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神崎廉が今まで書いてきたSS保管庫。
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ほんの少しの誤解が、どんどん疑念になって、膨らんで。
少しずつ擦れ違っていく心が、どうしようもなく遠く離れてしまうようで。
だけど。
……それでも。

 

     ●

 

自分の放った熱を肌に感じるだけで。
戒めを解かれた手を、動かすこともできずに。
キラはただ、ぼんやりと医務室の天井を見ていた。
真っ白な天井に、煌煌と輝く蛍光灯。
その明かりに照らされた自分の姿を思い浮かべて、キラはふっと自嘲的に笑った。
ところどころ染みをつくった皺だらけのシーツの上に横たわる、軍服を乱し、自分とアスランの熱で汚れた自分。
こんな場所で、こんな明るさの下で。
悦んで躯を開いたのだ、自分は。
―― アスラン、だから。

そのアスランは、行為が終わった直後、そっと体を離して何も言わずにキラの手首を縛っていた包帯を外した。
そしてそのまま、ベッドの端に腰掛けて。
ずっと、俯いたまま。
その表情は、横たわったままのキラからは見えないけれど。
(…どうして?)

―― どうして、そんな哀しい瞳で泣くの?

ここからはアスランの顔は見えない。
泣いているわけでもないだろう。
けれど。
アスランが泣いているように、思えて。
先程この医務室で目覚める直前まで見ていた夢のように。
アスランが ―― アスランの心が、泣いているようで。
力の入らない体を叱咤して、キラはゆっくりと上体を起こす。
そしてそのまま、アスランに寄り添うように体を動かした。
そっとではあったけれど、その僅かな振動で、内にあったアスランの熱が零れ出して。
その感触と、受け容れていた名残の痛みに、一瞬だけキラが顔を顰めた。
けれどすぐに、アスランの方に向き直って。
アスランはまだ顔を上げようとしない。
そんなアスランの手に、そっと自分の手を重ねて。
顔を覗き込んで、キラが名前を呼ぼうとするよりも早く、
「…どうしてだ? キラ」
アスランが、小さく呟いた。
「え…」
「…どうして……っ」
ばっと顔を上げたアスランが、キラの肩を鷲掴みにして問い質す。
その瞳に涙は浮かんでいなかったけれど、それでもキラにはアスランが泣いているように思えた。
……悲痛に。
きり…
胸の奥が、痛い。
きっと、……アスランも。
「どうして、おまえは…っ」
絞り出すように紡がれる言葉を、キラは遮ることなく聞いていた。
「どうして…俺に、抱かれるんだ……っ」
そうして、アスランは押し付けるようにキラの肩に顔を埋めて。
泣いてはいない。
けれど。
その肩は、微かに震えていた。
キラはそっと、目の前の藍色の髪に指を絡めて。
アスランがよく自分にそうするように、そっとその髪を梳いた。
「…どうして、そんなこと聞くの…?」
小さな声で、問い返す。
アスランから答えはない。
「どうして…」

”どうして”

それは、きっと。
互いにずっと、抱えていた疑問。
そして、きっと。
その答えも、同じはずなのに。
「……好き、だから」
震える声で紡ぎ出した言葉に、アスランの体が瞬間強張った。
「アスランが…好きだから」
囁くような声で、けれど、確かに強く、そう告げた。
「嘘…だ」
「嘘じゃない、よ…」
「嘘だ!!!」
「嘘じゃない…っ」
キラの答えに顔を上げたアスランの顔は、奇妙に歪んでいて。
「嘘なんかじゃ、ないよ…?」
そしてキラもまた、今にも泣き出しそうな瞳で。
「じゃあ…、じゃあ、なんで…っ」
そんなキラの瞳を、振り切るかのように、アスランが叫んだ。
「なんで、俺の前じゃ泣かなかった!?」
「え…」
曝け出した本音は、もう止めることなどできずに。
「おまえの涙を受け止めるのは、俺だったのに……っ」
「アスラ…」
……わかっていた。
虫のいい話だということは。
一度はその命を、奪おうとまでしておいて。
何を今更、と。
それでも、譲れなかった。
他の誰にも。
ラクスにも、カガリにも。自分の知らない、他の誰かにも。
キラ、だけは。
「おまえがあの時、形振り構わず駆けつけようとした相手」

『僕が傷つけた。だから、僕が守らなきゃいけない人なんだ』

まるで、強迫観念のように。
うわ言のようにそう言ったキラの態度は、尋常でなくて。
「…カガリに聞いた。おまえと、その相手のこと…」
思い返しただけで、胸の中に苦いものが拡がっていく。
離れ離れの三年間。
自分の知らない、キラの時間。
「アスラン…、違…う、よ……」
「何が違うんだ!?」
か細い声で否定するキラの声を遮るように、アスランが激しい口調で聞き返す。
わかっていた。
嫉妬、なのだ。
すべては。
ラクスへの。
その相手への。
自分の知らないキラを知っている、すべての人間への。
「違う…っ」
縋るように、キラがアスランの胸元を掴んだ。
「ヘリオポリスが沈んだあの日、意味もわからずに君と戦わなきゃいけなくなって、それでも僕がみんなを守らなきゃって、だから…」
だから、戦った。
一番大切な、君とも。
「でも僕は…守れなくて……っ」
そう、守ると約束したのに。
彼女の父も、あの女の子も。
「守れなくて…でも、君のところにも、行けなくて……」
守れなかった痛みを抱えたまま、それでも居場所はどこにもなくて。
一番求めた場所は、もう遠すぎて。
自分から、手放したくせに。
「そんな時、彼女は…優しくしてくれたんだ」
今になって思えば、その優しさが本当だったのかはわからないけれど。
それでもその時の自分には必要だったのだ。
……”逃げ場所”が。
「けど…、やっぱり違ったんだ」
わかりきっていた。
彼女は、

アスランじゃない。

「誰も、君の代わりになんてなれるはずないのに」
最後までできるはずもなかった。
アスランじゃない。
触れてくる指先も、囁く言葉も、何もかも違う。
アスランじゃない。
…だけど。
温もりに飢えていた。
だから、抱きしめてもらった。
そうして眠りに就いた。
ただ、それだけ。
一瞬でもいいから、安らぎが欲しかった。
本当の安らぎなんて、手に入るはずなどないのに。
アスランが、いないのに。
「だから…」
「もういい…っ」
「アスラ…」
「もう…いい……」
力なくそう言って、アスランがそっとその手をキラから離した。
まるで。
もう二度と、触れないとでも言うかのように。
そんな素振りに、キラの顔から血の気が引いた。
「な…んで……?」
震える声に、アスランが緩々と俯いていた顔を上げる。
キラの瞳に、涙が溢れていた。
(ああ…)
その紫の瞳は、昔と変わらず。
真っ直ぐに、こちらを見つめて。
まるで、宝石のような輝きを湛えたまま。
どれだけこの手で、その存在を穢しても。
キラは。
綺麗な、ままで。
「なんで…信じてくれないの……?」
そう口にしながら、心のどこかで冷めた目で傍観している自分が確かにいた。
何を今更、と。
アスランを、…アスランと、己の気持ちを裏切る真似をしておいて。
それでも尚、願うのか。
望むのか。
信じろ、と。
(そう、だよ)
信じて。
何があっても。
ひとつだけ。
たったひとつだけ、変わらず抱えていた想い。
それだけは……
「信じて、よ…」
アスランは目を逸らしたまま。
きゅっと、唇を引き結んで。
「どうしたら…信じてくれるの……?」
恐る恐る伸ばした手も、振り払われて。
「アスラン…っ」
今度は遮る暇も与えぬ程に、ぎゅっとその体を抱きしめて。
「キ…」
そっと、キラの方から唇を塞いだ。
そのままベッドに倒れ込むように、覆い被さって。
その翡翠の瞳に映る自分の姿を確認しながら。
「僕は…アスランしか知らないよ」
そう、呟いた。
「キラ…」
アスランが名前を口にする。
ただ、それだけのことが。
こんなにも、嬉しくて。
安心できて。
…こんなにも。
好きで、たまらないのに。
「アスランしか知らない。アスランしか、知りたくない。…アスラン、だけ ―― 」
本当は。
アスランさえいれば。
「……よせ、キラ…っ」
制止の声も聞こえぬかのように、体の位置をずらしたキラは、そのままアスランの中心に顔を埋めて、そっとそれを口に含んだ。
「…ん……ふ…ぅ」
だんだんと固さを取り戻していくアスランを、愛しそうに舐め上げて。
「キラ…っ」
「ん、ぅ……っ」
口の中に広がっていく、自分しか知らないその熱を、キラは喉を鳴らして飲み干した。
そうして顔を上げて、まだ少し息の荒いアスランに、悪戯っぽく笑いかける。
「…アスランの余裕なさそうな顔、……初めて見た」
そんな事を口にするキラに、諦めたようにひとつ小さく息を吐いて。
アスランが、苦い笑みを漏らした。
「…余裕なんか、ないさ」
本当は、いつだって。
「え…?」
きょとんと問い返すキラの体を引き寄せて、ぎゅっと強く抱きしめる。
「余裕なんかない。いつも…怯えてる」
「アスラン…?」
「俺、臆病だから」
そう言ってそっと体を離すと、アスランは少しだけ寂しそうに笑って。
「自信が、ないんだ」
だから。
忘れないように。
何があっても、自分のことを忘れさせないために。
刻みつけたかった。
縛りつけたかった。
その体に。
自分だけを。
たとえ、すべてを穢しても。
「…僕だって、同じ…だよ」
いつだって怯えている。
アスランが離れていくこと。
『真実』を知って、アスランが離れていくこと。
何よりも。
だから。
いつだって、自分のことだけ、考えていてほしくて。
躯だけでもいいから、覚えていてほしくて。
なんて、身勝手で。
なんて、卑怯な ――
「キラ…」
「ん…」
再び、キラの方から唇を寄せて、舌を絡め取る。
くちゅくちゅと粘ついた音を立てながら、互いに貪り合うように口付けを交わして。
キラはそのまま自分からアスランの上に腰を落としていった。
「…ぅ……く…」
「キラ…?」
「ぁ…ん、…アスラ……」
熱い吐息を吐き出しながら、それでもすべてを自分に埋めてしまうと、キラはぎゅっとアスランの首に腕を回した。
「アスラ…ン」
掠れた声で、耳元で甘く名前を呼ばれて。
アスランの胸に、愛しさがこみ上げてくる。
「キラ…っ」
「ぁ……あ…ん…っ」
キラの一番感じる場所を突き上げると、キラの口から甘えきった嬌声が洩れる。
「キラ…」
「…は…っ、…ぁ……」
段々と加速する動きに、キラもまたついてきていた。
互いが、一番互いを感じられるように。
「キラ…、キラ…、……好きだ」
「僕も…好、き……、アス…ラン……っ」

穢していい。
穢されていい。
君、だから。

激しさを増す水音も、互いの息遣いも。
紡がれる、言葉も。
呼び合う、名前も。
ひとつの旋律を、奏でて。
それはきっと、本当は。
穢れてなど、いない。
真っ白な ―― …


達した後の気怠さは、決して不快なものではなくて。
いつもより高い互いの体温も。
いつもより速い鼓動も、何もかも。
心地よくて。
直接感じるアスランの鼓動を安心しきって聞いているキラの髪を、弄ぶように指に絡ませながら。
「…バカだよな、俺たち」
ぽつりと、アスランが呟いた。
互いに同じ想いを抱えながら、それでも傷つけるような真似しかできずに。
「またカガリに言われるかもな。”コーディネイターでもバカはバカだ”って」
「…そんな事言われたの?」
「ああ」
くすくす笑いながら、キラが問う。
それに笑いながら、アスランも答えて。
「でもさ、人を好きになるってそういうことなんじゃないのかな」
「…そう、かもな」
そっとキラの頬に手を添えて、口づける。

もう二度と、離したくない。

…だから、言えなかった。
泣けなかった。
でも今なら、言える。
本当は知っていたのに。
アスランなら受け止めてくれると。
信じていなかったのは、アスランではなくて自分自身で。
でも、今なら。
受け止められる。
心の奥に沈めていた、『真実』を。
自分自身も、きっと。

「ね、アスラン。…聞いてほしいことがあるんだ」
「うん」
「あのね…」

 

―― 知らなかったよ。
穢すことが、こんなに簡単だったなんて。
僕が、君なしじゃ生きられないように。
君も、僕なしじゃ生きられない体になって。
ねえ、これなら。
もう、離れたりしないよね?
何があっても。
何を、知っても。
ねえ、そうして。
続いていくんだ。
僕らだけの、宴が。
ね? アスラン…

 

fin.

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撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
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に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。
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