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神崎廉が今まで書いてきたSS保管庫。
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蜩が鳴いている。
その場を支配する音は、ただそれだけ。
夕暮れの朱が、境内を染めていく。
夏も、終わりが近い。
ぼんやりした頭で、そんなことを考えながら。
それでも頭を占めるのは、唯一人のこと。
(そういえば…ここ、だったんだよな)
すべての始まり。
目の前にある老木で。
幼き日の過ちも。
そして。
(初めて…したのも)


あれは、そう。
学生服を着ていたから、丁度中学の入学式の日だ。
島の中学校は普段は私服だけれど、入学式や卒業式の時だけは学生服の着用が義務付けられる。
だから、あの日は春だった。
どういう経緯でここにふたりで来たのか、もう覚えていないけれど。
確かにここで、初めて躯を繋げた。
どうしてそうなったのかも、よくわからない。
よくわからないけれど、ただ痛くて。
ひたすらその痛みに耐えようとしたことだけ、覚えている。
だってきっと、自分が傷つけた時の方が、痛かったと思うから。
だから。
ただひたすら、その痛みを我慢した。
あの幼き日の、過ちの代償として。
それからずっと、続けた関係。
幼馴染としてでも、親友としてでも、ない。

『僕に必要なのは、この左目の代わりになるものだけだ』

ずきん

(なんで…)
わかっていたはずだ。
何を、今更。
自分が奪った、総士の左目。
その代わりとして、総てを捧げようと思った。
だから、ファフナーにも乗った。
わかっていた。
…それなのに。

ずきん

何故、こんなに痛い。
心が、悲鳴を上げるように。

『ファフナーと俺たち、おまえにとって、どっちが大切なんだ?』
『ファフナーだ』

ずきん

先程の会話を反芻する度。
(な、んで…)
総士の言葉が、頭の中でこだまする度に。

ずきん

『一騎』

―― すべて、錯覚だった?
「信じろ」と言った声も。
ファフナーの中で、交わした言葉も。
……繋がる時に、囁かれた名前も。

どくん

『一騎』

その時の声を思い出しただけで、躯の奥が一瞬にして熱くなる。
低い、情欲に掠れた総士の声。
自分だけが知っている、声。

どくん どくん

鼓動が速くなる。
総士の声が、耳元で低く名前を囁く。
たった、それだけのことなのに。
(こ、んな…)
躯の奥で燻り続ける熱に、思わず背中を折り曲げる。
背筋を走り抜ける痺れに、耐え切れずに。
震える指で、ズボンに手をかけた。
ジッパーを下ろす音だけが、いやに耳についたけれど。
そうして触れた己は、固さを増して。

『一騎』

絶えず耳元に、いるはずのない総士の声を聞きながら。
「…ぅ…、…ふ……ン…っ」
手は休むことなく動き続ける。
まるで、総士が自分にするのと同じように。
考えるまでもなく、覚えこんでしまっている通りに。
「ぁ…、総…士……ッ」
名前を呼んだ途端、びくんと躯を震わせて。
荒い呼吸を吐きながら、手の中に吐き出した白い熱をただぼうっと見ていた。
こんな場所で、罰当たりなことをしていると、朦朧とした頭の片隅で思いながら。
それが、生理的なものだったのか、それとも他の理由からかはわからなかったけれど。
目尻に浮かんだ雫が、一筋だけ、弧を描いて滑り落ちていった。



     +



いつからだろう。
靴音だけで、その相手だとわかるようになったのは。
このリノリウムの床の音も、覚えてしまった。
そう、この場所でも。
地下深くに眠る、このアルヴィスでも、幾度となく躯を重ねたから。
だから。
通路の陰から、そっと身を現して。
正面から歩いてくるその姿を、真っ直ぐに捉えた。
総士の足が止まる。
その表情は、硬く。
何の感情も、読み取れない。
(いや…)
そんなことはない。
たとえ、他の誰がそうであったとしても。
自分だけは。
(わかる、はずだ)
まるで、睨み合うかのように視線を絡ませて。
それから徐に、一騎は歩を踏み出した。
真っ直ぐに。
総士の胸倉を掴んで、体を引き寄せる。
そして、そのまま口付けた。
貪るように。
瞳も閉じぬまま、総士はされるがままで。
応えようとしない総士に苛立つように、一騎は自ら舌を差し入れた。
綺麗な歯列が触れる。
それを抉じ開けるように、深く深く口付けて。
「…ん…ぅ……」
ようやく絡ませあった舌が、ぴちゃぴちゃと水音を立てる。
自分から仕掛けておきながら、口付けだけで砕けそうになる腰を必死に支えた。
長いキスを終えて、離した唇を繋ぐ糸が銀色に煌いていた。
「…どうした、一騎。もう終わりなのか?」
人気のない通路に冷たく響く、総士の声。
(違う…)
間違えないように。
じっと、視線を逸らさず総士を見つめて。
「終わりじゃない」
震えそうになる声を、ぐっと抑えつけるように口を開いた。
それを聞いた総士が、口元だけで笑う。
「……望み通り、抱いてあげるよ。一騎」
そう言うや否や、ぐいっと一騎の体を抱き寄せ、先程とは比較にならぬほどの勢いで唇を奪った。
(総士)
いつからだったろう。
この行為に、痛み以外の感覚を覚えたのは。
「ぁ…、あ、……は…」
抱え上げられた腰が、がくがくと揺れる。
総士の背中に回した手で、滑り落ちないようにぎゅっと制服を掴んでいた。
荒々しく抽送を繰り返される度に、言いようのない快感と、そして。
…寂しさが。
「総、士…」
全身を駆け巡るその感情に負けないように、名前を呼ぶと。
僅かに総士は目を瞠って。
「………一騎…」
小さく名前を呟いて、更に奥まで繋がるように、一騎の腰を深く引き寄せた。
「…あ、ぁ……っ」
同時に放った互いの熱を、内と外とで感じながら。
荒い息を吐きながら、そっと総士の制服を握り締めた指を解こうとすると、
「え…、……っ」
繋がったまま、反転させられた体を壁に押し付けられた。
火照った体に、壁の冷たさが必要以上に感じられて。
その温度差に、思わずびくんと体を震わせた。
「そ、総士…?」
「自分から誘ったんだ、これくらいで音を上げられたら困る」
「ひ、ぁ……」
乱暴に再開される律動は、それでもすぐにこの躯を煽り立てていく。
内を掻き回される度、崩折れそうになる膝を支えるように、壁についた腕に必死に力を込める。
繋がった部分から漏れる水音に混じって、ふいに頭に響いてきた声。

『僕に必要なのは、この左目の代わりになるものだけだ』

それでいいと、思っていた。
総てを差し出せば、贖えるのだと。
けれど。
(違うんだ、きっと)
それでは、ダメなのだ。
償っていたつもりだった。
けれどそれは、逃げていただけ。
総士の心。
そして、
自分の心から。
(総士は…)
どんな想いで、自分を抱くのだろう。
自分は。
どんな想いで、総士に抱かれるのだろう。

何度も熱を吐き出しながら、繰り返し思う。
力の入らない手を伸ばして、そっと総士の前髪を掻き上げる。
うっすらと額に汗を浮かべた総士もまた、同じように荒い息を吐いていた。
その左目に走る、古い傷痕。
それをなぞるように、唇を寄せて。
「一騎?」
この、傷痕に。
縛られていたのは、どっちだろう。
縛られた振りをして、縛っていたのは ――

「一騎……」
遠のく意識の中で、聞こえた総士の声は。
か細く、そして。
霞む視界に映った顔は、歪んでいた。
まるで。
今にも泣き出しそうな、子供のように。



     +



「何処に向かうんですか?」
「新しい楽園よ」

『楽園だよ』

あの日 ―― フェストゥムがこの島を襲った日。
自分たちは何処に行くのかと尋ねた時、確かに総士は言った。
”楽園”だと。
(総士…)
外の世界で、総士は何を見たのだろう。
そして。
ひとりで、何を抱えたのだろう。
(俺は……)
”外の世界”――
この目で見れば、わかるだろうか。
知ることができるだろうか。
……共に、歩いていけるだろうか。
(迷うな)
自分で決めたことだ。
何を見ることになろうとも。
失えない、もののために。

―― だから。

今は、脱け出そう。
与えられた楽園を。
……ひとりで。

本当の、楽園のために。

--- 2004.9.27 / 【初出】総一合同誌『融合~ほんのう』 ---

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神崎 廉
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非公開
自己紹介:
絵描き兼字書き。
真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
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