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神崎廉が今まで書いてきたSS保管庫。
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「マ、ユ……?」
―― これが。
「う、うあぁぁぁぁぁ………っ!!!!!」

俺への、罰ですか?



     ●



「おにいちゃん」
学校から帰って玄関を開けると、何故か妹のマユが仁王立ちでそこに立っていた。
「ただいま。おまえ、今日早かったんだな」
とりあえず帰宅の挨拶と、思ったままの素直な感想をぶつけてみる。
帰宅部の自分と違い、マユは部活で遅くなることもままあった。
両親が共働きで、普段ならこの時間は誰も家にはいないのに。
玄関の扉を開けたまま、そのままそこに立ち尽くしているのも芸がないし、とりあえず靴を脱いで家の中へと上がろうとしたのだけれど。
「…マユちゃん? 上がれないんですけど?」
マユは通せんぼをしたまま、そこを退こうとしない。
それどころか、じっと睨めつけるようにこちらを見たまま。
頬は膨れ、それに何故か瞳にはうっすら涙まで浮かんでいた。
「……マユ? どうしたんだ?」
さすがに様子がおかしいのが気になって、顔を覗き込もうとすると。
(ん……?)
その時になってようやく目に飛び込んできた。
マユが左手に握った、それが。
(あ…)
マユもそれに気付いたのか、やっぱりまだ膨れっ面のまま、こちらを見上げてくる。
「マユ、おまえ…。また俺の部屋勝手に入ったのか」
溜息をつきながら、やんわりと諌めようとした、……のが間違いだったのか。
「おにいちゃんの馬鹿っっ」
マユの叫び声と共に、マユが握っていたそれ ―― 所謂エロ本というやつが、シンの顔面に命中した。



     ●



「あのな、マユ。不貞腐れたいのは俺の方なんですけど?」
「………」
とりあえず自室に戻って鞄を下ろしてから、どっかりと自分のベッドに腰を下ろす。
マユは無言のまま、それでも一緒に部屋までついてきていた。
「で? なんでまた人の部屋に勝手に入ったんだよ」
まだずきずきする顔をさすりながら、一応訊いてみる。
「……辞書、借りようと思って…」
(それでなんでベッドの下に隠してたあれを見つけるかね)
はあ…、と盛大な溜息をついてから、まだ部屋の入口でぽつんと立ったままのマユを見遣ると、俯き気味に床を睨んでいる。
「マユ、あーゆー本ってのはな、健全なオトコノコの部屋には大概あるもんなの。おにいちゃんはそーゆーお年頃な・の!」
敢えて強調して言ってみる。
大体エロ本の1冊や2冊、あって当然なのだ。
そーゆーお年頃、なのだから。
「………おにいちゃんは」
しばらく無言のままでいたマユが、徐に口を開いた。
けれどその声は、じっと耳を澄まさないと聞き取れないほど小さくて。
「おにいちゃんは…胸のおっきな女の人が好きなの……?」
「…は?」
いきなり投げかけられた質問に、思わずつんのめりそうになる。
「……マユちゃん? 何かな、それは」
「………」
見れば、マユは顔を真っ赤にして、きゅっと唇を噛みしめていた。
「…そりゃ、小さいよりかでかい方が大概の奴は好きなんじゃないのか?」
人それぞれだとは思うけど…、などと。
(なんで俺、こんなくそ真面目に答えてるんだ?)
今度はこっそりと溜息をつきながら、ちらっとマユの方を見ると、今度は耳まで真っ赤になっていた。
「……マユ、胸ちっさいもん………」
泣きそうな声で、そんなことを呟くものだから、またしてもつんのめりそうになってしまった。
「…マユ?」
一体どうしたというんだ。
今日のマユはやっぱり様子がおかしい。
そんなに兄の部屋にエロ本があったのがショックだったのか。
(ショック…なのか……?)
マユはやっぱり顔を赤くしたまま、ずっと俯いている。
(それとも好きだった奴にでも振られた、とか?)
ちくり
その思考に、胸のどこかが痛む。
―― ダメだ。
それ以上、扉を開けたらいけない。
頭の奥で、声が響く。
(わかってるよ…っ)
振り払うかのように、一度ぎゅっと目を瞑って。
瞳を開けた先に。
「マユ…!?」
よく知った妹の顔と。
唇が。
「ん、ぅ…」
頭の芯が麻痺してしまいそうになるのを必死に堪えて、肩を掴んでマユの体を引き剥がす。
「マユ、いきなり何す…」
「…おにいちゃん。好きな人、いるの?」
泣きそうな瞳で、じっと見つめて。
つい先ほど感じた唇が、そんな言葉を発した。
「……っ」
言葉に詰まる。
ダメだ。
ダメなんだ。
扉を開けるわけにはいかない。
戻れなくなる。
もう二度と、戻れなくなるから。
「マユは…」
ダメだ。
「マユはね……」


(ダメだ…っ)


―― 自覚したのはいつだっただろう。
周囲の誰もが羨むほどに、仲が良くて。
可愛くて、大事で。
でもそれは、”妹”だから。
それは、”兄”としての感情。
そのはずだった。
そうであるべきもの。
それ以下でも、それ以上でもない。
そうでなければ、いけないのに。
…だけど。
唐突に気付いてしまった。
だから、鍵をかけた。
扉を閉めて、もう二度と開かないように。
きつく、錠を下ろした、のに。


体がだるい。
でももう起きないと、そろそろ母親が仕事から帰ってくる頃だ。
「マユ。そろそろ母さん帰ってくる」
「ん…」
腕の中のマユが、ごそごそと体を起こす。
「痛…」
マユの白い躯が、びくりと強張った。
「大丈夫か?」
「う、ん。大丈夫だよ、おにいちゃん」
えへへ、と笑顔を向ける妹に、笑い返す。
脱ぎ散らかした服を拾い上げるマユの手を掴んで、もう一度引き寄せる。
この腕に、在るのは ――



もう、戻れない。



     ●



「早く、こっちだ!!」

物事なんて、すべては突然なのかもしれない。
”兄妹”という関係が、突然終わってしまったように。
あたりまえの日常が、終わりを告げることも。

たとえ世界が宇宙規模で戦争をしていても、ここだけは戦禍に巻き込まれることはないと。
どうして、そんな風に思うことができたのだろう。
中立のはずのこの国が。
オーブが、戦場になろうなどと。
どうしてあの時の自分に、思うことができただろうか。
この国の資源衛星であるヘリオポリスが、一瞬のうちに堕ちたことをニュースで知ってはいても。
それでも信じていた。
平和という幻想。
戦争など、自分には…自分の家族には無縁のことだと。

頭上でモビルスーツが飛び交う中を走り続けても尚、心のどこかではそう思っていた。

「マユの携帯…っ」
マユがいつも肌身離さず持ち歩く携帯電話には、自分があげたストラップがついている。
それは、誕生日にあげたもの。
妹にとしてではなく、初めてあげたもの。
そんなに高いものじゃない。
でも、とびきりの笑顔で、喜んでくれた。
だから、余計に。
転がり落ちてしまった携帯電話を、危険も顧みずに拾いに降りた。

―― ただ、笑って欲しかったんだ。

現実味のないこの戦火の中で、ただひとつだけ確かな温もり。
マユの笑顔。
欲しかったのは、それだけ。
……だから。

轟く爆音。
感じる熱風。
鼻を衝く焦げた匂い。
焼け焦げた大地。
そして。
地面を染める赤。
白い……

「う、ああぁぁぁぁぁぁ………っ!!!」


これは、俺への罰ですか?
血を分けた妹を愛した、俺の罪(シン)ですか?
これが……

贖いは。

誰ノタメニ?

--- 2005.2.7 / 初出『vertical infinity』(2005.2.13発行) ---

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プロフィール
HN:
神崎 廉
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
絵描き兼字書き。
真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。
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