!)
「悩んでるくらいなら、お得意の潜入捜査でもすればいいだろうが」
さすがにそんなアスランに呆れたのか、イザークが投げやりに言葉を放つ。
「そうそう、あんた機械おたくなんだしさ。人間用にミラージュコロイドでも作ってみたら?」
冗談半分で言ったディアッカに、
「いや、あれは実用的じゃなかった」
アスランが即答する。
(おいおい、実践済みかよ…)
さすがにそんなアスランに、もうかける言葉など残ってないふたりであった。
「…よし、やっぱり行こう」
そう言うが早いか、アスランは二人の存在などまるで目に入る様子もなく、颯爽と出かけて行ってしまった。
「…なんて言うか……」
その後姿を見送りながら、完全に呆れた目を向けるディアッカに、
「よし! ディアッカ、俺たちも行くぞ」
「……イザーク?」
「こんな面白そうなこと、見逃すテはないだろう?」
「………」
惚れた弱みか、NOと言えるはずもないディアッカをお供に、イザークもまたアスランの追跡を始めたのだった。
「どうぞ」
「お邪魔します」
招き入れられた部屋に入り、キラは思わず息を呑んだ。
瀟洒な造りではあるが、落ち着いた雰囲気の広い部屋で。
(僕の部屋とは全然違う…)
「どうしたんですか?」
入り口にぽけ~っと立っていたキラに気付いたニコルが、にっこり笑いながら声をかける。
「ううん、なんか、らしくていいな、って」
「なんです、それ」
くすくす笑いながら、持っていたお茶のトレーをテーブルに置く。
「ごめんね、ニコル。急にこんなこと頼んじゃって…」
「僕は全然構いませんよ。はい、これがご所望の品です」
そう言って、キラにある物を手渡す。
「アスランに直接言えばいいのに」
「だって…なんか、照れるじゃんか」
ちょっと顔を赤くしながら、渡されたものに目を通す。
「そうですか? 言えばアスラン、すっごく喜ぶと思いますけどね」
「ニコル~~~っ」
ちょっとからかい気味に言われて、キラは更に顔を赤くする。
キラが手にしているもの、それはアスランの写真であった。
「プラントに来てから、って言っても、僕が知ってるのはザフトに入ってからですけど」
「ううん、それでもいいんだ」
あの日、桜並木の下でアスランと別れてから。
すぐに会えると、また一緒にいられるのだと信じていたのに。
時は無情に過ぎ去り、運命のいたずらで敵対することになってしまったふたり。
今はまた、こうして一緒にいられるようになったのではあるが、キラはどうしても、空白の3年間を少しでも埋めたかった。
自分の知らないアスランがいるのは、正直面白くなかった。
だから、その間の彼を知る人から、色々話を聞かせてもらおうと思い、どうにかニコルに頼み込んでこうしてニコルの部屋にやって来たのである。
「でもちょっと意外。アスラン、あんまり写真撮るの好きじゃないのに、こんなにいっぱいあるなんて…」
言いかけて、キラははたと気付く。
(気のせいかな…どれもカメラ目線じゃな…い……?)
「ふふ、どうしたんですか?」
相変わらずニコルはにっこり笑ったまま、こちらを見ている。
「ううん、なんでもないよ」
そう答えたものの、キラの背中には冷たいものが一筋流れていた。
「ああ、それからあとはこれを」
そう言って手渡されたフロッピーを、パソコンにセットしてみる。
(日記…?)
読み進めていくうちに、キラの背中には幾筋も冷たいものが流れていた。
「キラ? 顔色が悪いですよ?」
「ううん、気のせいだよ!!」
そこにはアスランの1日が事細かに記されていた。
(ニコル、君って………)
「お茶飲みませんか?」
「あ、うん。いただきます」
(なんだ? 一体何を話してるんだ…?)
やきもきしながら、そんな様子を覗うのはもちろん我等がアスランである。
「ふーん? なんか楽しそうじゃないか」
イザークの言葉に、アスランがキッと睨み返す。
「うわっ いきなり振り返るな! 危ないだろっ」
どこであろう、ここは木の上。
どうにかアマルフィ邸に潜入(侵入?)した3人は、ニコルの部屋の窓に面した木の上で、中の様子を覗っているのである。
キラはニコルから渡されたらしい物を見て、嬉しそうにしている。
でもそれが何かまでは見えない。
(くっそ~ そんなにひっつくな!!)
飛び出していきたい衝動をどうにか押さえ、アスランはじっと目を凝らしていた。
(やっぱり来ましたね…)
そんな光景を当然のように想定していたニコルは、あることを思いついてキラにそっと耳打ちする。
「それ、あげますよ」
「本当!?」
キラはびっくりした顔をしたが、それがすぐに満面の笑顔に変わる。
「ありがとう!!」
そんなキラを見つめるニコルの視線は優しかった。
(何!?)
ニコルの顔が、キラの顔に近づいていき……
「!!」
我慢しきれなくなったアスランが思わず立ち上がった、その時。
「あっ」
「えっ」
「いっ」
ズシャアッ
三者三様、叫びを上げた時には、3人とも、見事に木から真逆様に落っこちていた。
ズシャアッ
「え? 何??」
外から聞こえた音に驚くキラと対照的に、ニコルはくすくす笑っている。
「母さん、お茶をあと3人分お願いします」
「………」
「悪かった、キラ」
「………」
「…ごめん」
いつもとは逆に、そこには怒るキラとひたすら謝るアスランが居た。
「大人しく留守番してるって言ったくせに…」
「う…」
「はっはっは、珍しく尻に敷かれてるな、アスラン」
そんな光景を心底楽しそうに眺めているのは勿論イザーク達である。
5人はニコルの部屋でお茶をしていた。
「もう…」
溜息を吐いて、アスランを見る。
「勝手に人の家の木になんか登っちゃダメだからね?」
「はっはっは」
「イザークとディアッカもだよ!?」
「う」
とは言うものの。
(心配してくれたんだよね、アスラン)
悪い気はしなかった。
ビーッ
部屋の内線の音が鳴る。
≪みなさん、お夕飯も食べていってくださいね≫
そこに映るのは、ニコルと面立ちの似た、優しそうな女性。
(ニコルってお母さん似だよね…)
「いえ、そこまでご迷惑は…」
「あ、折角だから、今日はうちに泊まりませんか?」
≪そうね、それがいいわ≫
「けど、ニコル…」
「いいじゃないですか、明日も休みなんですし」
ニコルの口調には、どこかしら有無を言わせぬ響きがあった。
≪それじゃあ、客室、用意しておくわね≫
「母さん、僕の部屋でいいですよ」
≪あら、それだとねニコル、お客様用のお布団、セミダブルだけど、二組しかないのよ…≫
「いえ、逆にそっちの方がいいですよ。ね? アスラン、ディアッカ」
(なんで俺たちにふるんだ ―― !?)
思わずニコルから視線を逸らすアスランとディアッカであった。
「?」
そして、キラとイザークは。
勿論、わかっていなかった…
「なんだか修学旅行みたいだね」
ニコルの部屋に敷かれた布団の中で、キラがこそっとアスランに話しかける。
ニコルは自分のベッドで。
イザークはセミダブルにもかかわらず、ひとりでほとんど布団を占領して。
ディアッカはそんなイザークに追いやられて、布団の隅で小さくなって眠っていた。
そして勿論、キラとアスランは同じ布団で。
いつものようにアスランの体温で暖をとるキラは、安心しきったように寄り添っている。
一方アスランはといえば。
いつものようにキラを抱きしめているものの。
(何もできない……っ)
なんだかとっても、針の筵な気分だった。
「…で? さっきは何を見てたんだ?」
どうしても気になって、アスランが訊いてみるが、キラは答えない。
「知りたい?」
「知りたい」
超至近距離で、(しかもとてつもなく弱い)上目遣いで見つめられて、ドキドキしながらその答えを待っていたのに。
「……内緒」
「!?」
キラはくすくす笑っている。
ここがニコルの部屋でなければ ―― というより、他の面子がいなければ、速攻躯に直接訊いたであろうアスランは、悔しそうに今にも歯軋りでもしそうな感じである。
(あー、もう。いいよ…)
ちょっと不貞腐れて瞳を閉じると、唇によく知った感触が…
「おやすみ、アスラン」
「…おやすみ、キラ」
(参った…)
思わず苦笑が漏れそうになる。
どんなにふりまわされても、キラには敵わない。
(ま、いいけどね)
おやすみなさい。
--- 2003.4.29 ---
いつもの朝。
目覚めた先には、安心しきった様子で寝息を立てている一番愛しくて大切な人の顔。
キラの寝顔をしばらく眺め、幸せに浸るのがアスランの朝の始まりである。
まだ月に居た頃、よくキラの家に泊めてもらっていたアスランは、その当時からこうしてキラの寝顔を眺めるのが好きだった。
起きているときも勿論キラは可愛いが、寝顔はまた犯罪級に可愛いのだ。
「ん…」
そんな至福の時を噛み締めていると、キラの瞼が僅かに動く。
目覚めの合図だ。
「おはよう、キラ」
「う…ん……、おはよ…、アスラ……」
舌足らずに挨拶を返す唇に、いつものように目覚めのキスをしようとした瞬間……
「キラ、起きてるか!?」
バーンっ
その声とともに、凄い勢いで扉が開かれる。
そこに立っていたのは ――
「カガリ!?」
「なっ なんでおまえら一緒に寝てるんだ!?」
「これは昔っからの習慣だ!! って、おまえこそなんでこんなところにいるんだ」
鍵は閉めてるハズなのに…と、アスランが不審に思ったのも束の間。
どこかで聞き覚えのある音声が……
≪ハロハロ、認メタクナイ、認メタクナイ≫
「『若さ故の自分自身の過ちというものは』ですわね、アスランv」
「ラクス!?」
「ふふ…、今、このピンクちゃんをわたくしにくださったこと、ものすっごく後悔してらっしゃるでしょうね☆」
(その通りですよ…)
アスランは苦虫を噛み潰したような顔で、思いっきり後悔していた。
一方、起きたばかりのキラは。
「え? え?」
まだよく状況がわかっていない。
「って、おまえらなんて格好してるんだ!? ふ、服くらい着ろ!!」
ふたりが裸なことに、ようやく気付いたカガリが耳まで真っ赤になって叫んだ。
「あら、わたくしはそのままでも構いませんわ。朝から目の保養ですわねv」
「ラ、ラクス…?」
さすがのアスランも唖然としてしまったようだ。
「とにかく! 早くなんか着ろってば!!!」
手で目を覆いながら、カガリが叫ぶ。
「カガリ様は恥ずかしがり屋さんですわね★」
さすがキラ様のお姉さまですわ、などと呟くラクスに、
「いいから! 貴女もこっち向いて!!」
カガリが腕を掴んで後ろを向かす。
突然の乱入者2人の勢いに呆気に取られながら、とりあえずアスランとキラはザフトの軍服に着替えたのだった。
「あのままでもよろしかったですのに…」
心底残念そうに、ラクスが溜息を吐きながら呟く。
どうにか着替え終り、4人は部屋の中央に置かれたテーブルで向き合っていた。
「………で?」
至福の一時を邪魔されたアスランが、思いっきり不機嫌に切り出す。
「なんで貴女方2人がこんな所にいるんですか?」
訊かれた当の本人達は、きょとんとして顔を見合わせている。
「私はキラの姉だぞ? 可愛い弟に会いに来て何が悪い」
思いっきりふんぞり返りながら、堂々とカガリが言い放つ。
「わたくしも、婚約者のご機嫌伺いに参ったのですわ(←建前)」
にっこり微笑んで、ラクスも答える。
「それに、キラ様のお顔も見たかったですしv(←本音)」
「だからって、なんでこんな朝っぱらから…」
物凄く迷惑そうに、アスランが呟くと、
「なんでって…」
「あわよくば、キラ様の寝顔を拝見できるかと思ってv」
(こ、この人達は……っ)
何とも言えない危機感を抱くアスランと対照的に、キラはなんだかよくわからない状況にただぽかんとしていた。
「てゆーかだな。なんでおまえら、一緒のベッドで寝てるんだ!?」
ちゃんとベッドは2つあるじゃないか、と思い切り不満そうにカガリが言う。
「さっきも言っただろう? あれは昔からだ」
「本当なのか、キラ!?」
凄い剣幕で訊かれたキラは、
「え? うん」
それだけしか答えられない。
「俺とキラは幼馴染なんだ。昔っからキラの家に泊めてもらう時とか、一緒のベッドで寝てたんだよ」
勝ち誇って言うアスランに、
「くっ…、け、けどな! 16の男が、なんでこの齢になってまで一緒に寝る必要がある!?」
カガリが言うが、それこそアスランの思う壺。
「それは勿論、必要があるからだ」
今度はアスランがふんぞり返って静かに言い放つ。
アスランとカガリの間に、見えない火花が飛び散っていた。
「まさか…キラの黒子の数まで知ってる、なんて言うんじゃないだろうな……」
「当然だ。昔っから風呂も一緒に入ってたんだからな。知ってるに決まってるだろう?」
ぷつん。
その言葉にカガリが思わず立ち上がる。
「カガリ?」
それまで固まっていたキラが、心配そうにカガリの顔を覗き込もうとすると、キッとカガリがおもむろに顔を上げる。
「キラ…」
「な、何?」
「風呂に入るぞ」
「………は?」
言うが早いか、キラの手を引いて、この部屋に来る前に通ってきた大浴場に引っ張っていこうとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
慌ててキラが手を伸ばす。
その手をアスランがすかさず掴んだ。
「どういうつもりだ、カガリ!?」
「私とキラは姉弟だ!! 一緒に風呂に入ってもおかしくないだろう!?」
「え、ええええ!?」
キラが真っ赤な顔してその場に踏みとどまろうとする。
それはおかしいだろう!と、アスランが言おうとするよりも早く、
「あら、でしたらわたくしもご一緒に」
「ラクス!?」
「わたくしもカガリ様も女同士、一緒にお風呂に入ってもおかしくありませんわよね?」
「キラは男です!!」
泣きそうなキラのかわりに、アスランが怒鳴り返す。
「細かいことは気にしてはいけませんわよ、アスランv」
「気にします!!!」
どうにかカガリの手からキラを奪い返したものの、アスランはまだ油断ならないとばかりにキラを抱きしめる。
「こら! キラから離れろ!!」
「嫌だ!!」
(僕ももう嫌だ……)
部屋のまわりには、この騒ぎに朝から何事かと、ギャラリーができはじめていた。
「ラクス、いいのか!? 婚約者がこんなんで」
「なんだ、その”こんなんで”って!?」
「ふふ、このままでいけば、アスランと結婚したら自動的にキラ様もわたくしのものになりますものv」
「な…っ」
アスランとカガリの声がはもる。
「わたくしのものはわたくしのもの。アスランのものもわたくしのもの、ですわ♪」
にーっこり微笑みながら、ジャイアン理論を展開するラクスに、
(侮れない…!!)
新たな(?)ライバルを認識するアスランとカガリであった。
部屋には見えない火花が飛び散りまくっていた。
「とにかく! キラは俺のものだ!!」
「ふざけたことを言うな!! おまえなんかにキラはやらない!」
「なんでおまえの了承がいるんだ!?」
「私はキラの姉だ!!」
「成人してしまえば家族の了承は必要ない!!!」
「ふふ…”漁夫の利”。もしくは”果報は寝て待て”、ですわね」
そんなこんなで三つ巴キラ争奪戦が繰り広げられる間に、
「あら…?」
ラクスがふと気付く。
「キラ様はどちらに……?」
「え!?」
「ありがとう、ニコル。助かったよ…」
「いえいえ」
ニコルに手渡されたホットココアを飲みながら、キラが溜息を吐く。
「僕、もう女の子が信じられないかも…」
あの騒ぎに乗じて、ニコルがこっそりキラを自分の部屋に避難させたのだった。
「キラはもてもてですね☆」
「~~~っ そんなんじゃないよぅ~」
心底困り果てた顔で、キラがニコルを見上げる。
(ま、みなさんの気持ちもわかりますけどね)
「また何かあったらいつでも部屋に来ていいですよ」
「本当!?」
ぱっと、キラの顔が輝く。
「ありがとう、ニコル!!」
「………っ」
…そしてここにまた、キラの笑顔にノックアウトされた人約1名。
--- 2003.5.10 ---
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真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。