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神崎廉が今まで書いてきたSS保管庫。
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いつかは、この空も飛べるかもしれない。



     +



「一騎」
どこかに向かっていたらしいその背中を呼び止める。
「総士…」
振り向きもせずに一騎が名前を呼び返した。
そんな一騎の正面に立つように、ゆっくりと歩を進める。
一騎は立ち止まったまま、そこを動こうとしない。
「…帰ってたんだ」
「ああ、ついさっき」
視線を合わせないようにしたまま、一騎が呟くようにそう言った。
「ただいま、一騎」
何かを言いかけた一騎の唇を奪う。
「ぅ…ん……」
固く閉じられた歯列をなぞるように舌で触れると、諦めたように開いた。
水音を立てて、しっかりとその舌を絡め取る。
「…は……」
なすがまま貪られた一騎の瞳は、熱に侵されているかのように潤んでいて。
本人に自覚はないのだろうけれど。
「ここ、学校…」
小声で非難めいた言葉を口にするけれど、体裁を取り繕うためだということはわかりすぎるほどわかっていた。
「…ここをもうこんな風にしてる奴が言う台詞じゃないな、一騎」
「………っ」
そっと手を一騎の下肢に伸ばす。
「キスだけでこんなに固くしてるくせに。…ここだって」
「や……っ」
素肌に直接着ているシャツの上からでもわかるほどのしこりに、そのまま歯を立てる。
「…ぁ…」
布地越しに感じる唇や舌の感触がもどかしいのか、知らず一騎は猛った己をこすりつけるように腰を動かしていた。
「僕がいなくて寂しかった?」
「…んな…こと……っ」
「…それとも、剣司あたりにでも相手してもらってた?」
「違…っっ」
言葉と躯と、両方弄びながら、すっとズボンに手を差し入れる。
なんの前触れもなくいきなり指を2本挿れると、一騎はびくんと背中を仰け反らせたけれど、それでもすんなりと呑み込んで。
「準備する必要、なかったかな」
「…ぁ、あ……っ」

蝉が鳴いている。
しっかりと咥え込んだそこから洩れる水音も、唇を噛みしめて耐える口元から微かに洩れる嬌声も、互いの息遣いも、すべて掻き消してしまうくらい。
太陽がアスファルトを灼く音。
風が夏草を揺らす音。
夏の音が、すべてを覆う。
このちっぽけな楽園を。
造り物の箱庭を、造り物の音が包んでいた。

「…ん……ぅ…っ」
堪えきれないとばかりに、一騎の口から呻きが洩れた途端に、今まで以上に締め付けてくる。
びくんと体を震わせて、くの字に体を折り曲げる一騎を支えるように、腰を抱く腕に一層力を込めて。
己もまた、その熱を一騎の内に吐き出した。
一騎はまだ、荒い呼吸を繰り返しながら体を震わせて。
宥めるように。
自分自身も、宥めるように。
その背中を。
その、体を。
ぎゅっと、抱きしめた。

たとえ、ここが造られた楽園でも。
たとえ、この蒼が造られた空でも。
君だけは、本物だった。

(一騎…)

知らなければよかったと思うことなど、本当はたくさんあって。
僕が、君を閉じ込めていたように。
僕もまた、この造り物の楽園に閉じ込められていて。
そしてきっと、その檻の扉は抉じ開けられるのだ。

(もうすぐ…)

きっと、もうすぐ。
その扉は開かれる。
……望まなくとも。

もう一度、その温もりを確かめるように、抱きしめる腕に力を込めて。

(きっと)

誰にも捕らわれずに、自由に飛べる。
本当の空を、飛べるから。

--- 2004.7.6 ---

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なんで俺たち、こんなことしてるんだろう ―― …

それは幾度として抱いた疑問。
でもすぐにそれは、快楽の渦に飲み込まれて。
窓から差し込む夕日に、ちらちらと舞い上がった埃が反射していた。
ぼんやりとそれを目で追う。
薄暗い体育倉庫の中は、微かに黴臭い。
積み上げられた飛箱に抱きつく形で総士を受け容れていた。
何度目だろう。
もう数えるのもやめてしまった。
理由を問うたこともない。
疑問は、口にすることはなく、いつも互いの熱に掻き消されて。

「…何考えてる? 一騎」

耳元で囁く声は、昔からよく知っている。
答えるのも億劫で、首だけ回してその顔を視界の端に捉えると、総士は口元に笑みを浮かべてじっとこちらを見ていた。
「…東京に、行くことになった」
(東京?)
声には出さずに唇の形でそう繰り返すと、ゆっくりと頷いた総士の唇に塞がれて。
すぐに離れた唇が、言葉を続ける。
「羨ましい?」
「…別に」

東京 ―― 日本の首都。
それは即ち、ここ、竜宮島の外ということ。
外の世界。
生まれてからこれまで、この島のこどもたちは、この島から出たことはない。
限られた世界。

(衛か甲洋あたりなら喜びそうだな…)
興味がないわけではない。
―― ただ、
億劫、なのかもしれない。
閉じられた世界から出ること。
安寧から脱け出すこと。
変化はなくとも、そこには平穏があるから。
(だから…?)
だから、敢えて疑問を口にしないのか。

なんで、俺たちは……

「ねえ、一騎」
突然、総士の声が頭に響く。
いつの間にか、思考の海に沈んでいたらしい。
「シャングリラ、って知ってる?」
唐突に突きつけられた問いに、まだ頭がついていっていない。
どこかで聞いたことがある気はした。
けれど、ゆるゆると頭を振った。
「昔の人が書いた話に出てくるんだ。理想郷、ってやつ」
理想郷、或いは桃源郷ともいう。
万人が憧れるであろう、その地。
「一騎は、あると思う?」
「…わからない」
あるのだろうか。
本当に、そんな場所が。
「行ってみたい?」
「……わからない」
わからない。
本当にそんな場所があるのか。
あったとして、本当に自分はそこに行ってみたいと思うのか。
わからない。
どうして、突然。
そんな問いかけを発したのか。
「…連れていくよ」
ぽつりと、総士が呟いた。

「連れていく」

君が、望むなら。


ところどころ埃で汚れた服を拾って身につける。
総士は既に日が翳った小窓の向こうをじっと見つめていた。
「どれくらい、行くんだ?」
思わず口にした問いに、総士がゆっくりと振り返る。
「寂しい?」
「……別に」
素っ気無い答えに、わざとらしく肩をすくめながら苦い笑いを一つ漏らして。
「多分…1ヵ月、くらいかな」
1ヵ月後。
その頃にはこの島は、すっかり夏一色に染まっているだろう。
「総士…」
「何?」
(総士は…)

あると思う?

何故か、訊けなかった。
訊いちゃいけないと思った。


その時漠然と感じた胸の奥にわだかまる靄のような焦燥感も、この空の蒼さに飲み込まれて。
この閉じられた世界で。
この蒼さが、ずっと続くのだと思っていた。



―― 連れていくよ。
たとえ君が、望まなくとも。

--- 2004.7.12 ---

背後から聞こえる空気の抜けるような音が、浅い眠りを破る。
けれど、扉の前にいる人物は、一向にそこから動く気配がない。
そして自分もまた、椅子に体を預けたまま、瞳を閉じたままでその人物に呼びかけた。
「中、入らないのか? 一騎」
「あ、…うん」
小さくそう言うと、その人物は躊躇いがちに中に足を踏み入れた。
ようやく扉がまた空気の抜けるような音を立てて閉まった。
おずおずと自分が身を委ねる椅子のすぐ後ろにまで一騎が来ると、ようやく総士はそちらに顔を向けた。
「…よく、わかったな。俺だって」
「そりゃ、ね」
視線を逸らしながら素直に抱いた疑問を口にする一騎に、微笑いながら短くそう答えると、一騎は怪訝な顔をしたけれど。
それには一向に構わずに、今度は総士が一騎に問いかけた。
「一騎こそ、どうしたんだ?」
「あ、いや…」
はっとしたように顔を上げて、けれど気まずそうに一騎は俯いた。
それから聞こえないくらいの小さな声で、
「…家、帰らないのか?」
そう、ぽつりと呟いた。

『家には戻られないんですか?』

「帰っても、もう、誰もいないから」
乾いた口調でそう答える。
その言葉に、瞬間周りの空気が変わった気がした。
理由はわかっていた。
視界の端に、一騎の拳が固く握り締められるのが映る。
その光景を、薄い笑みを浮かべて眺める自分がどこかにいた。
また、縛ろうというのか。
”罪悪感”という、鎖で。
無意識のうちに、そっと左の瞼に走る傷痕に触れていた。
―― 滑稽だ。
「一騎は…どうするんだ?」
「え…?」
「もう夜も遅い。いつまでここにいる気だ?」

『貴女はどうするんですか。まだここにいる気ですか?』

先刻、現国教師(表向き、だが)と交わしたのと同じ会話を繰り返す。
ただ、徹底的に違うのは。
その根底に横たわる、感情。
そこに、冷たさを含ませるか。
温もりを、感じるか。
同じことを言われても、不快感など微塵も感じられない。

「総士が…」
「…?」
「総士が泣いたら、帰る」
全く思いもよらなかった言葉を返す一騎の顔を、思わずじっと見つめると。
何かに耐えるように眉根を寄せながら、けれど強い視線でこちらを見ていて。
まるで、心の奥底まで見透かすような。
「何…を」
滅多にないことではあるが、戸惑いがちに聞き返そうとすると、それを遮るように、
「総士が泣いたら、帰るから」
一騎がもう一度繰り返した。
「一騎…?」
「総士、泣きそうな顔してるから」
「……っ」
ぽつりと呟いた一騎の方が、泣きそうな顔をしていた。
けれど。
「泣かないだろ、総士は。そんなに泣きそうな顔してても。…だから」
「………」
それでも。
一騎の言葉は、そのままゆっくりと体の奥底まで沁みこんでいくようで。
ふいに頬に感じた温もり。
一筋だけ、流れた涙。
それは思いもよらぬもので。
けれど確かに、伸ばした指に触れた雫。
それは言葉もなく、静かに流れ落ちていった。
(…そう、か)

―― 僕は。
悲しかった、のか。

じっとこちらを見つめていた一騎が、ふっと表情を和らげる。
その瞬間に、その場を覆っていた空気さえ、和らぐような。
「…じゃあ、俺帰るから」
自分の役目は果たしたとでもいうかのように、清々しい声で一騎がそう言った。
「ほら、帰るぞ、総士」
「…え?」
けれど、続けた言葉はまた思いもよらぬことで。
「ほら、さっさとしろって。早く帰らないと日付変わっちまう」
「………」
「うまい飯食わせてやるから。…って、総士?」
あまりの展開についていけず、唖然としていると、一騎は何を勘違いしたのか、
「あ、俺の料理の腕前信用してないだろ。これでも結構うまいんだからな」
「いや、それは知ってるけど…」
そんな見当違いのことを言ってくる。
「うまいもん喰ったら、結構落ち着くって」
どんな時でも腹は減るんだし、と言われて。
その時になって、ようやく今日はほとんど何も口にしていないことに気がついた。
「だから、帰ろう?」
そう言いながら、差し出された手と笑顔。
その笑顔は、かつてはよく知っていたもの。
そしてまた、自分が一騎から奪い去っていたもの。
この左目の傷痕と引き換えに。
(それでも…)
それでもまだ、一騎は与えてくれる。
差し出された手に、そっと自分の手を重ねる。
指先から伝わる温もり。
握りしめた手は、暖かかった。
その笑顔と、同じように。

--- 2004.7.23 ---

静かに近づいてくる気配は、昔から馴染みのあるもので。
浅い眠りに陥りかけていた体を、ゆっくりと呼び起こす。
薄暗い部屋の中、瞼を開けた先には、やはり思った通りの相手がいた。
「総士…」
「あまり関わらない方がいい」
唐突に切り出された言葉。
抑揚のない、冷めた口調。
「もう、友達のままではいられないんだ」
冷たい棘を含ませたような言葉の裏に、一切の感情を読み取れない。

―― じゃあ、俺たちは?

「……ぅ…」
「苦しいなら、声、出せばいいのに」
濡れた唇が、僅かな光に反射して弧を描く。
覆い被さった総士が囁く度に、耳元で遊ぶ吐息が躯をまた震わせる。
唇を引き結んで、次から次へと押し寄せる感覚を必死に耐えながらゆるゆると頭を振ると、
「ふーん…?」
「……っ…ぁ、…っ」
それまでの緩やかな動きとは一転して、シートがぎしぎしと音を上げるほどに激しく律動を始めた。
「…ぁ、…だ、誰か来たら……っ」
否が応でも上がる息の合間に訴えかけてみても、その動きが止まるはずもなく。
「…こっちは、そんなこと言ってないみたいだけどな、一騎」
「…ふぁ……っ」
一際強く突かれた途端、思わず洩れた嬌声と。
はだけられた自分の肌に感じる、自分の熱。
そして。
躯の奥に放たれた、総士の熱。
麻痺してしまったような頭の中で、それでも先程の総士の言葉が木魂していた。

『友達の、ままでは……』
―― ならば、自分たちは。
自分と、総士は。

霞んだ視界の先に、じっとこちらを見つめる総士の顔があって。
そして、その左の目に走る、古い傷痕。

…そう、本当は。
あの日から、もう……

ずきん

受け容れたそこから感じる鈍い痛みとは別の、痛み。

けれど。

「一騎…」
名を呼びながら触れてくる唇は、その痛みを煽り。
けれど、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音を立てながら再び開始された律動に、掻き消されていく。
ファフナーに乗るよりももっとずっと前から始まった関係。
その真意は、わからないまま。
ひとつになるということ。
(けど…)
この行為すらも、”今”のためだったのか。
ファフナーを駆り、戦うために。

ずきん…

(え…)
そう考えた途端、胸に走った痛みは。
今まで感じていた痛みより、強くて。
(な、んで)
痛みは、体を巡る血液と同じように、体の中を駆け巡っていくようで。
「総、士……っ」
少しでも紛らすように、背中に感じるシートに喰い込むほどに爪を立てた。

今はまだ知らなくていい。
今はまだ、知りたくない。
この胸に走る痛みを。
この行為の意味を。

『もう……』

今は、忘れよう。
すべて、この胸の奥深くに沈めてしまおう。
今は、この非日常の風景に埋没すればいい。

今は、ただ ――

--- 2004.8.8 ---

この蒼穹に、飛び散ったもの。
約束。
命。
涙。
たくさんの破片が、胸を刺して。
切り裂いていく。
心を。
想いを。
何もかも。



     +



マークエルフを降りて、走ってその姿を探した。
人気のない、通路。
その一番奥、明かりも届かないような、場所で。
「総士…っ」
掴みかかるように、その体を壁に押し付ける。
総士は、何も言わない。
「どういう…ことだよ……っ なんで、翔子が…!?」
体も弱く、学校も休みがちで。
昨夜だってそうだ、病室に見舞いにだって行ったのに。
「総士…!!」
(なんで…)
何故。
けれど、理由は。

『私は、あなたの帰るところを守ります』

唇を噛みしめる。
そう、約束したから。
だから、翔子は……

「一騎…」
その声に、はっと顔を上げる。
先程までの無感情とも取れる表情に、微かに滲む哀れみと。
必死に隠そうとしている、哀しみ。
なぜか、そう思った。

『あまり関わらないほうがいい』

(あ…)
理不尽な言葉だと思った。
けれど、本当は。
(俺の、為……?)

戦うということ。
守るということ。
助けるということ。
それには、何らかの代償があって。
その度、この心が傷つかぬように。

「………っ」
それでも。
涙は溢れてくる。
思い出。
言葉。
約束。
笑顔。
哀しみ。
憤り。
いろんなものが、溢れ出して。
ひとりでは抱えきれずに。
総士の体を壁に押し付けたまま、その胸に顔を埋めた。
総士は黙ったまま、そっとてのひらを背中に添えて。

卑怯だと思う。
総士はこうして、自分の哀しみも憤りも、すべて受け止めてくれるのに。
自分はただ、ぶつけるだけで。
総士には、泣く場所も、怒りをぶつける相手もない。
それが、上に立つということ。
それでも自分はこうして甘えている。
気付かない、ふりをして。

『必ず帰ってきてね』
遠くで響く約束。
その声は、もう、あまりに遠い。

ただ、背中に感じる総士の手の温もりだけが、現実味を帯びていた。

--- 2004.8.17 ---

シナジェティックスーツ越しに触れる指先から伝わる熱。
触れられる度、そこから生まれる熱で火傷しそうになるくらいに、熱い。
「いつもより感じてる、一騎」
耳元で囁かれるのも、戦闘の時と同じ。
ただ、違うのは。
そこに確かに、温もりを持った実体があるということ。
「やっぱりシナジェティックスーツ着てるから、かな」
僕と脳内でも繋がってるからね、と言うけれど。
(何言ってるんだ…)
ジークフリードシステムは働いてないじゃないか。
ぼんやりとした頭でそんなことを考える。
シュミレーター用の擬似コクピットの中。
その狭い空間に、本来ならいるはずのない相手が目の前にいて。
そこに充満するのは、衣擦れの音と、通常より熱を増した、互いの息遣い。
その息と、総士の長い髪とが、僅かに露わになっている素肌に触れて。
そこからまた新たに生まれる熱。
全身でその熱に翻弄されながら、それでもやはりわからない。
(何、考えてるんだよ……)

ジークフリードシステムとファフナーは、搭乗者が脳の皮膜神経で繋がっている状態になる。
まるで、自分の考えも何もかも、すべて総士には見られているようで。
けれど、自分からは総士の考えがわからない。
それは、本来わからないものなのかもしれない。
もしくは、総士が遮断しているのかもしれない。
どちらにしろ、戦闘の時も、今も、そう。
総士が何を考えているのか、わからなくて。

「…ぁ……」
休むことなく這い回る総士の指で、すでに躯は余すところなく熱を帯びていた。
それは、躯の奥も同じ。
今以上の刺激を欲して、無意識のうちにもどかしげに腰を揺らしていたらしい。
「もしかして、強請ってる? 一騎」
楽しそうな総士の声が耳元でするのと同時に、猛った己を爪で引っ掻くように、スーツ越しに撫で上げられる。
「……っ、あ…」
思わず震わせた躯。
そして。
ずらしたスーツの隙間から捻じ入れられた総士の熱。
「あ…ぁ、…っ……」
それは、認めたくなくても待ち望んでいたもので。

いつからこの躯はこの痛みに慣れてしまったのだろう。
痛いけれど、 ―― 甘い。
こんな感覚、知らなかったのに。

「どうした、一騎。…挿れただけで達きそう?」
先程よりあからさまに質量を増した自身から溢れ出るもので、スーツに染みを作っていた。
「いいよ、達っても」
そう言うや否や、いきなり最奥を穿たれて。
「………っ」
迸らせた白い熱が、ツ…と肢を伝っていく。
「…ふぁ……ッ」
開放感に酔いしれる暇もなく、達ったばかりの躯の内の総士は容赦なく動き続けて。
内壁を擦られる度に、躯中に痺れが走る。
激しさを増す動きに、それでもこの躯はついていく。
そうして何度も、コクピットに熱を撒き散らした。

荒い息を吐きながら、無造作に投げ出した手に触れた計器は僅かに曇っていたようだった。
「このスーツ、もう使い物にならないな」
襟元を整えながら、総士が白濁にまみれたシナジェティックスーツを見下ろしてぽつりと呟いた。
だからと言って、別段悪びれた様子も見せず、その顔には余裕そうな笑みさえ浮かべて。
「まあ、これくらい安いものだろう」
よりパイロットと一体化して、戦闘で成果を上げるには。
言外に含まれる意味を感じ取った瞬間、ぼんやりとしていた頭にカッと血が昇るのがわかった。
(……なら)
思わずついて出た言葉。
「…なら、他の奴等とも、するのか……」
他のパイロット候補とも。
躯を繋げるのか。
すべて、ファフナーのために。
「だとしたら?」
間髪入れず返ってきた言葉。
それは、どこか冷たさを含んで。

ずきん

「……っ」
昇った血が、今度は急激に凍りついてしまったかのようだ。
言葉が出ない。
体が、まるで鉛でも飲み込んでしまったかのように重かった。
「…俺、着替えてくるから」
震える唇で、それだけどうにか言葉にして。
力の入らない体を叱咤するように、シートから起き上がった。
下腹部に感じる鈍い痛みよりも、他のどこかが痛んだけれど。
それを振り切るかのように、もつれた足で逃げるようにロッカールームに向かった。



     +



覚束ない足取りでロッカーに向かう一騎に、思わず差し出そうとした手を下ろして。
ただ、その背中を見送りながら、誰にも聞き取れないくらいの声で、呟いた。
「そんなわけ、ないだろう…?」
そんなこと、あるはずもない。
一騎以外の相手と、躯を繋げるなどと。
たとえそれが、この島を守るために必要なことだったとしても、それでもそれだけはできない。
一騎は知らない。
この行為の意味も。
自分の本心も。
知ったらもっと軽蔑するだろう。

一騎しか、要らない。

この島だって。
君がいるから、楽園になる。



     +



幸い、ロッカールームには誰もいなかった。
ほっと安堵の息を吐いて、そのままずるずると扉に背を預けて、膝を抱えるように座り込んだ。

ずきん

(まただ…)
体のどこかが、痛い。
言いようのない、痛み。
そして。
「………」
思わず溢れ出した涙。
理由なんて知らない。
けれど、声も上げず、ただこの頬を伝うに任せていた。
どれくらいの時間をそうしていたかわからない。
のろのろと体を起こし、自分のロッカーのドアを開けた。
いつもの私服に着替え終わり、ふと見たドアの裏に備わった鏡の中に映る自分は。
「…ひどい顔してるな、俺」
虚ろな瞳で、心なしか目尻が赤い。
思わず自嘲的な笑みを浮かべようとした、その時。
ふいに感じた、視線。
振り向いた先には、いつの間に来たのか総士が立っていた。
「………」
思わず顔を背け、ロッカールームを後にしようとした背中に、総士が手を伸ばす。
「…触るな……っ」
自分でも驚くほどの剣幕で、振り払った腕。
総士は少しだけ、驚いたように目を見開いて。
(あ…)
ちくり
胸に這い登る罪悪感。
「……っ、…ごめん」
微かな声で謝罪の言葉を口にして、その場で一騎は項垂れた。
ぎり…
握りしめた拳と、噛みしめた唇。
そのどちらも、痛みは感じない。
それほどまでに、体のどこかに走る痛みの方が、酷くて。
「ん…ぅ…」
ふいに上向かされた顔に触れる唇。
それは、嫌になるほどによく知ったもの。
「そんなに噛みしめたら、傷になる」
舌でその痕をなぞって、再び唇を塞ぐ。
無意識のうちに、総士の背中に回していた腕。
そして、無意識のうちに、ぎゅっとその服を握り締めていた。
まるで、縋るように。
総士の腕の中で、齎された安堵。
そして同時に、新たに生まれた痛み。
それはまるで、胸の奥が軋んでいるかのような。


この胸の奥で燻る痛みも。
流した涙も。
生まれる、熱も。
ひとりでは、抱えきれずに。
理由など知らない。
理由など、知りたくない。
今は。
見上げた先に広がる蒼に、呑まれたままでいい。

--- 2004.9.4 / 【初出】総一・一総15禁アンソロ『見果てぬ夢幻』 ---

蜩が鳴いている。
その場を支配する音は、ただそれだけ。
夕暮れの朱が、境内を染めていく。
夏も、終わりが近い。
ぼんやりした頭で、そんなことを考えながら。
それでも頭を占めるのは、唯一人のこと。
(そういえば…ここ、だったんだよな)
すべての始まり。
目の前にある老木で。
幼き日の過ちも。
そして。
(初めて…したのも)


あれは、そう。
学生服を着ていたから、丁度中学の入学式の日だ。
島の中学校は普段は私服だけれど、入学式や卒業式の時だけは学生服の着用が義務付けられる。
だから、あの日は春だった。
どういう経緯でここにふたりで来たのか、もう覚えていないけれど。
確かにここで、初めて躯を繋げた。
どうしてそうなったのかも、よくわからない。
よくわからないけれど、ただ痛くて。
ひたすらその痛みに耐えようとしたことだけ、覚えている。
だってきっと、自分が傷つけた時の方が、痛かったと思うから。
だから。
ただひたすら、その痛みを我慢した。
あの幼き日の、過ちの代償として。
それからずっと、続けた関係。
幼馴染としてでも、親友としてでも、ない。

『僕に必要なのは、この左目の代わりになるものだけだ』

ずきん

(なんで…)
わかっていたはずだ。
何を、今更。
自分が奪った、総士の左目。
その代わりとして、総てを捧げようと思った。
だから、ファフナーにも乗った。
わかっていた。
…それなのに。

ずきん

何故、こんなに痛い。
心が、悲鳴を上げるように。

『ファフナーと俺たち、おまえにとって、どっちが大切なんだ?』
『ファフナーだ』

ずきん

先程の会話を反芻する度。
(な、んで…)
総士の言葉が、頭の中でこだまする度に。

ずきん

『一騎』

―― すべて、錯覚だった?
「信じろ」と言った声も。
ファフナーの中で、交わした言葉も。
……繋がる時に、囁かれた名前も。

どくん

『一騎』

その時の声を思い出しただけで、躯の奥が一瞬にして熱くなる。
低い、情欲に掠れた総士の声。
自分だけが知っている、声。

どくん どくん

鼓動が速くなる。
総士の声が、耳元で低く名前を囁く。
たった、それだけのことなのに。
(こ、んな…)
躯の奥で燻り続ける熱に、思わず背中を折り曲げる。
背筋を走り抜ける痺れに、耐え切れずに。
震える指で、ズボンに手をかけた。
ジッパーを下ろす音だけが、いやに耳についたけれど。
そうして触れた己は、固さを増して。

『一騎』

絶えず耳元に、いるはずのない総士の声を聞きながら。
「…ぅ…、…ふ……ン…っ」
手は休むことなく動き続ける。
まるで、総士が自分にするのと同じように。
考えるまでもなく、覚えこんでしまっている通りに。
「ぁ…、総…士……ッ」
名前を呼んだ途端、びくんと躯を震わせて。
荒い呼吸を吐きながら、手の中に吐き出した白い熱をただぼうっと見ていた。
こんな場所で、罰当たりなことをしていると、朦朧とした頭の片隅で思いながら。
それが、生理的なものだったのか、それとも他の理由からかはわからなかったけれど。
目尻に浮かんだ雫が、一筋だけ、弧を描いて滑り落ちていった。



     +



いつからだろう。
靴音だけで、その相手だとわかるようになったのは。
このリノリウムの床の音も、覚えてしまった。
そう、この場所でも。
地下深くに眠る、このアルヴィスでも、幾度となく躯を重ねたから。
だから。
通路の陰から、そっと身を現して。
正面から歩いてくるその姿を、真っ直ぐに捉えた。
総士の足が止まる。
その表情は、硬く。
何の感情も、読み取れない。
(いや…)
そんなことはない。
たとえ、他の誰がそうであったとしても。
自分だけは。
(わかる、はずだ)
まるで、睨み合うかのように視線を絡ませて。
それから徐に、一騎は歩を踏み出した。
真っ直ぐに。
総士の胸倉を掴んで、体を引き寄せる。
そして、そのまま口付けた。
貪るように。
瞳も閉じぬまま、総士はされるがままで。
応えようとしない総士に苛立つように、一騎は自ら舌を差し入れた。
綺麗な歯列が触れる。
それを抉じ開けるように、深く深く口付けて。
「…ん…ぅ……」
ようやく絡ませあった舌が、ぴちゃぴちゃと水音を立てる。
自分から仕掛けておきながら、口付けだけで砕けそうになる腰を必死に支えた。
長いキスを終えて、離した唇を繋ぐ糸が銀色に煌いていた。
「…どうした、一騎。もう終わりなのか?」
人気のない通路に冷たく響く、総士の声。
(違う…)
間違えないように。
じっと、視線を逸らさず総士を見つめて。
「終わりじゃない」
震えそうになる声を、ぐっと抑えつけるように口を開いた。
それを聞いた総士が、口元だけで笑う。
「……望み通り、抱いてあげるよ。一騎」
そう言うや否や、ぐいっと一騎の体を抱き寄せ、先程とは比較にならぬほどの勢いで唇を奪った。
(総士)
いつからだったろう。
この行為に、痛み以外の感覚を覚えたのは。
「ぁ…、あ、……は…」
抱え上げられた腰が、がくがくと揺れる。
総士の背中に回した手で、滑り落ちないようにぎゅっと制服を掴んでいた。
荒々しく抽送を繰り返される度に、言いようのない快感と、そして。
…寂しさが。
「総、士…」
全身を駆け巡るその感情に負けないように、名前を呼ぶと。
僅かに総士は目を瞠って。
「………一騎…」
小さく名前を呟いて、更に奥まで繋がるように、一騎の腰を深く引き寄せた。
「…あ、ぁ……っ」
同時に放った互いの熱を、内と外とで感じながら。
荒い息を吐きながら、そっと総士の制服を握り締めた指を解こうとすると、
「え…、……っ」
繋がったまま、反転させられた体を壁に押し付けられた。
火照った体に、壁の冷たさが必要以上に感じられて。
その温度差に、思わずびくんと体を震わせた。
「そ、総士…?」
「自分から誘ったんだ、これくらいで音を上げられたら困る」
「ひ、ぁ……」
乱暴に再開される律動は、それでもすぐにこの躯を煽り立てていく。
内を掻き回される度、崩折れそうになる膝を支えるように、壁についた腕に必死に力を込める。
繋がった部分から漏れる水音に混じって、ふいに頭に響いてきた声。

『僕に必要なのは、この左目の代わりになるものだけだ』

それでいいと、思っていた。
総てを差し出せば、贖えるのだと。
けれど。
(違うんだ、きっと)
それでは、ダメなのだ。
償っていたつもりだった。
けれどそれは、逃げていただけ。
総士の心。
そして、
自分の心から。
(総士は…)
どんな想いで、自分を抱くのだろう。
自分は。
どんな想いで、総士に抱かれるのだろう。

何度も熱を吐き出しながら、繰り返し思う。
力の入らない手を伸ばして、そっと総士の前髪を掻き上げる。
うっすらと額に汗を浮かべた総士もまた、同じように荒い息を吐いていた。
その左目に走る、古い傷痕。
それをなぞるように、唇を寄せて。
「一騎?」
この、傷痕に。
縛られていたのは、どっちだろう。
縛られた振りをして、縛っていたのは ――

「一騎……」
遠のく意識の中で、聞こえた総士の声は。
か細く、そして。
霞む視界に映った顔は、歪んでいた。
まるで。
今にも泣き出しそうな、子供のように。



     +



「何処に向かうんですか?」
「新しい楽園よ」

『楽園だよ』

あの日 ―― フェストゥムがこの島を襲った日。
自分たちは何処に行くのかと尋ねた時、確かに総士は言った。
”楽園”だと。
(総士…)
外の世界で、総士は何を見たのだろう。
そして。
ひとりで、何を抱えたのだろう。
(俺は……)
”外の世界”――
この目で見れば、わかるだろうか。
知ることができるだろうか。
……共に、歩いていけるだろうか。
(迷うな)
自分で決めたことだ。
何を見ることになろうとも。
失えない、もののために。

―― だから。

今は、脱け出そう。
与えられた楽園を。
……ひとりで。

本当の、楽園のために。

--- 2004.9.27 / 【初出】総一合同誌『融合~ほんのう』 ---

おかしい。
絶対おかしい。
なんで…
なんでこんな事になってるんだよ!!

「一騎のここ、ほら、物欲しそうにひくひくしてる」
「ちが…っ」
「何が違うんだ?」
楽しそうにそう言いながら、総士の指が、一騎の秘所の周りをなぞるように一周する。
「ひぁ…っ」
思わず背中が仰け反る。
そんな姿に、総士は意地悪そうな笑みを浮かべて。
「躯はこんなに素直なのにね、一騎」



すっかり日も暮れた教室の中。
いつもなら居残って課題をやっている剣司や衛の姿も今日は見えない。
そして代わりに、珍しく残っているのは総士と一騎だけで。
「なあ、本当に手伝わなくてもいいのか? 総士」
「ああ、もう終わるから大丈夫だよ。一騎」
ファフナーの指揮を執っている所為もあり、学級委員としての仕事も少なからず溜まってしまっていたらしい。
どれも急ぎのものというわけではないようだけれど、できる時にしておかねばいつまたフェストゥムが襲ってくるとも限らないから。
だから教室に残って仕事をして帰るという総士に、一騎も一緒に残ると言い張って。
多少でも手伝えることがあれば、手伝う。
そうすれば、少しでも早く帰れるから。
戦闘がない時くらい、ゆっくりする時間があってもいい。
そうでもしないと、総士は休みもしないだろうから、などと。
一騎は一騎なりに色々考えていたのだが。
当の総士は、自分の仕事だから、と一騎の申し出をやんわりと断って。
だからと言ってひとりで帰るのも何だったから、一騎は総士の仕事が終わるのを待つことにした。
終わってから一緒にスーパーに買い物にでも行って、晩御飯くらいは一緒に食べようかと、そう思って。
けれど、その考えがそもそも間違いだったと、一騎は知る由もなかった。
総士が机に向かっているのを、前の席に座って頬杖をついてぼんやりと眺めていると、ふいに総士が顔を上げて。
思い切り目が合ってしまった。
なんとなく、バツが悪い。
何故か少しだけ自分の顔が赤い気がするけれど、ふいっと視線を逸らして。
「お、終わったのか? 仕事」
ちょっとどもりながら、取り繕うようにそう訊いてみると。
「うん、あとひとつで終わるから」
そう言いながら、なぜか総士が席を立つ音が聞こえてきて。
「総…」
気付いた時には、机の上に押し倒されていた。
「そ、総士!? 何…、んぅ…っ」
覆い被さってきた総士が、無理矢理唇を塞ぐ。
「ちょ…、総士! おまえ…っ」
「何? 一騎」
息苦しそうに文句を言う一騎に、総士は満面の笑みを浮かべて。
「仕事終わってないんだろ!?」
「だから、これが仕事」
「はあ!?」
そうしてまた唇を重ねてくる。
初めてではない。
初めてではない、けど。
(ここ、教室だろーーーっ!?)
一騎の心の叫びを知ってか知らずか、総士は一騎の口腔を貪りながら、躯を弄りだして。
「待っててくれた一騎にご褒美をあげるのも、俺の仕事だろう?」
「な、何馬鹿なこと言ってるんだよ!!」
仕事っていうより愛だけどね、などとしゃあしゃあと言いのけながら、手は休みなく一騎の躯を弄って。
「……っ」
シャツの中を這い回っていた指が、的確にそれを捉えた。
「一騎、ここ、弱いよね」
すでに固くしこっていたそれを、爪で弾いて。
「ほら、ちょっと触っただけなのに、こんなにピンと立ってる」
確かにそれは、シャツの上からでもくっきりと形がわかるほどで。
「舐めて、ってことかな?」
「な…っ」
総士の手が、一騎のシャツをたくし上げる。
赤く色づいたそれを、軽く口に含んで。
「…ぅ……」
舌先で転がして、吸い上げる。
もう片方も、指で摘み上げながら。
「声、出してもいいのに」
その合間に、総士が楽しげに囁く。
言葉と一緒に吐き出される息でさえ、刺激になって。
否が応でも、躯の奥から火照ってくる。
露出させられた肌は、すでに汗ばんでいた。
「馬鹿、言うな…っ」
声など出せるわけないじゃないか。
ただでさえ恥ずかしくて、普段する時でさえ、あまり声を上げないようにしているというのに。
「馬鹿なことじゃない。一騎の声、聞きたいんだ」
「ぁ…は……っ」
そう言うや否や、胸を弄っていたはずの手が、下肢に伸びて。
ズボンの上から、既に固くなったものを撫で上げた。
(油断、した……っ)
思わず口に手を当てたけれど、もう後の祭りで。
胸にばかり意識が集中していたから、突然の刺激に無防備になっていた。
「もうこんなに固くしてるんだ。…いやらしいな、一騎は」
それはこっちの台詞だ…、という叫びも声にならない。
何かを言おうとしても、それはきっと言葉にならず、総士を喜ばすだけだ。
大体、さっきからずっと、太腿に固くなった総士が当たっているというのに。
「けど、感じてる証拠、か」
そう言うと、器用に片手でベルトを外して総士の手がズボンの中にまで侵入してくる。
「…ふ、ぅ…」
けれど、直接触れることはせずに、焦らすように内股を這い回るだけで。
その動きに我慢できないというかのように、先端から溢れ出した蜜が下着に染みをつくっていた。
「どうしたんだ? 一騎」
わかっているくせに。
総士はじっと見下ろしたまま、その手はやはり肢を撫でまわるだけで。
思わず唇を噛みしめて、その緩い刺激に耐える。
瞳に僅かに涙が滲んだことも、自分で気付いていた。
「仕方ない、か」
やれやれと溜息を吐きながら、総士がそう呟いたかと思うと、徐にズボンごと下着を下ろされて。
突然外気に触れた自身がふるっと震えた。
「今日は苛めるのが目的じゃないんだった」
(”今日は”、って……)
つっこみを入れようとした瞬間、温かい感触が覆う。
確かめる必要も無い。
総士が口に含んで、愛撫していた。
「いっぱい溢れてくるよ、一騎? こんなんじゃ間に合わないかな」
「ば…っ」
総士の舌が、キモチイイ場所を隈なく辿って。
とどめとばかりに一番弱い場所を吸い上げる。
「あ、ぁ……っ」
思わず総士の口に全部を吐き出して。
総士はそれを、一滴も零さずに飲み干した。
「いっぱい出たね、一騎。…昨日してないから、かな?」
「~~~~~っ」
嬉しそうにそんなことを言いのける総士が憎らしい。
「あとは…」
「!?」
まだ開放感に酔いしれていた頭が、一瞬にしてクリアになる。
「ここ、か」
突然脚を持ち上げた総士が、その場所をじっと見つめて。
「一騎のここ、ほら、物欲しそうにひくひくしてる」
「ちが…っ」
「何が違うんだ?」
楽しそうにそう言いながら、総士の指が、一騎の秘所の周りをなぞるように一周する。
「ひぁ…っ」
思わず背中が仰け反る。
そんな姿に、総士は意地悪そうな笑みを浮かべて。
「躯はこんなに素直なのにね、一騎」
内股に、いくつもキスを降らせていく。
黄昏のオレンジに染まる、総士の髪。
物凄く憎らしいのに、それでも物凄く、その姿を愛しいと思う。
(何、考えてるんだろ、俺……)
きっとまた、頬は赤い。
けれどこの夕日が、隠してくれる。
ぼんやりと教室に伸びる影を見ていたけれど、自分たちの作る影にはっとなった。
(そう、だった…)
瞬間、全身から血の気が引いていく。
そう、ここは教室なのだ。
いくら放課後とはいえ、見回りの教員がいてもなんらおかしくはない。
「そ、総士…!」
慌てて名前を呼んでも、総士は愛撫に夢中で顔すら上げようとしない。
「せ、先生が来たら…っ」
慌てふためく一騎とは対照的に、総士は落ち着いたまま。
「大丈夫だ。この時間は見回りはしない」
「………」
この確信犯め…、などと、本来の意味とは違う意味で使いながら喚こうとすると。
「一騎」
「……っ」
くちゅり、と音を立てて、総士の指が挿入ってくる。
「欲しいんだろう? ここに、さ」
「…あ……ぅ、…っ」
2本、3本…と、段々と指が増えていく。
ぐちゅぐちゅと音を立てながら、中を掻きまわして。
涙目で睨んでも、総士は涼しい顔のまま。
「欲しいんだろう?」
もう一度、同じ問いを口にして。
すっと、自分のズボンに手をかける。
「ちゃんと準備はしないとね」
猛りきった総士を取り出して、そのまま口元に近づけてくる。
「こっちも濡らしておかないといけないだろ?」
内は総士の指で絶えず犯されて。
それでも知っていた。
(それだけじゃ、足りない…)
悔しいけれど。
だから、恐る恐る口を開けて、そっと総士を招き入れた。
舌と口腔で、丹念に濡らしていく。
「…流石に巧くなったね、一騎」
こんなことで褒められても全然嬉しくない。
けど、そう言う総士の声に余裕がなくなってきて。
掠れていた、から。
だから、…多分。
いいんだと思う。
(何が、いいんだ…)
既に自分で自分の思考がよくわからない。
ただ、わかっているのは……
「も…、早…く……!」
「いいよ、一騎」
総士に、貫かれたいだけ。
「一騎…」
「あ、…ぁ…ん、あ、あ…っ」
繋がった衝撃に、思わず手近にあったカーテンを思い切り掴んでいた。
二人分の重さを受けた机が、ぎしぎしと悲鳴を上げる。
背中が痛かったけれど、それよりも繋がった場所が熱くて。
「やっぱり一騎、いつもより感じてるだろ?」
いつもより締めつけがきついから、などと耳元で総士が囁くけど、反論すらできないほど、躯中が溶けてしまいそうに熱くて。
「そ、総…士、も……う」
限界が近いことを知らせようとした、その時。

「皆城くん? まだ残ってるの?」

(弓子先生…!?)
廊下から響いてくる声に、総士が動きを止める。
「あ、はい。終わったら、僕が鍵を閉めて出ますので」
その声は、いつもの優等生としての声で。
「あ、じゃあ、お願いね」
「はい」
遠のいていく靴音。
「お待たせ、一騎。続きしようか」
「な…っ」
確かに先程までの激しい動きは止めていた。
けれど、弓子が教室の外にいるというのに、総士は腰を揺らし続けていたのだ。
ばれないか気が気でなかった一騎を尻目に、総士は激しく律動を再開して。
「これで、心置きなくできるな。一騎」
「ば、馬鹿…っ!!!」
一騎の罵言もなんのその。
時間も気にしなくていいし、と続ける総士は、勿論1回だけで終わるつもりは毛頭なくて。
結局学校を出る頃には、外はとっくに夜の帳が下りていた。

「もう…、こんな時間じゃ商店街、どこも開いてないじゃないか…!!」
冷蔵庫の中、ろくなもの残ってないのに…と、文句を言い続ける一騎に総士はにっこり笑って。
「別に、一騎の作るものはなんでも美味しいから」
そんなことをしゃあしゃあと言ってのける。
「…その手には乗らないからな…っ」
だから、釘を刺すつもりでそう言ったのに。
「……ありがとう、一騎」
ふわりと、微笑んで。
「………っ」
(フェイント…っ)
―― 卑怯だ。
そんな笑顔見せられたら、誰だって許しちゃうじゃないか。
…と言っても、その笑顔を知っているのは自分だけ、ということも勿論知っていた。
悔しい。
非常に悔しい。
……けど。
「大したもん作れないからな。期待するなよ」
「はいはい」
「…返事は1回」
「はい」

なんとなく、嬉しいのはどうしてだろう?

--- 2004.10.7 / 【初出】総一合同誌『誰彼~たそがれ』 ---

今日も今日とて、竜宮島の大人たちは忙しい。
正直柄ではない司令官の任に慌しく時間の取られる毎日は、もう若くはない身体には結構堪える。
普段は疲れた顔など決して見せぬのだが、さすがに帰路に着くときは別である。
家に帰れば、可愛い可愛い妻の忘れ形見が待っているのだ。
元来、あまり会話を交わすこともなかった。
思春期の所為もあるのかもしれないが、物心ついた頃から父子二人で暮らしてきて、感情の表現があまり上手くないのかもしれない。
自分も心に不器用だが、息子もまたそうである。
それが、フェストゥムが襲来したあの日から、より一層親子の会話をする時間もなくなってしまった。
けれど、時折見せる笑顔が、とにかく可愛い。
そりゃもう、その辺にいる女の子なんか比べ物にならないくらいに無茶苦茶可愛い。
……そう、アルヴィスの現司令官・真壁史彦は息子の一騎をこの上なく溺愛していた。
本人は表に出していないつもりであったが、実は周りにはばればれである。
―― まあ、それは置いておいて。
とにもかくにも、我が家に帰ればその可愛い息子が美味しい御飯と一緒に待っているのだ。
家へと続く長い階段を昇り、この上なく愛しい息子が待つ家の扉を開けたのであるが……
「……なぜ君がここにいるのかね? 総士くん」
本来ならここにはいるはずのない人物を目にして入口に立ち尽くす。
―― なぜ、息子とのすうぃーとほーむに(今は亡き)公蔵の息子がいるのだ。
「一騎に台所から追い出されたので」
「いや、そういう意味ではなくてだね」
手伝うって言ったんですけど…、とはにかみながら言うこの少年は皆城総士(14歳)。
息子の同級生であり、幼馴染である(と言っても島の子供たちは皆幼馴染になるのではあるが)。
そして殉職したアルヴィスの元司令官兼島の学校の校長でもあった皆城公蔵の息子で、彼もまたファフナーの全指揮を執っていた。
息子の友達でもあるし、今は家族もないから恐らくは心根の優しい息子が夕飯に呼んだのであろうことは容易に想像はつく。
想像はつくのであるが……
史彦は知っていた。
人当たりのよい笑顔の向こうに見え隠れする黒いオーラを。
何せあの公蔵の息子だ、腹黒いことこの上ないのはわかりきっている。
血は争えないということだろう。
最近、特に父親に似てきたように思う。
今のところ彼しかジークフリードシステムを使えないから仕方ないものの、正直あまり息子とは関わらせたくはない。
なぜなら、あからさまなのだ。
息子と他のパイロット候補生達との扱いが違いすぎる。
どう考えても息子を狙っているとしか思えない ―― !!
親ばかと呼ばれても構わない。
息子の貞操の危機……!!
―― この間の思考約0.5秒。
そんなことを史彦が考えている間に、台所から当の息子がひょっこり顔を出した。
「あ。父さん、おかえり」
エプロンを着けた一騎が、ほかほかと湯気をあげる皿を手に居間に上がってくる。
(可愛い……)
瞬間、その姿に和んだものの、同じように相好を崩している総士の姿に気持ちを引き締める。
大事な息子の貞操を守るため、俺がやらずして誰がやる……!!(何をですか)
そんな父の決意を知ってか知らずか、当の一騎は手際よく食卓に夕食の皿を並べていく。
「もう準備できてるから、父さんも座っててよ」
そう言う一騎の顔が、心なしか嬉しそうで。
(おや…?)
父の帰りがそんなに嬉しいのか…と、感激しかけたのも束の間。
「やっぱり僕も手伝うよ、一騎」
残りの皿を取りに台所に戻ろうとする一騎の腰にすかさず手を回した総士が、至近距離でそう囁いていた。
「だ、大丈夫だって。総士も座ってろって」
慌てたように身を引く一騎の頬が少し赤らんでいるのを見逃す父ではなかった。
(な……っ)
しかし、突然の出来事に唖然としたままで。
すると総士が、何食わぬ顔でまた食卓に座りなおし、あろうことかお茶まで啜っている始末。
「どうしたんですか? 座らないんですか? おとうさん」
そしてにっこりそう言ってくるものだから、思わず怒鳴りそうになるのをぐっと堪えてひとつ咳払いをする。
「…誰が君のおとうさんなんだね? 総士くん」
「嫌だなあ、司令。僕と一騎が結婚したら、司令は僕のおとうさんじゃないですか」
この瞬間、2人の間に激しい火花が飛び散った。
「お待たせ。…って、どうしたんだ? 2人とも…」
残りの皿を手にした一騎がきょとんとして聞き返す。
「いや、なんでもないよ。美味しそうだね、一騎」
すかさず満面の笑みを浮かべて一騎の方に向き直る総士に、思わず振り上げそうになった怒りの鉄槌をどうにか抑える。
(落ち着け…、落ち着くんだ史彦!!)
さすがに息子の前ではまずい。
どうにか心を落ち着けようと必死になる史彦だったが、目に飛び込んできた皿の内容を見て再び叫びそうになる。
(目玉焼き付きだとーーーっ!?)
……真壁家は決して裕福ではない。
その食卓も質素なものだった。…普段は。
それなのに今日は、あろうことかハンバーグに目玉焼きまでついている。
いつもならどちらか片方だけなのだ。
どう考えても、奮発したとしか思えない。
(まさか…)
目の前で楽しそうに夕食を囲むふたりの姿に、眩暈がしそうになる。
まさか、そんな。
うちの一騎に限って ――
「父さん? 食べないのか?」
怪訝そうに訊いてくる一騎に、慌てて箸を取るものの。
「…!?」
その一騎の向こう、勝ち誇ったような総士の笑みを見逃すはずもなく。
「父さん…?」
「な、なんでもないぞ」
「?」
(…おのれ……!!)
こうして一見和やかな(本当は穏やかでない)夕食の時間が過ぎていった。


「ごちそうさまでした」
綺麗に平らげられた皿を前に、総士が行儀よく手を合わせた。
「お粗末さまでした」
そう言いながら皿を片付ける一騎も、やはりどことなく嬉しそうで。
(一騎……!!)
内心まったく穏やかでない史彦は、それでも平静を装って新聞を手に取った。
「あ、片付けくらいは手伝わせてくれよ、一騎」
「そうか?」
やはりすかさず皿に伸ばされた一騎の手をナチュラルに取る総士に、思わずばさりと新聞が手から滑り落ちる。
「と、父さんも手伝うぞ、一騎」
「へ?」
あまりにも珍しすぎる申し出に、一騎は一瞬ぽかんとして。
「皿割るからいい!!」
父さんはTVでも見ててよ、と言われても、ここでめげるわけにはいかないのだ。
「皿ならいくらでもある!」
そう、真壁家は器屋であった(あまり儲かってはないけど)。
……が。
「何言ってるんだよ! 物は大事にしなきゃいけないんだぞ!!」
逆に説教されてしまった。
「総士、悪い。手伝ってくれるか?」
「勿論」
撃沈した史彦とは対照的に、またしても勝ち誇った顔の総士が一騎に付いて台所に下りていく。
(紅音…、すまん……!!)
傷心の史彦は、ふらふらと作業場の方に去っていった。


一方、勝者の総士はというと。
「ちょ、…何やってんだ、総士!?」
背後から一騎を抱きしめ、しっかり臨戦態勢に入っていた。
「うん、食後のデザートっていうか、食後の運動っていうか、御飯のお礼っていうか…」
「な、何言って…、…んぅ……っ」
「しっ、静かに」
声もすべて奪うかのように、総士が一騎の唇を塞ぐ。
キスが深くなるにつれて、総士の腕の中で段々と一騎の体から力が抜けていく。
ようやく唇を解放した時には、すでに一騎の瞳は熱に侵されたように潤んでいた。
「一騎…」
背中から回された総士の腕が躯を弄りだしても、抵抗する力も残っていないかのように。
「と、父さんが……」
か細い声で、訴えるようにそう言うけれど。
その声が情欲に掠れていることなど、総士にはよくわかっていた。
「大丈夫、作業場の方に行ってるから心配ない」
(何が…大丈夫、なんだ……)
そう言ってあらぬ所にまで手を伸ばす総士に、一騎は知らず躯を預けて。
そう、とっくの昔に一騎の貞操はこの総士によって奪われていたのだ。
史彦パパの心配は遅すぎたのである。
「ん…ぅ、…ぁ…、あ」
とうに慣らされた躯は、激しい律動にもしっかりついていっていて。
「可愛いね、一騎」
シンクに手をついて、後ろから貫かれている躯を必死に一騎は支えていた。
洩れそうになる声を、必死に押し殺して。
「そんなに司令が気になる?」
「当、たり前…っ、ぁ…っ」
切れ切れの息の合間にようやく答えても、動きは休まるどころかより激しくなる一方で。
「でも、その分感じてるよね」
そう耳元で囁かれて、瞬時に躯がカッとなる。
「ほら、締め付けがきつくなった」
「な……っ」
嬉しそうに囁く総士の声が、耳元をくすぐって、より一層躯中が熱くなる。
「でも一騎は僕のもの、だからね」
「あ、ぁあ……っ」
そう宣言した途端に、一番深い場所を抉るように突かれて。
荒い息と熱を吐き出して、ぐったりと背中を総士の腕に預けた。
「馬鹿総士……っ」
あれだけ乱れておいてなんだが、それでも文句を口にして。
最近、こんな風になし崩し的に事に及ぶことが多い気がする。
涙目で睨んでみても、涼しい顔で総士は微笑んだまま。
「とりあえず、食器洗う前にお風呂入ろうか、一騎」
「……ひとりで…行け」
「ひとりじゃ立ってられないだろう?」
そう言って、ひょいと抱き上げられる。
「お、下ろせってば」
「別に男同士なんだし、一緒に入ってもなんらおかしくないだろう?」
「だから! 人の話聞けよ!!」


…お姫様抱っこで風呂場に向かうふたりを見て、史彦が新作の皿をおしゃかにしたのは言うまでもない。

--- 2004.10.13 / 【初出】総一合同誌『融合~ほんのう』 ---

「…なぜ、君がここにいるのかね、総士くん」

元旦の朝。
新しい年の幕開け。
その輝かしい始まりの朝に、史彦は自宅の居間の扉を開けたまま立ち尽くしていた。
なぜ、今はどこにもいるはずのない皆城総士がまい・すうぃーとほーむにいるのだ。

「一騎の部屋で寝ていたので」
「そういうことではなくてだね……って、なんだとぉぉ!?
にっこりと相変わらずの腹黒スマイル(史彦命名)を浮かべながらとんでもないことをあっさりと言いのけた総士に、史彦は元旦早々大声を上げてしまった。
ぱくぱくと金魚のように口を開けたまま、次の言葉が出てこない。
総士はのほほんとお茶を飲み、まるで自分の家のように寛いでいた。
「あ、父さん。おはよう…じゃなくて、あけましておめでとう」
そんな対照的な2人を知ってか知らずか、一騎が御節が詰まった重箱を持って台所から戻ってくる。
「…どうしたんだ?」
きょとんと2人を見比べながら、一騎が総士に問いかけると、
「別にどうもしないよ。折角だから早くいただきましょう、司令」
何故か総士が真壁家を取り仕切っていた。
「父さん、早く座ってよ。お雑煮ついでくるから」
「あ、ああ…」
(負けてる、負けてるぞ史彦…!!)
父の威厳を取り戻すべく、わざとらしくひとつ大きく咳払いをしてみる。
「一騎」
「あ、そうだ。父さん、御節食べたら俺、総士と初詣行ってくるから」
「………」

……史彦ぱぱが一番負けているのは、やはり一騎にかもしれない。



ガランガラン
チャリン
勢いよく賽銭を投げて、お参りをする。
島で唯一の神社にも拘らず、初詣に来ている人たちの姿は見当たらない。
フェストゥムの脅威が去った今、まだゆっくりと新しい年を自分の家で祝っているのか。
或いは、喪った人たちを偲んでいるのか。
そっと隣の一騎を窺うと、目を閉じて何かを真剣に拝んでいる。
そんな姿にふっと頬が緩むのがわかったけれど、そのまま総士もまた目を閉じた。


「全然人いなかったな」
「そうだな」
折角ここまで来たことだし、ふたりで神社の裏手をぶらつくことにした。
「…なんか、懐かしいよな」
すべての始まりの場所はここだった。
特に、自分たちふたりにとっては。
「……覚えてる? 一騎」
「え」
ぐいと一騎の腰を引き寄せて至近距離でその顔を覗き込む。
すると、きょとんとした瞳が真っ直ぐに見返してきた。
「初めてしたのもここ、だったろ?」
「…っ」
耳元でそう囁くと、途端に一騎の顔が真っ赤になる。
「ね、一騎」
「ん、…ぅ……」
一騎に何も言わせないまま、その唇を塞いで袴に手を差し入れる。
「ば…、き、昨日の夜もあれだけやっただろ!?」
「でもあれ、半分は精神体だったから」
「って、やめ…っ」
「一騎…」
「……っ」


[・・しばらくお待ちください・・]


「信じらんねー…」
真っ赤な顔で袴を整えながら一騎がぶつくさ言っていても、総士は上機嫌のままで。
「そこに一騎がいるからね」
「………」
その言葉に、ぴたりと一騎の動きが止まる。
それを確認してから、徐に総士が問いを発した。
「一騎は何をお願いしたんだい?」
「……っ」
「一騎?」
「…教えない」
「なんで?」
「総士には絶対教えない!!」
やっぱり真っ赤な顔で、ぷいっと一騎がそっぽを向く。
そんな姿も全部、嬉しいから。
だから、腕を伸ばしてその姿をこの胸に閉じ込めた。
「一騎」
「絶対教えないからな!」


―― もう二度と、総士がいなくなりませんように。

--- 2004.12.31 ---

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プロフィール
HN:
神崎 廉
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
絵描き兼字書き。
真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。
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