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神崎廉が今まで書いてきたSS保管庫。
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背後から聞こえる空気の抜けるような音が、浅い眠りを破る。
けれど、扉の前にいる人物は、一向にそこから動く気配がない。
そして自分もまた、椅子に体を預けたまま、瞳を閉じたままでその人物に呼びかけた。
「中、入らないのか? 一騎」
「あ、…うん」
小さくそう言うと、その人物は躊躇いがちに中に足を踏み入れた。
ようやく扉がまた空気の抜けるような音を立てて閉まった。
おずおずと自分が身を委ねる椅子のすぐ後ろにまで一騎が来ると、ようやく総士はそちらに顔を向けた。
「…よく、わかったな。俺だって」
「そりゃ、ね」
視線を逸らしながら素直に抱いた疑問を口にする一騎に、微笑いながら短くそう答えると、一騎は怪訝な顔をしたけれど。
それには一向に構わずに、今度は総士が一騎に問いかけた。
「一騎こそ、どうしたんだ?」
「あ、いや…」
はっとしたように顔を上げて、けれど気まずそうに一騎は俯いた。
それから聞こえないくらいの小さな声で、
「…家、帰らないのか?」
そう、ぽつりと呟いた。

『家には戻られないんですか?』

「帰っても、もう、誰もいないから」
乾いた口調でそう答える。
その言葉に、瞬間周りの空気が変わった気がした。
理由はわかっていた。
視界の端に、一騎の拳が固く握り締められるのが映る。
その光景を、薄い笑みを浮かべて眺める自分がどこかにいた。
また、縛ろうというのか。
”罪悪感”という、鎖で。
無意識のうちに、そっと左の瞼に走る傷痕に触れていた。
―― 滑稽だ。
「一騎は…どうするんだ?」
「え…?」
「もう夜も遅い。いつまでここにいる気だ?」

『貴女はどうするんですか。まだここにいる気ですか?』

先刻、現国教師(表向き、だが)と交わしたのと同じ会話を繰り返す。
ただ、徹底的に違うのは。
その根底に横たわる、感情。
そこに、冷たさを含ませるか。
温もりを、感じるか。
同じことを言われても、不快感など微塵も感じられない。

「総士が…」
「…?」
「総士が泣いたら、帰る」
全く思いもよらなかった言葉を返す一騎の顔を、思わずじっと見つめると。
何かに耐えるように眉根を寄せながら、けれど強い視線でこちらを見ていて。
まるで、心の奥底まで見透かすような。
「何…を」
滅多にないことではあるが、戸惑いがちに聞き返そうとすると、それを遮るように、
「総士が泣いたら、帰るから」
一騎がもう一度繰り返した。
「一騎…?」
「総士、泣きそうな顔してるから」
「……っ」
ぽつりと呟いた一騎の方が、泣きそうな顔をしていた。
けれど。
「泣かないだろ、総士は。そんなに泣きそうな顔してても。…だから」
「………」
それでも。
一騎の言葉は、そのままゆっくりと体の奥底まで沁みこんでいくようで。
ふいに頬に感じた温もり。
一筋だけ、流れた涙。
それは思いもよらぬもので。
けれど確かに、伸ばした指に触れた雫。
それは言葉もなく、静かに流れ落ちていった。
(…そう、か)

―― 僕は。
悲しかった、のか。

じっとこちらを見つめていた一騎が、ふっと表情を和らげる。
その瞬間に、その場を覆っていた空気さえ、和らぐような。
「…じゃあ、俺帰るから」
自分の役目は果たしたとでもいうかのように、清々しい声で一騎がそう言った。
「ほら、帰るぞ、総士」
「…え?」
けれど、続けた言葉はまた思いもよらぬことで。
「ほら、さっさとしろって。早く帰らないと日付変わっちまう」
「………」
「うまい飯食わせてやるから。…って、総士?」
あまりの展開についていけず、唖然としていると、一騎は何を勘違いしたのか、
「あ、俺の料理の腕前信用してないだろ。これでも結構うまいんだからな」
「いや、それは知ってるけど…」
そんな見当違いのことを言ってくる。
「うまいもん喰ったら、結構落ち着くって」
どんな時でも腹は減るんだし、と言われて。
その時になって、ようやく今日はほとんど何も口にしていないことに気がついた。
「だから、帰ろう?」
そう言いながら、差し出された手と笑顔。
その笑顔は、かつてはよく知っていたもの。
そしてまた、自分が一騎から奪い去っていたもの。
この左目の傷痕と引き換えに。
(それでも…)
それでもまだ、一騎は与えてくれる。
差し出された手に、そっと自分の手を重ねる。
指先から伝わる温もり。
握りしめた手は、暖かかった。
その笑顔と、同じように。

--- 2004.7.23 ---

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プロフィール
HN:
神崎 廉
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
絵描き兼字書き。
真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。
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