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……どうして?
ねえ、どうして。
どうして、そんな哀しい瞳で泣くの ―― …?
●
「…ス……ラン」
消え入りそうな声で、名前を呼ばれて。
はっと、うつ伏せていた顔を上げた。
その声の主の方を見遣ると、苦しげに眉を寄せ、ぎゅっと固く閉じられた瞼がぴくりと動くのが視界に入った。
もうすぐ、その瞳が開かれる。
知りすぎた、前触れ。
(知ってるさ…)
そう、知っている。
キラの仕種。
キラの癖。
たとえばこう言えば、どう返してくるか。
どんな風に甘えてくるか。
そんなこと、誰よりも一番よく知っていた。
いや、むしろ。
自分だけが、知っていた。
そう、キラのことなら。
なんでも、知っていたはずなのに。
(キラ…)
瞼を上げて、その紫の瞳で。
彼は、どんな風に自分を見るのか。
それすら、今はわからない。
(怯える、かもな…)
瞬時に浮かんだ考えに、自嘲の笑みが口元に浮かぶ。
そうさせたのは、自分だろうに。
医務室のベッドに手をついて、覆い被さるようにキラの顔を覗き込む。
その拍子にベッドが軋んだ音を立てた。
「……ぅ…」
ゆっくりと、瞼が上がる。
その紫の瞳が自分の姿を捉える前に、唇を塞いで。
「…ん…ぅ……っ」
粘ついた音を立てながら、口内を思うまま貪った。
まだ覚醒しきっていない頭で、それでもキラは応えて。
ようやく唇を離した時には、空気を求めるように、短く荒い呼吸を繰り返していた。
「ア…スラン…」
息苦しさに薄く涙を浮かべた瞳で、それでも真っ直ぐ見つめてくるキラを、冷たい視線で見下ろしたまま。
「僕…、ど…して…」
まだよく状況を把握できていないキラが、舌足らずに疑問を口にする。
そんなキラに、口元だけで薄く笑いながら、
「覚えてないか? 食堂に入ろうとしたところで倒れたんだ、おまえ」
そう言って、すっと指をキラの方に伸ばす。
息苦しさを少しでも紛らす為に開いてやっていた襟元に、そっと指を滑らせた。
すると、冷たい指先を感じて、喉元が仰け反るように動いた。
ざわ…
たったそれだけのことが、たとえようもない程に扇情的で。
「…よかったな、キラ」
「え…?」
「保健医にこれ、見られなくて」
そう言って、なぞるように唇で触れていく。
何度も自分が刻んだ、痕を。
「……っ」
言われた意味を理解した途端に、ぱっとキラの頬に朱が散った。
「アスラン…っ」
慌てて起き上がろうとする体を、そのまま押しとどめて。
「駄目だろう? キラ。まだ横になってないと…」
そう言いながら、傍にあった包帯でキラの手を頭上で固定した。
「アスラン!?」
非難めいた制止の声も聞こえぬかのように、キラの軍服のジッパーを下ろし、アンダーをたくし上げた。
露になった肌が外気に触れた途端に、キラは身震いする。
曝け出された白い肌には、消えぬまま、幾つもの花弁が散っていた。
「アスラン、誰か来たら…っ」
真っ赤な顔で、叫ぶようにキラが言えば、
「医師(せんせい)なら戻って来ないよ。今はクサナギの方に行って急患を診てるからね」
「……っ」
口調だけは優しく、アスランが諭すように教えた。
「まあ、俺は別に見られても一向に構わないんだけどな」
「ぁ…っ」
そう言うと、なんの前触れもなく、慣らしもせずに屹立した己をキラに突き立てた。
「や…ぁ……っ」
苦しげにキラが叫ぶ。
その瞳から、痛みと、別の感情とで、幾筋も涙が零れ出して。
「説得力ないな、キラ。…ここ、こんなに悦んでるのに」
アスランを受け容れているそこは、灼けるように熱く。
放したくないとでもいうかのように、絡み付いてくる。
「…ん……く…ぅ ―― …」
激しさを増す水音に混じって洩れる声も、次第に甘い響きを含んでいった。
「あ…ぁ……っ」
「キラ…」
「…アスラ…ン…っ」
互いに限界が近いと感じた、その時。
「キラ?」
ノックと共にかけられた声。
(カガリ…!?)
そういえば、倒れる直前にカガリに会ったのだ。
彼女のことだ、心配するに決まっている。
今ここにいないことの方が不思議だった。
そこまで思い至って、はっとする。
アスランに組み敷かれたままの、この状況を。
もしも彼女が、目撃したら ――
さっとキラの顔から血の気が引いた。
勿論、それをアスランが見逃すはずもなく。
ふっと口元だけで笑ったかと思うと、キラと繋がったまま、
「カガリか?」
わかりきった質問を扉の向こうに投げかけた。
「ああ。アスラン、キラの具合どうなんだ?」
心配しきった声で、返事が返ってくる。
けれど、いつその扉が開かれるかと思うと、生きた心地がしない。
心臓が、先程までとはまた別の意味で早鐘を打つように鳴っていた。
冷たい汗が、一筋頬を伝う。
「…ぁ…っ」
と、突然奥を突かれて、キラの口から思わず声が洩れた。
「キラ!?」
咄嗟に抑えたものの、それでも微かでもカガリの耳には届いてしまったらしい。
「心配いらない。少し休めば平気だろう」
アスランは涼しい顔で答えるけれど、相変わらずキラの躯から離れようとはせず、緩く腰を揺らし続けていた。
キラは、これ以上声を漏らすまいと、必死にその甘い痺れに耐えていた。
固く瞑った瞳から溢れ出した涙は枕をしとどに濡らし、けれどまた同時に、こんな状況でも確かに感じている証が肢を伝って白いシーツに染みを落としていた。
(こ…んな……)
明らかに異常なこの状況で、それでも確かに自分は ―― 自分の躯は ―― 悦んでいる。
アスランに抱かれること。
そして。
恐らくはアスランに好意を抱いているであろう、カガリの前でこのような行為に及んでいる優越。
(僕は、何を ―― …っ)
カガリは心配してくれているのに。
もうひとりの、自分を。
ドクン
”もうひとりの自分”―― それが意味すること。
あの場所で見た光景。
あの場所で語られた事実。
今まで積み重ねてきた日々。
ずっと、一緒にいた…
すべての映像が、螺旋のように絡まりあって。
すべての音が、ノイズと化して。
すべてが、
混ざり合って。
…真っ白に……
ドクン
目の前にあるはずの翡翠の瞳は、扉の方に向いていて。
ただそれだけのことが、なぜか無性に悲しくて。
その頬に触れたいのに、手は固定されたまま動かない。
「なあ、ほんとにキラ、大丈夫なのか?」
扉の向こうにいるカガリが、なおも語りかけてきていた。
何かを答えようとするアスランの唇を、邪魔するかのように自分の唇で塞ぐ。
ほんの一瞬で離れたけれど、アスランは少しだけ驚いたように目を見開いてキラを見つめた。
潤んだキラの瞳は、物言いたげに揺れていて。
「…大丈夫、だから…もう少し、休ませてやってくれないか?」
ゆっくりと、アスランが口を開く。
それを聞いたカガリが、諦めたように溜息をつくのがわかった。
「…わかった。じゃあ、キラのこと、頼むな」
「ああ」
一瞬だけ躊躇ったのち、踵を返して遠ざかってゆく足音をどこか遠くで聞きながら。
キラはずっと、アスランを見つめていた。
「アス…ラン……」
ねだるように、名前を呼んで。
「キラ…」
すっと、瞳を閉じた。
アスランの唇が、キラの唇を塞ぐ。
なんなく侵入ってきた舌を、自分から絡めとって。
深く深く口付けながら、深く深く繋がるように。
両方から溢れ出す水音は、激しさを増していった。
--- 2004.6.12 ---
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真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。