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神崎廉が今まで書いてきたSS保管庫。
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おかしい。
絶対おかしい。
なんで…
なんでこんな事になってるんだよ!!

「一騎のここ、ほら、物欲しそうにひくひくしてる」
「ちが…っ」
「何が違うんだ?」
楽しそうにそう言いながら、総士の指が、一騎の秘所の周りをなぞるように一周する。
「ひぁ…っ」
思わず背中が仰け反る。
そんな姿に、総士は意地悪そうな笑みを浮かべて。
「躯はこんなに素直なのにね、一騎」



すっかり日も暮れた教室の中。
いつもなら居残って課題をやっている剣司や衛の姿も今日は見えない。
そして代わりに、珍しく残っているのは総士と一騎だけで。
「なあ、本当に手伝わなくてもいいのか? 総士」
「ああ、もう終わるから大丈夫だよ。一騎」
ファフナーの指揮を執っている所為もあり、学級委員としての仕事も少なからず溜まってしまっていたらしい。
どれも急ぎのものというわけではないようだけれど、できる時にしておかねばいつまたフェストゥムが襲ってくるとも限らないから。
だから教室に残って仕事をして帰るという総士に、一騎も一緒に残ると言い張って。
多少でも手伝えることがあれば、手伝う。
そうすれば、少しでも早く帰れるから。
戦闘がない時くらい、ゆっくりする時間があってもいい。
そうでもしないと、総士は休みもしないだろうから、などと。
一騎は一騎なりに色々考えていたのだが。
当の総士は、自分の仕事だから、と一騎の申し出をやんわりと断って。
だからと言ってひとりで帰るのも何だったから、一騎は総士の仕事が終わるのを待つことにした。
終わってから一緒にスーパーに買い物にでも行って、晩御飯くらいは一緒に食べようかと、そう思って。
けれど、その考えがそもそも間違いだったと、一騎は知る由もなかった。
総士が机に向かっているのを、前の席に座って頬杖をついてぼんやりと眺めていると、ふいに総士が顔を上げて。
思い切り目が合ってしまった。
なんとなく、バツが悪い。
何故か少しだけ自分の顔が赤い気がするけれど、ふいっと視線を逸らして。
「お、終わったのか? 仕事」
ちょっとどもりながら、取り繕うようにそう訊いてみると。
「うん、あとひとつで終わるから」
そう言いながら、なぜか総士が席を立つ音が聞こえてきて。
「総…」
気付いた時には、机の上に押し倒されていた。
「そ、総士!? 何…、んぅ…っ」
覆い被さってきた総士が、無理矢理唇を塞ぐ。
「ちょ…、総士! おまえ…っ」
「何? 一騎」
息苦しそうに文句を言う一騎に、総士は満面の笑みを浮かべて。
「仕事終わってないんだろ!?」
「だから、これが仕事」
「はあ!?」
そうしてまた唇を重ねてくる。
初めてではない。
初めてではない、けど。
(ここ、教室だろーーーっ!?)
一騎の心の叫びを知ってか知らずか、総士は一騎の口腔を貪りながら、躯を弄りだして。
「待っててくれた一騎にご褒美をあげるのも、俺の仕事だろう?」
「な、何馬鹿なこと言ってるんだよ!!」
仕事っていうより愛だけどね、などとしゃあしゃあと言いのけながら、手は休みなく一騎の躯を弄って。
「……っ」
シャツの中を這い回っていた指が、的確にそれを捉えた。
「一騎、ここ、弱いよね」
すでに固くしこっていたそれを、爪で弾いて。
「ほら、ちょっと触っただけなのに、こんなにピンと立ってる」
確かにそれは、シャツの上からでもくっきりと形がわかるほどで。
「舐めて、ってことかな?」
「な…っ」
総士の手が、一騎のシャツをたくし上げる。
赤く色づいたそれを、軽く口に含んで。
「…ぅ……」
舌先で転がして、吸い上げる。
もう片方も、指で摘み上げながら。
「声、出してもいいのに」
その合間に、総士が楽しげに囁く。
言葉と一緒に吐き出される息でさえ、刺激になって。
否が応でも、躯の奥から火照ってくる。
露出させられた肌は、すでに汗ばんでいた。
「馬鹿、言うな…っ」
声など出せるわけないじゃないか。
ただでさえ恥ずかしくて、普段する時でさえ、あまり声を上げないようにしているというのに。
「馬鹿なことじゃない。一騎の声、聞きたいんだ」
「ぁ…は……っ」
そう言うや否や、胸を弄っていたはずの手が、下肢に伸びて。
ズボンの上から、既に固くなったものを撫で上げた。
(油断、した……っ)
思わず口に手を当てたけれど、もう後の祭りで。
胸にばかり意識が集中していたから、突然の刺激に無防備になっていた。
「もうこんなに固くしてるんだ。…いやらしいな、一騎は」
それはこっちの台詞だ…、という叫びも声にならない。
何かを言おうとしても、それはきっと言葉にならず、総士を喜ばすだけだ。
大体、さっきからずっと、太腿に固くなった総士が当たっているというのに。
「けど、感じてる証拠、か」
そう言うと、器用に片手でベルトを外して総士の手がズボンの中にまで侵入してくる。
「…ふ、ぅ…」
けれど、直接触れることはせずに、焦らすように内股を這い回るだけで。
その動きに我慢できないというかのように、先端から溢れ出した蜜が下着に染みをつくっていた。
「どうしたんだ? 一騎」
わかっているくせに。
総士はじっと見下ろしたまま、その手はやはり肢を撫でまわるだけで。
思わず唇を噛みしめて、その緩い刺激に耐える。
瞳に僅かに涙が滲んだことも、自分で気付いていた。
「仕方ない、か」
やれやれと溜息を吐きながら、総士がそう呟いたかと思うと、徐にズボンごと下着を下ろされて。
突然外気に触れた自身がふるっと震えた。
「今日は苛めるのが目的じゃないんだった」
(”今日は”、って……)
つっこみを入れようとした瞬間、温かい感触が覆う。
確かめる必要も無い。
総士が口に含んで、愛撫していた。
「いっぱい溢れてくるよ、一騎? こんなんじゃ間に合わないかな」
「ば…っ」
総士の舌が、キモチイイ場所を隈なく辿って。
とどめとばかりに一番弱い場所を吸い上げる。
「あ、ぁ……っ」
思わず総士の口に全部を吐き出して。
総士はそれを、一滴も零さずに飲み干した。
「いっぱい出たね、一騎。…昨日してないから、かな?」
「~~~~~っ」
嬉しそうにそんなことを言いのける総士が憎らしい。
「あとは…」
「!?」
まだ開放感に酔いしれていた頭が、一瞬にしてクリアになる。
「ここ、か」
突然脚を持ち上げた総士が、その場所をじっと見つめて。
「一騎のここ、ほら、物欲しそうにひくひくしてる」
「ちが…っ」
「何が違うんだ?」
楽しそうにそう言いながら、総士の指が、一騎の秘所の周りをなぞるように一周する。
「ひぁ…っ」
思わず背中が仰け反る。
そんな姿に、総士は意地悪そうな笑みを浮かべて。
「躯はこんなに素直なのにね、一騎」
内股に、いくつもキスを降らせていく。
黄昏のオレンジに染まる、総士の髪。
物凄く憎らしいのに、それでも物凄く、その姿を愛しいと思う。
(何、考えてるんだろ、俺……)
きっとまた、頬は赤い。
けれどこの夕日が、隠してくれる。
ぼんやりと教室に伸びる影を見ていたけれど、自分たちの作る影にはっとなった。
(そう、だった…)
瞬間、全身から血の気が引いていく。
そう、ここは教室なのだ。
いくら放課後とはいえ、見回りの教員がいてもなんらおかしくはない。
「そ、総士…!」
慌てて名前を呼んでも、総士は愛撫に夢中で顔すら上げようとしない。
「せ、先生が来たら…っ」
慌てふためく一騎とは対照的に、総士は落ち着いたまま。
「大丈夫だ。この時間は見回りはしない」
「………」
この確信犯め…、などと、本来の意味とは違う意味で使いながら喚こうとすると。
「一騎」
「……っ」
くちゅり、と音を立てて、総士の指が挿入ってくる。
「欲しいんだろう? ここに、さ」
「…あ……ぅ、…っ」
2本、3本…と、段々と指が増えていく。
ぐちゅぐちゅと音を立てながら、中を掻きまわして。
涙目で睨んでも、総士は涼しい顔のまま。
「欲しいんだろう?」
もう一度、同じ問いを口にして。
すっと、自分のズボンに手をかける。
「ちゃんと準備はしないとね」
猛りきった総士を取り出して、そのまま口元に近づけてくる。
「こっちも濡らしておかないといけないだろ?」
内は総士の指で絶えず犯されて。
それでも知っていた。
(それだけじゃ、足りない…)
悔しいけれど。
だから、恐る恐る口を開けて、そっと総士を招き入れた。
舌と口腔で、丹念に濡らしていく。
「…流石に巧くなったね、一騎」
こんなことで褒められても全然嬉しくない。
けど、そう言う総士の声に余裕がなくなってきて。
掠れていた、から。
だから、…多分。
いいんだと思う。
(何が、いいんだ…)
既に自分で自分の思考がよくわからない。
ただ、わかっているのは……
「も…、早…く……!」
「いいよ、一騎」
総士に、貫かれたいだけ。
「一騎…」
「あ、…ぁ…ん、あ、あ…っ」
繋がった衝撃に、思わず手近にあったカーテンを思い切り掴んでいた。
二人分の重さを受けた机が、ぎしぎしと悲鳴を上げる。
背中が痛かったけれど、それよりも繋がった場所が熱くて。
「やっぱり一騎、いつもより感じてるだろ?」
いつもより締めつけがきついから、などと耳元で総士が囁くけど、反論すらできないほど、躯中が溶けてしまいそうに熱くて。
「そ、総…士、も……う」
限界が近いことを知らせようとした、その時。

「皆城くん? まだ残ってるの?」

(弓子先生…!?)
廊下から響いてくる声に、総士が動きを止める。
「あ、はい。終わったら、僕が鍵を閉めて出ますので」
その声は、いつもの優等生としての声で。
「あ、じゃあ、お願いね」
「はい」
遠のいていく靴音。
「お待たせ、一騎。続きしようか」
「な…っ」
確かに先程までの激しい動きは止めていた。
けれど、弓子が教室の外にいるというのに、総士は腰を揺らし続けていたのだ。
ばれないか気が気でなかった一騎を尻目に、総士は激しく律動を再開して。
「これで、心置きなくできるな。一騎」
「ば、馬鹿…っ!!!」
一騎の罵言もなんのその。
時間も気にしなくていいし、と続ける総士は、勿論1回だけで終わるつもりは毛頭なくて。
結局学校を出る頃には、外はとっくに夜の帳が下りていた。

「もう…、こんな時間じゃ商店街、どこも開いてないじゃないか…!!」
冷蔵庫の中、ろくなもの残ってないのに…と、文句を言い続ける一騎に総士はにっこり笑って。
「別に、一騎の作るものはなんでも美味しいから」
そんなことをしゃあしゃあと言ってのける。
「…その手には乗らないからな…っ」
だから、釘を刺すつもりでそう言ったのに。
「……ありがとう、一騎」
ふわりと、微笑んで。
「………っ」
(フェイント…っ)
―― 卑怯だ。
そんな笑顔見せられたら、誰だって許しちゃうじゃないか。
…と言っても、その笑顔を知っているのは自分だけ、ということも勿論知っていた。
悔しい。
非常に悔しい。
……けど。
「大したもん作れないからな。期待するなよ」
「はいはい」
「…返事は1回」
「はい」

なんとなく、嬉しいのはどうしてだろう?

--- 2004.10.7 / 【初出】総一合同誌『誰彼~たそがれ』 ---

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今日も今日とて、竜宮島の大人たちは忙しい。
正直柄ではない司令官の任に慌しく時間の取られる毎日は、もう若くはない身体には結構堪える。
普段は疲れた顔など決して見せぬのだが、さすがに帰路に着くときは別である。
家に帰れば、可愛い可愛い妻の忘れ形見が待っているのだ。
元来、あまり会話を交わすこともなかった。
思春期の所為もあるのかもしれないが、物心ついた頃から父子二人で暮らしてきて、感情の表現があまり上手くないのかもしれない。
自分も心に不器用だが、息子もまたそうである。
それが、フェストゥムが襲来したあの日から、より一層親子の会話をする時間もなくなってしまった。
けれど、時折見せる笑顔が、とにかく可愛い。
そりゃもう、その辺にいる女の子なんか比べ物にならないくらいに無茶苦茶可愛い。
……そう、アルヴィスの現司令官・真壁史彦は息子の一騎をこの上なく溺愛していた。
本人は表に出していないつもりであったが、実は周りにはばればれである。
―― まあ、それは置いておいて。
とにもかくにも、我が家に帰ればその可愛い息子が美味しい御飯と一緒に待っているのだ。
家へと続く長い階段を昇り、この上なく愛しい息子が待つ家の扉を開けたのであるが……
「……なぜ君がここにいるのかね? 総士くん」
本来ならここにはいるはずのない人物を目にして入口に立ち尽くす。
―― なぜ、息子とのすうぃーとほーむに(今は亡き)公蔵の息子がいるのだ。
「一騎に台所から追い出されたので」
「いや、そういう意味ではなくてだね」
手伝うって言ったんですけど…、とはにかみながら言うこの少年は皆城総士(14歳)。
息子の同級生であり、幼馴染である(と言っても島の子供たちは皆幼馴染になるのではあるが)。
そして殉職したアルヴィスの元司令官兼島の学校の校長でもあった皆城公蔵の息子で、彼もまたファフナーの全指揮を執っていた。
息子の友達でもあるし、今は家族もないから恐らくは心根の優しい息子が夕飯に呼んだのであろうことは容易に想像はつく。
想像はつくのであるが……
史彦は知っていた。
人当たりのよい笑顔の向こうに見え隠れする黒いオーラを。
何せあの公蔵の息子だ、腹黒いことこの上ないのはわかりきっている。
血は争えないということだろう。
最近、特に父親に似てきたように思う。
今のところ彼しかジークフリードシステムを使えないから仕方ないものの、正直あまり息子とは関わらせたくはない。
なぜなら、あからさまなのだ。
息子と他のパイロット候補生達との扱いが違いすぎる。
どう考えても息子を狙っているとしか思えない ―― !!
親ばかと呼ばれても構わない。
息子の貞操の危機……!!
―― この間の思考約0.5秒。
そんなことを史彦が考えている間に、台所から当の息子がひょっこり顔を出した。
「あ。父さん、おかえり」
エプロンを着けた一騎が、ほかほかと湯気をあげる皿を手に居間に上がってくる。
(可愛い……)
瞬間、その姿に和んだものの、同じように相好を崩している総士の姿に気持ちを引き締める。
大事な息子の貞操を守るため、俺がやらずして誰がやる……!!(何をですか)
そんな父の決意を知ってか知らずか、当の一騎は手際よく食卓に夕食の皿を並べていく。
「もう準備できてるから、父さんも座っててよ」
そう言う一騎の顔が、心なしか嬉しそうで。
(おや…?)
父の帰りがそんなに嬉しいのか…と、感激しかけたのも束の間。
「やっぱり僕も手伝うよ、一騎」
残りの皿を取りに台所に戻ろうとする一騎の腰にすかさず手を回した総士が、至近距離でそう囁いていた。
「だ、大丈夫だって。総士も座ってろって」
慌てたように身を引く一騎の頬が少し赤らんでいるのを見逃す父ではなかった。
(な……っ)
しかし、突然の出来事に唖然としたままで。
すると総士が、何食わぬ顔でまた食卓に座りなおし、あろうことかお茶まで啜っている始末。
「どうしたんですか? 座らないんですか? おとうさん」
そしてにっこりそう言ってくるものだから、思わず怒鳴りそうになるのをぐっと堪えてひとつ咳払いをする。
「…誰が君のおとうさんなんだね? 総士くん」
「嫌だなあ、司令。僕と一騎が結婚したら、司令は僕のおとうさんじゃないですか」
この瞬間、2人の間に激しい火花が飛び散った。
「お待たせ。…って、どうしたんだ? 2人とも…」
残りの皿を手にした一騎がきょとんとして聞き返す。
「いや、なんでもないよ。美味しそうだね、一騎」
すかさず満面の笑みを浮かべて一騎の方に向き直る総士に、思わず振り上げそうになった怒りの鉄槌をどうにか抑える。
(落ち着け…、落ち着くんだ史彦!!)
さすがに息子の前ではまずい。
どうにか心を落ち着けようと必死になる史彦だったが、目に飛び込んできた皿の内容を見て再び叫びそうになる。
(目玉焼き付きだとーーーっ!?)
……真壁家は決して裕福ではない。
その食卓も質素なものだった。…普段は。
それなのに今日は、あろうことかハンバーグに目玉焼きまでついている。
いつもならどちらか片方だけなのだ。
どう考えても、奮発したとしか思えない。
(まさか…)
目の前で楽しそうに夕食を囲むふたりの姿に、眩暈がしそうになる。
まさか、そんな。
うちの一騎に限って ――
「父さん? 食べないのか?」
怪訝そうに訊いてくる一騎に、慌てて箸を取るものの。
「…!?」
その一騎の向こう、勝ち誇ったような総士の笑みを見逃すはずもなく。
「父さん…?」
「な、なんでもないぞ」
「?」
(…おのれ……!!)
こうして一見和やかな(本当は穏やかでない)夕食の時間が過ぎていった。


「ごちそうさまでした」
綺麗に平らげられた皿を前に、総士が行儀よく手を合わせた。
「お粗末さまでした」
そう言いながら皿を片付ける一騎も、やはりどことなく嬉しそうで。
(一騎……!!)
内心まったく穏やかでない史彦は、それでも平静を装って新聞を手に取った。
「あ、片付けくらいは手伝わせてくれよ、一騎」
「そうか?」
やはりすかさず皿に伸ばされた一騎の手をナチュラルに取る総士に、思わずばさりと新聞が手から滑り落ちる。
「と、父さんも手伝うぞ、一騎」
「へ?」
あまりにも珍しすぎる申し出に、一騎は一瞬ぽかんとして。
「皿割るからいい!!」
父さんはTVでも見ててよ、と言われても、ここでめげるわけにはいかないのだ。
「皿ならいくらでもある!」
そう、真壁家は器屋であった(あまり儲かってはないけど)。
……が。
「何言ってるんだよ! 物は大事にしなきゃいけないんだぞ!!」
逆に説教されてしまった。
「総士、悪い。手伝ってくれるか?」
「勿論」
撃沈した史彦とは対照的に、またしても勝ち誇った顔の総士が一騎に付いて台所に下りていく。
(紅音…、すまん……!!)
傷心の史彦は、ふらふらと作業場の方に去っていった。


一方、勝者の総士はというと。
「ちょ、…何やってんだ、総士!?」
背後から一騎を抱きしめ、しっかり臨戦態勢に入っていた。
「うん、食後のデザートっていうか、食後の運動っていうか、御飯のお礼っていうか…」
「な、何言って…、…んぅ……っ」
「しっ、静かに」
声もすべて奪うかのように、総士が一騎の唇を塞ぐ。
キスが深くなるにつれて、総士の腕の中で段々と一騎の体から力が抜けていく。
ようやく唇を解放した時には、すでに一騎の瞳は熱に侵されたように潤んでいた。
「一騎…」
背中から回された総士の腕が躯を弄りだしても、抵抗する力も残っていないかのように。
「と、父さんが……」
か細い声で、訴えるようにそう言うけれど。
その声が情欲に掠れていることなど、総士にはよくわかっていた。
「大丈夫、作業場の方に行ってるから心配ない」
(何が…大丈夫、なんだ……)
そう言ってあらぬ所にまで手を伸ばす総士に、一騎は知らず躯を預けて。
そう、とっくの昔に一騎の貞操はこの総士によって奪われていたのだ。
史彦パパの心配は遅すぎたのである。
「ん…ぅ、…ぁ…、あ」
とうに慣らされた躯は、激しい律動にもしっかりついていっていて。
「可愛いね、一騎」
シンクに手をついて、後ろから貫かれている躯を必死に一騎は支えていた。
洩れそうになる声を、必死に押し殺して。
「そんなに司令が気になる?」
「当、たり前…っ、ぁ…っ」
切れ切れの息の合間にようやく答えても、動きは休まるどころかより激しくなる一方で。
「でも、その分感じてるよね」
そう耳元で囁かれて、瞬時に躯がカッとなる。
「ほら、締め付けがきつくなった」
「な……っ」
嬉しそうに囁く総士の声が、耳元をくすぐって、より一層躯中が熱くなる。
「でも一騎は僕のもの、だからね」
「あ、ぁあ……っ」
そう宣言した途端に、一番深い場所を抉るように突かれて。
荒い息と熱を吐き出して、ぐったりと背中を総士の腕に預けた。
「馬鹿総士……っ」
あれだけ乱れておいてなんだが、それでも文句を口にして。
最近、こんな風になし崩し的に事に及ぶことが多い気がする。
涙目で睨んでみても、涼しい顔で総士は微笑んだまま。
「とりあえず、食器洗う前にお風呂入ろうか、一騎」
「……ひとりで…行け」
「ひとりじゃ立ってられないだろう?」
そう言って、ひょいと抱き上げられる。
「お、下ろせってば」
「別に男同士なんだし、一緒に入ってもなんらおかしくないだろう?」
「だから! 人の話聞けよ!!」


…お姫様抱っこで風呂場に向かうふたりを見て、史彦が新作の皿をおしゃかにしたのは言うまでもない。

--- 2004.10.13 / 【初出】総一合同誌『融合~ほんのう』 ---

「…なぜ、君がここにいるのかね、総士くん」

元旦の朝。
新しい年の幕開け。
その輝かしい始まりの朝に、史彦は自宅の居間の扉を開けたまま立ち尽くしていた。
なぜ、今はどこにもいるはずのない皆城総士がまい・すうぃーとほーむにいるのだ。

「一騎の部屋で寝ていたので」
「そういうことではなくてだね……って、なんだとぉぉ!?
にっこりと相変わらずの腹黒スマイル(史彦命名)を浮かべながらとんでもないことをあっさりと言いのけた総士に、史彦は元旦早々大声を上げてしまった。
ぱくぱくと金魚のように口を開けたまま、次の言葉が出てこない。
総士はのほほんとお茶を飲み、まるで自分の家のように寛いでいた。
「あ、父さん。おはよう…じゃなくて、あけましておめでとう」
そんな対照的な2人を知ってか知らずか、一騎が御節が詰まった重箱を持って台所から戻ってくる。
「…どうしたんだ?」
きょとんと2人を見比べながら、一騎が総士に問いかけると、
「別にどうもしないよ。折角だから早くいただきましょう、司令」
何故か総士が真壁家を取り仕切っていた。
「父さん、早く座ってよ。お雑煮ついでくるから」
「あ、ああ…」
(負けてる、負けてるぞ史彦…!!)
父の威厳を取り戻すべく、わざとらしくひとつ大きく咳払いをしてみる。
「一騎」
「あ、そうだ。父さん、御節食べたら俺、総士と初詣行ってくるから」
「………」

……史彦ぱぱが一番負けているのは、やはり一騎にかもしれない。



ガランガラン
チャリン
勢いよく賽銭を投げて、お参りをする。
島で唯一の神社にも拘らず、初詣に来ている人たちの姿は見当たらない。
フェストゥムの脅威が去った今、まだゆっくりと新しい年を自分の家で祝っているのか。
或いは、喪った人たちを偲んでいるのか。
そっと隣の一騎を窺うと、目を閉じて何かを真剣に拝んでいる。
そんな姿にふっと頬が緩むのがわかったけれど、そのまま総士もまた目を閉じた。


「全然人いなかったな」
「そうだな」
折角ここまで来たことだし、ふたりで神社の裏手をぶらつくことにした。
「…なんか、懐かしいよな」
すべての始まりの場所はここだった。
特に、自分たちふたりにとっては。
「……覚えてる? 一騎」
「え」
ぐいと一騎の腰を引き寄せて至近距離でその顔を覗き込む。
すると、きょとんとした瞳が真っ直ぐに見返してきた。
「初めてしたのもここ、だったろ?」
「…っ」
耳元でそう囁くと、途端に一騎の顔が真っ赤になる。
「ね、一騎」
「ん、…ぅ……」
一騎に何も言わせないまま、その唇を塞いで袴に手を差し入れる。
「ば…、き、昨日の夜もあれだけやっただろ!?」
「でもあれ、半分は精神体だったから」
「って、やめ…っ」
「一騎…」
「……っ」


[・・しばらくお待ちください・・]


「信じらんねー…」
真っ赤な顔で袴を整えながら一騎がぶつくさ言っていても、総士は上機嫌のままで。
「そこに一騎がいるからね」
「………」
その言葉に、ぴたりと一騎の動きが止まる。
それを確認してから、徐に総士が問いを発した。
「一騎は何をお願いしたんだい?」
「……っ」
「一騎?」
「…教えない」
「なんで?」
「総士には絶対教えない!!」
やっぱり真っ赤な顔で、ぷいっと一騎がそっぽを向く。
そんな姿も全部、嬉しいから。
だから、腕を伸ばしてその姿をこの胸に閉じ込めた。
「一騎」
「絶対教えないからな!」


―― もう二度と、総士がいなくなりませんように。

--- 2004.12.31 ---

史彦は悩んでいた。
自宅の台所に立つ彼の手には、開けっ放しの冷蔵庫の扉。
しかも、冷蔵庫にかけられた手は、扉にひびが入りそうなほどに力が入り、ぶるぶると震えている。
冷気が正面から襲ってこようとも、省エネ機能により冷蔵庫がピーピーと警報を発しようとも意に介さずに。
…否。
それすらも今の史彦には何の意味も為しえなかったのだ。
今の彼に与えられた脅威はただひとつ。
一仕事終えた後の一杯を楽しもうと、缶ビールを求めて開いた冷蔵庫の中に鎮座ましますそれ…
本来ここにあるはずのないもの。
チョコレート、がそこにはあった。
(な、何故うちの冷蔵庫にチョコレートが…)
真壁家は史彦と(可愛い)息子の一騎との二人暮らしである。
2人とも取り立てて甘いものが好きだというわけではない。
そして一騎も、自分でお菓子を買って食べるような子でもなかった。(買えるほど家計に余裕がないというのはこの際スルーしよう。)
では、何故か。
(まさか…)
「何やってんだよ、父さん!」
突如背後から投げかけられた声にはっと我に返る。
「もう、電気代ばかにならないんだぞ!!」
バンっという音と共に、手にしていたはずの冷蔵庫の扉が閉まる。
そこには珍しく怒った顔をした息子の姿があった。
怒った顔もまた可愛い。
…というのは今はとりあえず置いておこう。
「なんかピーピー音がすると思ったら…」
眉間に皺を寄せて、上目遣いにこちらを見上げて憤慨する姿も、愛妻・紅音にそっくりで。
怒られているくせに、史彦はひとり勝手に和んでいたのであるが。
「ビールですか? 司令」
「そ、総士くん!? まだいたのかね…?」
家族団欒(?)に割り込んできた声に、崩していた相好を引き締めてばっと振り返る。
愛妻・紅音がフェストゥムに同化されてから、真壁家は二人暮しであった。
そう、本来あるべき姿はそうなのだが。
どうやら大晦日の晩にこちらの世界に戻ってきたらしい皆城総士が、ちゃっかりそのまま真壁家にいついてしまっていたのであった。
「嫌だなあ、今更何おっしゃるんですか」
「ビールって…、父さん、最近飲みすぎだぞ!」
普段酒を嗜まない史彦であったが、最近はビールを飲む回数が増えていた。
それもこれも、すべては今目の前で腹黒スマイルを浮かべるこの少年のせいである。
「まあ、いいじゃないか、一騎」
「総士」
総士の父・公蔵とは旧知の仲ではあるし、総士は今や天涯孤独の身。
だから、総士を引き取ることも止むを得ない、のではあるが。
「司令だって飲みたい時だってあるさ」
(おまえが言うかーーーっ)
すかさず一騎の隣に並び、相手に不信感を抱かせずにその肩を抱くこの手際のよさ。
どう考えても総士は可愛いひとり息子の一騎を狙っている。
そしてあろうことか、一騎も満更ではないらしい。
父の感、である。
つまりはヤケ酒、であった。
「う、ん…。でも、父さん」
「な、なんだ」
その声音は先ほどより怒ってはいないものの、史彦は姿勢を正して向き直った。
「飲みすぎは体によくないんだから、ほどほどにしとけよ」
「………」
優しい息子の心遣いに、史彦は思わず言葉に詰まる。
感激に浸る史彦は、脅威も忘れ、しばしその場に立ち尽くしていた。
いつの間にやら総士が一騎を部屋に連れて行っていたのに気が付いたのは、それからしばらく経ってからのことである。
あとの祭り、という言葉が脳裏をよぎったけれど。
まさしくその通り、であった。



「明日が何の日か知っているか? 一騎」
部屋に戻るなり、いきなり総士が切り出した。
「明日…? ああ、バレンタインだろ?」
それがどうかしたか、と事も無げに一騎は問い返す。
切り離された孤島である竜宮島にも、バレンタインの習慣はある。
そしてこの時期、ちゃんと西尾商店には可愛くラッピングされたチョコレートが並ぶのであった。
しかし、一騎は剣司と違い、あまりそういうものに興味はない。
しかも生まれてこの方、バレンタインのチョコというものを貰ったことがないので余計にこの行事には疎遠であった。
―― 一騎宛のチョコレートを総士が悉く処分していたという事実を、一騎は知る由もなかったのである。
「一騎は、欲しい?」
「…は?」
一瞬何のことかわからなくて、一騎は怪訝そうな顔を総士に向ける。
「だから、チョコレート」
「別に」
言われてようやく納得がいく。
先にも述べたが、別に一騎はこの行事に何の関心もなかったので、別段チョコが欲しいとは思わなかった。
「総士は? って言ってもおまえ、毎年いっぱい貰ってたよな」
「まあ、好きじゃない相手から貰ってもね…」
そう言ってじっと一騎の瞳を覗き込む。
超がつくほど鈍感な一騎はまったくその真意に気付いていないようで。
きょとんとした顔で見返してくるものだから、思わず総士は苦笑する。
「そういえばおまえ、あんまり甘いもの好きじゃないもんな」
しかもそんなことを一騎が口にするものだから、余計に苦笑が洩れる。
「好きな相手からなら、喜んで貰うけどね」
こうなれば(いつものように)実力行使しかないだろう。
そう言うや否や、一騎の唇を塞いでそのまま押し倒す。
「そ、総士!?」
「チョコより一騎の方がいいし」
「はあ!?」
「ほら、もう14日になる」
「え…、あ、ン…ぅ……っ」
時計の針はいつの間にやら12時を指していた。



いつの間にか気を失っていたらしい。
口の中に広がる甘い味で、はっと目を覚ました。
「…チョコ……?」
「正解」
楽しそうに総士が言う。
パキンと音がして、総士が手にしたチョコを口に含み、また口づけてくる。
ふたりの舌の上でチョコが溶けて、口の中いっぱいに甘さが広がっていく。
「ふたりで食べようと思って買っておいたんだ」
「…なんで」
「バレンタインだから、さ」
…そう、冷蔵庫にあったチョコレートは総士が買ったものだった。
史彦パパの懸念はちょっとずれていた…のだが。
結果的にはあまり変わらないといえた。
「………」
「一騎?」
「バレンタインって、女の子が男にチョコあげるものなんじゃないのか?」
「別にそう決まってるわけではないみたいだぞ」
「そうなのか?」
それからじっと一騎は何かを考え込むように俯いていた。
「一騎、どうした?」
「…やっぱ俺、別にチョコレートとかはいらないかな」
思わず洩れた呟きは、それでもちゃんと総士の耳には届いていた。
「チョコレートより、おまえが今ここにいてくれるほうが嬉しい」
(参った…)
本当は、一騎からのチョコレートを毎年期待していたのだけれど。
真っ直ぐな一騎の想い。
それにはやっぱり敵わない。
「…ありがとう、一騎」
「へ? って、ま、待った! もう…」
「待ったなし」
「ええ!? ちょ、…総士!!」



―― 翌朝。
腰をトントン叩きながら、真っ赤な顔をした一騎が西尾商店に並んでいたのが目撃された。
そしてその日の晩。
ビールの横に置かれたチョコレートに、史彦は涙することになる。
しかしその直後、幸せそうにチョコを食べる総士の姿に別の涙を流すこととなった。


--- 2005.2.15 ---

「ねえ、一騎。こうして欲しかったんだろう?」
重なる影。
(……違う…)
「だから、戻ってきたんだろう?」
囁く、声。
(…違う……!)
「そうだろう? 一騎 ―― …」



     +



知りたかった。
外の世界で何を見て、何を抱えたのか。
少しでも知りたかった。
だから、ただその一心で。
同じものを見ようと、飛び出した。
この、楽園を。
そして、この目で見たもの。
感じたもの。
そうして、素直に思ったこと。
”もう一度、話したい。”
だから……


カツン
暗い廊下に、自分の靴音だけが響く。
思ったとおり、人気の少ないその場所にその人影はあって。
この島に戻ってから、誰よりも一番に会いたくて。
会って、話がしたくて。
島の土に足を降ろした途端に、駆け出すようにその姿を捜し求めた。
何から話そう。
話したいことはいっぱいあって。
ちゃんと、話を聞いてくれるだろうか。
怒っているかもしれない。
勝手なことをした自分を。
もう、パイロットとしてでも受け入れてくれないかもしれない。
でも、会いたい。
とにかく、会いたかった。
その姿を見たくて。
その存在を、確かめたくて。
「総士…」
どう切り出そうか迷っていたのに、それでもその姿を見つけた途端に、唇が名前を紡いでいた。
「総……」
ゆっくりと振り向いた総士は、冷たい視線で一騎を捉えて。
「……っ」
その視線に一瞬体が竦んだけれど、唇を噛みしめて一騎はまっすぐに受け止めた。
覚悟はしていたのだから。
ただ、心のどこかに痛みは感じたけれど。
「総士…」
もう一度、名前を呼ぶ。
すると、総士はにっこり笑って。
「…どうだった? 外の世界は」
「え…」
明るく振舞う総士に、思考がついていかない。
「見てきたんだろう? あの世界を」
「あ、ああ…」
なんだろう、この違和感は。
不自然なまでに明るく響く声に、抑揚はなくて。
「新国連軍の捕虜になったって?」
「…うん」
総士の笑顔。
よく、知ってる。
だけど。
(知らない…)
なぜか、震えが背中を這い登ってくる。
ざわざわと、風が木の葉を揺らすように。
(な、に…?)
目の前にある、総士の笑顔。
こんな笑顔は、知らない。
「ねえ、一騎」
「…!?」
突然仕掛けられたキスは、荒々しくなどなく、寧ろ優しいほどで。
けれど、どこか冷たくて。
「…ん…ぅ……っ」
絡め合う舌。
よく知った感触。
なのに。
(総…士……?)
こんなキスは知らない。
こんな冷たい、キス。
「一騎…」
囁く声も、どこか冷たい。
「総…」
向けられる、視線も。
「……っ」
徐にズボンを下ろされて、突然外気に曝された自身がひくりと揺れる。
「…キスだけで感じた?」
「……!」
冷たい笑みを浮かべたまま、総士が楽しそうに言う。
悔しさと羞恥とで涙が出そうになるけれど、ぐっと唇を噛みしめて堪えた。
「捕虜、ね」
「っ、あ…」
突然の異物の感触に、思わず声が上がる。
「いろいろ調べられたんじゃないのか? 手っ取り早く染色体とか」
「ふ…」
総士の指が、窄みの周囲をなぞるように這い回る。
「人類軍(あそこ)、道生さんがいただろう? あの人、割と手が早いんだ」
「総、士…?」
「もしかしなくても、手つけられちゃった?」
「何、言って…」
「ここに」
「…っ」
なんの前触れもなく、突然抉じ開けられた躯。
「僕以外を受け容れた?」
「ちが…っ、…ぁ」
全く慣らしもせずに挿入ってきた総士を、この躯は呑み込んで。
段々と痛みが快楽に摩り替わっていく。
息継ぎすらままならぬほどの動きの合間に、それでも必死に否定の言葉を口にしようとするけれど、それすら掻き消してしまうほどに。
「ねえ、一騎。こうして欲しかったんだろう?」
(……違う…)
必死に否定しようとすればするほど、躯の奥が火をつけたように熱くなる。
総士に飼い慣らされた躯。
快楽を知りすぎた、躯。
「だから、戻ってきたんだろう?」
(…違う……!)
話がしたかったから。
ちゃんと、お互いと向き合いたかったから。
だから……
「そうだろう? 一騎 ―― …」
「あ、あぁ…あ……っ」
強く抱きしめられた腕の中で、吐き出した熱と共に、手放した意識。
その直前に視界に映った総士の左目。
そこに走る傷痕と、その瞳の奥に潜む狂気じみた色が、晴れたはずの闇を呼び戻す。
(総士…)
薄く笑った口元が、囁くように告げた。

「おかえり、一騎」

”僕”という、檻の中に。

--- 2004.10.22 ---

伝えたいこと。
それは、本当の気持ち。
真実(ほんとう)の、言葉。



     +



「総士…」
逸る気持ちを抑えられない。
会いたくて、伝えたくて。
どうしようもないくらいに。
怒っているかもしれない。
もう、触れてくれないかもしれない。
それでも、話したい。
謝りたい。
そうじゃなきゃ、進めない。
あの日に、あの傷に縛られたまま。
きっと、そう、お互いに。


マークザイン ―― ”存在”という名のファフナーから降り立って。
そう、自分はここにいる。
そして、総士も。
確かに、自分たちは、ここにいるから。
だから…

「一騎…」
その姿を見つけて、一心に駆け寄った。
総士は表情をなくしたまま、ただぽつりと名前を呼んで。
でもその向こうで、必死に感情をコントロールしようとしているように思えて。
上がった息を整えながら、一騎は真っ直ぐに総士を見つめた。
「どういうつもりだ?」
淡々と紡がれる、総士の言葉。
「今更何をしに戻ってきた」
「話がしたかったから」
「…?」
怯みもせずにそう告げると、総士は怪訝そうな視線を投げて。
「俺、ずっと…おまえに謝りたかった」
そっと、一騎が手を伸ばす。
今まで自分たちを縛り付けていた、その傷に触れるように。
総士はその手を振り払いはしなかった。
いや、正しくは…動くことができなかった。
毅然と立つ、一騎の姿に。
「許してほしいわけじゃないんだ。自己満足なのかもしれないけど、ただ…」
真っ直ぐな、その瞳に。
「ごめん、って言いたかった」
真っ直ぐな…気持ち(おもい)に。
「ずっと、言えなかった。傷つけて、ごめん、って」
「一、騎…」
「ごめん、総士」
震える唇で名前を呼ぶ総士に、泣き笑いな顔を向けて。
傷に触れさせていた指を、その頬を撫でるようにずらして。
そっと、唇に触れさせる。
「ひとりにして、ごめんな」
その、真っ直ぐな言葉に。
弾かれたように総士が一騎の体を抱きしめた。
折れそうなほど、強く。
その背中に、そっと腕を回して。
「『帰ろう』って言われたとき、真っ先に浮かんだの、おまえの顔だった」
島を出る直前に交わした会話。
今ならわかる。
どうして、あんなことを言ったのか。
どうして、あんなことを言わねばならなかったのか。
その、痛みを。
今度はちゃんと、分かち合える。
「俺…、おまえとひとつになりたい」
「一騎…?」
突然の言葉に、総士の瞳に動揺の色が浮かぶ。
「でもそれは、還るためじゃなくて。先に進むために」
―― 一緒に、進むために。
総士は何も言わず、じっと一騎の瞳を見つめたまま。
そんな総士に、一騎は自分から唇を寄せた。
「ひとつに、なろう? 総士…」

前に進みたい。
総士と、一緒に。
共に、歩んでいきたい。
心から、そう思うから。

「自分のために、生きていいんだ」
「え…」
「島のためだけじゃなくて、自分のために。……俺の、ために」
最後の言葉は、自分の我儘だけれど。
けれど自分は。
自分のために、自分の生きるこの島のために。
そして、目の前にいるこの相手のために。
生きていくと、決めた。
生きていいんだと、知ったから。
だから。


「…ん、ぅ……む…」
「一騎…、もう……」
頭上から聞こえる総士の声は、掠れていて。
総士に絡めた指を離さぬまま、一騎はその行為に没頭した。
「は…ぁ……」
ようやく中心に埋めていた顔を上げる。
飲みきれなかった熱が、口元を伝っていく。
それを手で拭って、丁寧に舐め取った。
その熱さも、存在の証だから。
「一騎…」
「総…士……、ぁ、あ…」
総士の指が、肌を伝ってそこに辿り着く。
易々と指を呑み込んだそこは、溶けてしまいそうに熱くて。
もっと強い想いを強請るように、締め付けてくる。
「一騎…っ」
「あ、ぁ…あ……っ」
打ち込まれた熱に、すべての感覚が焼き尽くされてしまいそうなほど。
罪悪感から肌を重ねていたときとは違う。
今までの比ではなかった。
素直に、総士を感じられて。
感情(おもい)も、感覚(いたみ)も。
すべて、共有して。
ひとつに、なって。
「ぁ、…は……」
すべて吐き出した躯を、総士の腕に預けて。
ぼんやりした視界の中、それでもその顔を捉えた。
その顔は、泣きそうで。
けれど。
優しく、微笑って。
「……おかえり、一騎…」
そう言って、強く抱きしめた。
「ただいま、…総士」


ただいま。

--- 2004.10.23 ---

きっかけが、欲しかったんだと思う。
一騎に会いに行く、きっかけが。



別に約束した覚えはない。
けれど、そう言って、遠見は泣いたから。
だから、そう、ここにいるんだ。
別に、一騎の顔が見たいから、とか。
声が聞きたいから、とか。
ちゃんと直接会いたいから、とか。
そんなんじゃない。
そんなんじゃ、なくて。
遠見が、一騎と話をしろ、と言ったから。
だから。
だから、そう。
僕は、ここに。
一騎がいるこの部屋の扉の前に、いるんだ。

思わずノックをしようとした右手を引っ込める。
一騎は今、謹慎中の身で。
この部屋に、軟禁されている状態で。
そんな相手に、ノックも何もないじゃないか。
落ち着け。
どんな顔して会おう、とか。
会ったら何を話そう、とか。
それはとりあえず置いておいて。
ひとつ、深呼吸して。
扉の解除キーを入力する。

シュン

空気の抜けるような音とともに、扉が開く。
狭い部屋のベッドの上、慌てて起き上がった一騎は。
「総士…」
驚いたような瞳で、ただそれだけ、呟いた。
僕の名前、を。



「来い、一騎」
「え?」
とりあえず一騎を引っ張って、アルヴィスの通路を進む。
ズカズカと進んでいく僕に、一騎はよくわからないといった風に問いかけてくるけれど、僕だってわからない。
一体どうしようというんだ? 僕は。
話をするなら、別にあの部屋だってよかったじゃないか。
なのに、どこに行く?
一騎は躊躇いながらもついてくる。
そうして行き着いた先は。
「僕の部屋だ。……入れよ」
なぜか、自分の部屋だった。
「おまえ、アルヴィスの中に住んでんのか?」
これは、一騎だけでなく、他のパイロット候補生たちも知らない。
他の連中は教える必要もないし、一騎は…
一騎には、あまり教えたくなかった。
家に帰っても、誰もいない。
あの広い家に、たったひとり。
その理由を、一騎はよく知っているから。
だからきっと、また自分を責めるから。
だから。
「出撃には便利だ。…座ってくれ」
別に嘘は言っていない。
一騎に言葉を挟ませないよう、言い放つ。
「さ、話そうか」
「話そうって…う、ん……なんか、何もない部屋だな…」
一騎がきょろきょろと部屋を見渡して、困ったように言った。
恐らく話題を探すつもりだったのだろうけれど。
「よく見ろ! ベッドがある。テーブルもソファーもある。机があって、壁には写真も飾ってある」
「…それ、一枚だけか?」
(これしかなかったんだ)
お互いに写真を撮るということはあまり好きではないから、一緒に映った写真なんてこれくらいしかなかったんだよ…というのは今はいいんだ!
「見ろ。コンパクトなバスルームまでついている」
(何をしてるんだ僕は……)
一騎は呆気にとられたまま、僕の後をついてくるけれど。
「ん?」
壁に並べられた薬瓶を手に、振り向いた。
「おまえ、どっか悪いのか?」
(しまった…)
「勝手に触るな!」
「え…」
急いで一騎から取り上げる。
…知らなくても、よかったことだ。
「フラッシュバックを抑える薬だ」
「フラッシュバック…?」
「おまえたちパイロットが感じた痛みが、戦闘後にも僕の体で再現されることがある。その…痛み止めだ」
「総士…」
一騎の瞳が何か言いたげに揺れている。
「ま、まだ説明は終わってない!」
(なんで説明なんてしてるんだ、僕は…)
だが、もう後にはひけない。
がっしと一騎の腕をつかんで、部屋を出る。
およそ11歩ほど進んだ先。
チャリン
ガコン
「自動販売機だ」
(見ればわかるだろう)
「僕の部屋からほぼ11歩の距離にある。極めて便利だ」
一騎は呆気にとられたまま、こっちを見ている。
それからしみじみと、
「おまえ、本当に不器用だな…」
そう、呟いた。
「………」
返す言葉もない。
その通り、だ。
何から話せばいいのか、わからなくて。
なぜか妙に、緊張して。
気恥ずかしくて。
……話がしたい、のに。
どうしたらいいのか、わからない。
「それ…」
一騎の視線が、手にしたジュースに注がれる。
「自販機、便利かもしれないけど…あんまり飲みすぎると体に悪いぞ」
って、お酒じゃないけどな、と苦笑しながら一騎が言って。
それからその視線が、今度は僕に向けられる。
真っ直ぐに。
「だからさ、それ、俺が飲んでやるよ」
悪戯っぽく笑いながら、僕の手からジュースを奪い取る。
微かに触れた一騎の体温。
ふわりと掠めた髪。
一騎の、匂い。
……目が眩む。
「なあ、総士。俺、そろそろ戻らないといけないんじゃないか?」
「え? あ、ああ…」

…結局。
話なんてまともにしないまま、そのまま一騎が元いた部屋まで戻って。
呆気ないくらいに、扉に辿り着いて。
ふと思いついて、口をついて出た言葉。
「ここから出してやろうか?」
指令を発する者としての僕が、決して口にするような言葉じゃなかった。
「いや、父さんに言われてるから」
「そうか」
僕だけじゃなく、一騎もやはり驚いているらしい。
僅かに目を見開いて、けどすぐ笑って。
「ジュース、ありがとな」
「いや。…閉めるぞ」
「ああ。おやすみ」

シュン

扉が、閉まって。
僕は何も、言えないまま。
扉の閉まる直前の一騎の笑顔が、消えないまま。
「……っ」
指が、再び解除キーを、辿って。

シュン

扉が開いた先。
先程と変わらず、そこに一騎は立っていて。
「一…」
名前を呼ぼうとした、僕を。
一騎の唇が、邪魔をする。
「…ん……ふ、ぅ…」
体ごと、引き寄せられて。

シュン

扉の閉まる音が、背後で響いた。



「一騎…」
ようやく唇を離して、そっと耳元で名前を囁くと。
一騎は瞳を上げて、じっと僕を見つめて。
濡れた唇が、言葉を紡いでいく。
「少しずつで、いいんだよな…?」
「え…」
「少しずつ、話していこう?」
―― 話したいことは、きっと、お互いたくさんあって。
何から話せばいいのか。
何から話したいのかさえ、わからなくて。
「俺もおまえも、ここにいるから」
一緒にいるから。
話が、できるから。
だから。
「ほんの少しずつでいいから。話していこう?」
ちゃんと。
本当の、こと。
本当の、気持ちを。
「な?」
そう言って、一騎の腕が背中に回って。
僕を、ふわりと抱きしめた。
「あったかいな、おまえ」
制服越しでも、確かに伝わる一騎の体温。
離れていたのは、ほんの僅かな期間だ。
それなのに。
本当は、こんなにも。
「総…? ん、ぅ……っ」
渇望していた。
たったひとり。
唯、ひとり。
君だけ。
一騎、だけを。
「一騎…」
狭い空間。
ベッドも柔らかなシーツがあるわけでもない。
それでも、その固いベッドの上に、頭を打たないように一騎を押し倒して。
「そ、総士。ここじゃ…」
慌てたように言う一騎の唇を、また塞いで。
「さっきは自分からキスしてきたのに?」
「あ、あれは…」
「大丈夫だ。ここのモニターは、切ってあるから」
「……性悪っ」
真っ赤な顔をして睨みつけるその瞳が、段々快楽に蕩けていく。
服を脱ぐのももどかしいほどに、肌を合わせて。
ただ、素直に。
互いの熱を、感じていた。



「フラッシュバックって、…そんなに、ひどいのか?」
一騎がぽつりと呟いてから、ごそごそと体を動かす。
狭いベッドだから、さすがに僕たちふたりが横になると窮屈だ。
背中から抱きしめるかたちで眠っていたけれど、一騎が向き合うように体を向けて上目遣いに訊いてくる。
……そんな顔、反則だ。
「…おまえには関係…」
「あるからな、総士」
先手を打たれてしまった。
ちょっと不貞腐れた顔をしていた一騎が、ふうっとひとつ溜息を吐く。
「…それ、おまえの悪い癖だ。総士」
「………」
つくづく返す言葉もない。
「夜だけなのか?」
「ああ」
「でも俺、おまえが、…その、寝てる時魘されてるの、知らない」
「…ひとりで寝るときだけ、だからな」
理由はわからない。
けれど、今みたいに一騎を抱きしめて眠るときには、不思議とフラッシュバックは起きなかった。
「…そっか」
「一騎?」
何かを納得したように一騎が呟くから、その顔を覗き込もうとすると。
「ずっと一緒に寝てれば、おまえ、あんな薬飲まなくていいんだよな」
「……」
嬉しそうに提案する一騎に、何も言えなくて。
「…総士?」
「いや、おまえには敵わないな、って」
苦笑交じりにそう言うと、一騎はきょとんとした目を向けて。
「なあ、総士」
「ん?」
「楽園なんて、ほんとはどこにもないのかもしれない」
「………」
「でも、ほんとはどこにでもあるものなのかもしれない」
「一騎」
「前に、おまえ言ったろ? 俺たちふたりなら飛べる、って。ひとりじゃなくて、ふたりなら。楽園だって見つけられるんじゃないかな。…いや、見つけるんじゃなくて。楽園を、作れるんじゃないか、って」
「………一騎」
「だから俺、戻ってきたんだ、この島に。…おまえがいる、ここに」
その時、気付いた。
伝えてなかった言葉。
「おかえり、一騎」
一番言いたかった、言葉。
「…うん。ただいま、総士」



何度も感情を共有した。
痛みや傷でさえ、ひとつの絆だと。
そう、思っていた。
けれど、届かなかった。
互いの想い。
擦れ違う心。
不器用な僕たちは、それでも歩き出した。
少しずつ、その歩みは小さくとも。
本当の楽園を、目指して。
僕たちふたりならば、と。
そう、信じて。

--- 2004.11.2 ---

「…何をしているんだ?」
「総士」
目の前に入った光景は。
「あー、そうしくんとつばきちゃん。げんきー?」
アルヴィスの通路で、へべれけになった遠見に抱きつかれている一騎。
…質の悪い酔っ払いに絡まれている図、というところか。
「そ、総士、これは……っ」
顔を真っ赤にして、慌てて一騎が弁明しようとしている。
(…何を弁明するんだ?)
遠見は今日が初のファフナー搭乗だった。
だからこれは、ビギナーズハイというものだろう。
「総士、助けろ!!」
相変わらず慌てた様子の一騎に、遠見はべったりひっついたまま。
……なんとなく面白くない。
いや、なんとなくどころか。
非常に面白くない。
「すまないが今忙しい」
「はあ?」
面食らったような一騎の顔から、ふいと視線を逸らして。
くるっと踵を返して、肩越しに振り返る。
「おまえが責任をもって遠見を送り届けろ。戦闘指揮官としての命令だ」
「お、おい…っ」
困り果てたような一騎の声を、背中に聞きながらそれでもその場を後にして。
ちりちりと、胸の奥が焦げるような感じがするのは。
きっと、気のせいだ。



     +



「………」
受話器越しに聞こえるのは、取られることなく鳴り続ける電話のベルだけ。
(まだ戻っていないのか?)
あれから随分時間が経つ。
遠見を家に送り届けたとして、もういい加減家に戻っていていい頃だろうに。
「………」
やはりどこか面白くない。
無言で受話器を下ろす。
「何をやってるんだ、あいつは…」
苛ついた声で、思わずそう呟いていた。
「総~士」
「うわ!?」
この部屋には自分しかいないはずだった、…のだが。
「乙姫か、脅かすな」
「えへへ」
いつの間に背後に立っていたのか、乙姫がまったく悪びれもせずに笑っている。
そんな姿に知らず溜息が出る。
妹であり、この島のコアでもある乙姫。
本来なら、こうして目の前にいて、会話もすることもなかったはずの存在。
それがこうして、ここにいて。
それは、正直に言えば、とても嬉しいこと。
…けれど。
(妹ってのは…こんなに扱いにくいものなのか…)
可愛いのだ、勿論。
けれど。
コアのせいもあるのかもしれないが、こちらの考えを見透かされているのは正直きつい。
隠し事ができないのだ。
しかも最近は、核心をつくだけでなく、それでちょっとこちらをからかったりもするものだから、始末におえない。
眉間に皺を寄せて、そんなことを考えていると、乙姫がひょいと顔を覗き込んでくる。
今考えていたことも、彼女にはお見通しなのだろう。
「ね、総士。どうしてそんなに真矢を戦わせたくないの?」
先ほども似たようなことを言っていた。
”えこひいき”だとも。
けれど、それは。
本当は、どちらに対してなのか。
「一騎が…」
一度言い淀んでから、それから再び口を開く。
「これ以上パイロットが増えれば、それだけ一騎の心の負担も増える」
―― もう誰も戦ってほしくない。
それは自分も、一騎も同じ想いで。
誰も死なせたくない。
一騎なら、戦うだろう。
他のパイロットを死なせないために。
たとえ自分が、傷ついても。
他の者が傷つくよりも、自分が傷つくほうを選ぶから。
だから。
「一騎は…優しすぎるから」
聞き取れないくらいの小さい声で呟いてから、乙姫を置いて扉に向かう。
「私、リンゴジュースがいいな」
すると、それまで黙って聞いていた乙姫が、それだけ言ってからにっこり笑った。
「…了解」
(…本当に)
何もかもお見通しなんだな、と苦笑しながら自動販売機に向かう。
およそ11歩の距離は、確かに便利だ。


聞こえないとわかっていても、言わずにはおれなかった。
兄の背中を見送りながら、少しだけ悲しそうに、けれど優しい眼差しで乙姫は呟いた。
「…優しすぎるのは、貴方もだよ。総士」



     +



モニターに映し出される数値の羅列。
けれどそれは、意味を成して頭に送られることはなく、ただぼんやり視界に入っているだけで。
突然鳴り響いた電話のベルで、ようやく思考が動き出す。
けれど、受話器に伸ばす手も、どこか動きが緩慢だった。
「…もしもし」
口を開くのも、正直億劫で。
「総士か? 俺だけど…」
耳に届いた声は、今の今まで頭を占めていた人物のもの。
とても、よく知った ――
「…一騎か。何の用だ?」
ぶっきらぼうにそれだけ言うと、受話器の向こうで一瞬躊躇ったような空気が流れたのがわかる。
「…遠見、ちゃんと送ってきたから」
「そうか」
会話が続かない。
いや、続けようとしていないのだ、自分が。
「あの、さ。総士…」
「なんだ?」
「………」
言葉を続けない一騎に妙に苛立ちを覚えて。
「なんだ? 用があるなら早く言え」
「………っ」
息を呑む音だけが耳に響いて、そして。
ガチャン
唐突に切られた電話。
ツーツーツー…
耳をつんざくような受話器を下ろした音の後に響く、無機質な音。
「なんなんだ、一体…」
呆れてそう呟いた。
(…呆れたのは、誰に対してだ)
わけのわからない苛立ち。
…いや、本当はわかっている。
こんなのは、ただの八つ当たりだ。
「……何をやってるんだ、僕は」
静かに受話器を下ろす。
まだ耳に残る、無機質な音と、そして。
苦いものが、胸に広がっていった。



     +



「こんな時間にどこに行くんだ、一騎」
ばたばたと玄関に向かう息子に、文彦は怪訝そうに作業場から声をかけた。
アルヴィスから連絡があったわけでもない。
敵の急襲ということもないだろう。
別に学校で何かあるという連絡も受けてはいない。
そういえば、先ほど電話をしていたようだが…
そこまで考えてはたと気づく。
そう電話をかけるような息子ではない。
かけるとしても、相手は限られている。
「ちょっとアルヴィス行ってくるから」
振り向きざまそう言って、そのまま慌しく駆けていく。
(やはりか…)
想像は当たっていたらしい。
「…今夜は帰ってこないかもしれないな…」
薄暗い作業場で、ろくろの音がその呟きをかき消した。



     +
     


部屋に響くのはカタカタと鳴るキーの音だけ。
モニターに向かって、事務的に仕事をこなしていく。
先程とは違い、嘘のように捗っている。
理由はわかっていた。
……考えないようにしているからだ。
(何を…?)
ふいに浮かんだ疑問。
深く考えてしまうと、また仕事に支障を来す。
雑念を追い払うようにふるふると軽く頭を振って、再びモニターに目を遣った。
そうしてまた仕事に戻る。
どれくらいそうしていたのだろう。
ふいに気配を感じて、振り返りもせずに声をかけた。
「またおまえか、乙姫。もういい加減寝ないと…」
「総士」
返ってきた声は、妹のものでなどなく。
「一騎…?」
驚きとともに、総士は振り返った。
手にしていた書類が滑り落ちたことすら、気付かずに。
目の前の一騎は、睨むようにこちらを見上げていて。
「…何の用だ」
ふいと視線を逸らして、散らばった書類を拾い上げる。
一騎の息は心なしか上がっていて、額にもうっすら汗が浮かんでいた。
あの電話の後、走ってここまでやって来たであろうことは、容易に想像がついた。
「なんでおまえ怒ってるんだよ」
徐に一騎が口を開く。
その声には怒りと、…どこかしら悲しそうな響きが含まれていて。
「…そう言うおまえはなんで怒ってるんだ?」
それに気付かぬ振りをして、静かな口調で聞き返す。
「おまえが怒ってるからだろう!?」
そんな総士に、一騎が声を荒げた。
はっとして顔を上げると、その顔は今にも泣きそうに歪んでいて。
「………」
何も言えずに、力なく椅子に腰を降ろした。
一騎はまだ、立ち尽くしたまま、じっとこちらを睨むように見つめていた。
ふう…と重い息を吐いて、総士が口を開く。
「……どうして、わざわざここに来たんだ?」
今度はちゃんと、一騎の目を見て問いかける。
「…電話じゃ、おまえの顔、見れないから」
一騎も視線を逸らさずに、先程までの激昂した様子とは対照的に静かにそう答えた。
ずきん
胸が、痛い。
どうしてこんなに自分は不器用なのだろう。
傷つけたくなどないと、そう、思っているのに。
結局いつも、傷つけて。
そして。
一騎に、救われて。
「…最低だな」
「え?」
思わず口をついて出た呟きが一騎の耳に届かなかったことに安堵しながら、ふっと表情を和らげる。
「おまえには敵わないな、って思っただけだ」
「…なんだよそれ…」
怪訝そうな顔で聞き返してくるけれど、それに構わずその体を引き寄せた。
「総、士…?」
名前を呼ぶ唇を、塞いで。
それから耳元で、低く囁いた。
「今日はもう、帰るな」
「え…」
「命令」
「……きかない」
目を合わせようとしない一騎の瞳を、じっと覗き込んで。
「…じゃあ」
真っ直ぐに。
「ここに、いて」
「………うん」

--- 2004.11.16 ---

「…相変わらず下手だな、一騎は」
その言葉に、蹲っていた一騎が不安げに顔を上げる。
その口元は、唾液と僕から溢れ出た蜜で濡れていた。
「もう少しちゃんとやってくれないか?」
そんな一騎にちらと一瞥をくれて、また手元の書類に目を戻す。
一騎は何かを言いかけて、けれどまたおずおずとそれを口に含んだ。
「…ン、……ぅ」
ぴちゃぴちゃと音を立てて、一騎は拙いながらもそれでも必死にそれを愛撫する。
わざと見ないように書類に目を落としていても、容易に想像はつく。
今、一騎がどんな表情(かお)をしているか。
苦悶に歪ませた顔の向こうに、見え隠れする快楽に堕ちた顔。
普段の一騎からは想像もつかない、僕だけが知っている、卑猥な、顔。
ぞく…
気取らせてはいけない。
平静を装って、吐精感を全力で抑えこむ。
「もういい」
引き剥がすように、一騎の顔を上向かせる。
僕と一騎の唇の間に、銀色の糸が煌いて。
覗く舌の赤さが、妙に際立った。
熱を帯びたような一騎の瞳が、物問いたげに僕に向けられる。
「一騎の中で出した方が早い」
「……っ」
僕が口を開いた途端、一騎の体が強張るのがわかった。
何度繰り返しても、一騎はこの行為に慣れない。
「一騎」
要求するように名前を呼ぶと、一騎は何も言わずにベルトに手をかけた。
僕から視線を逸らして、震える手で、下着ごとズボンを下ろす。
先程まで僕に奉仕していた所為か、既に一騎自身も限界まで昂っていて。
思わず小さく笑いを洩らすと、一騎は唇を噛んで下を向いてしまった。
「おいで、一騎」
自分でも驚くような優しい声音で一騎を呼ぶと、一騎は恐る恐る近づいてきて。
椅子に腰掛けたままの僕の前で、立ち止まる。
まだ目を合わそうとしないままで。
それからまるで、意を決したかのように僕の上に跨って。
「…ぅ……っ」
自分から、腰を落としていく。
「あ……っ」
ゆっくりと、けれど確実に一騎の中に挿入っていく。
一騎の額には玉のような汗が浮かんでいた。
どうにか全部埋めてしまっても、一騎の体は僅かに震えていて。
それでも躯は僕を欲して、切なげに腰が振れていた。
目の前にあるしこりを、シャツ越しに舌で転がすと、ただでさえ狭い一騎の中がより一層狭くなる。
「すごい締め付けだな、一騎。喰い千切られそうだ」
「……っ」
その言葉にまた締め付けがきつくなる。
一騎の中は灼けるように熱くて、そして温かい。
今すぐにでも達きそうになる躯を、どうにか抑えつけて。
「自分で動くんだ」
冷ややかな声で、そう命じる。
最初は躊躇いがちに、けれど徐々に激しくなる動き。
握りこんだ一騎自身も、もう弾けそうなほどで。
―― こんなにも、躯は僕を欲しているのに。
「ぁ、…あ、……っ」
「く…っ」
限界を感じて、もう片方の手で一騎の腰をしっかりと引き寄せて一番弱い場所を突き上げる。
僕は一騎の中に、一騎は僕の掌に、互いの熱を吐き出して。
一騎は力が抜けたかのように、僕に覆い被さるように抱きついた。
「総…士……」
荒い息と共に、吐き出された僕の名前。
その声は艶を帯び、掠れていた。
「………っ」
―― 違う。
違う、錯覚するな。
一騎が僕に抱いているのは罪悪感。
それ以外の何物でもない。
だから、こんな風に躯を繋げても抗いもしない。
何度抱いても手に入らない。
…それでも。
「一騎…」
それでも、繋ぎとめておけるのならば。



「ファフナーと俺たち、おまえにとって、どっちが大切なんだ?」
「ファフナーだ」

偽りの、カタチのままで。

--- 2004.12.19 ---

今更だと思う。
今更だとは思う、けど。

「総士」
「なんだ? 一騎」
「おまえ、今日の夕方俺の家に来い」
「……は?」
唖然とした総士の顔。
「いいな、絶対だぞ」
「おい、一騎」
言い逃げるように、総士をその場に置き去りにして走り出す。
そして、俺の顔は。
多分、真っ赤だったんだと思う。



「……で」
約束(一方的)通り夕方家にやってきた総士は、いつもより豪勢な真壁家の夕食の座にいた。
「晩御飯に呼んでくれるなら、始めからそう言えばいいんじゃないか?」
「う…、いや、その……」
台所からおかずを運んできながら、何故か一騎の顔は相変わらず真っ赤で。
「…一騎、おまえ、熱あるんじゃないのか?」
「な、ない! 別に熱なんかない!!」
思わず立ち上がって一騎のところまで向かい手を伸ばそうとする総士に、一騎はぶんぶんと頭を振って。
(…おかしい)
どう考えてもいつもの一騎じゃない。
疑い深そうにじっと見つめてくる総士に、
「いいから! おまえ、座ってろって」
とりあえずおかずをテーブルに置いてから、一騎は腕をひっぱって総士を無理矢理席につかせた。
腑に落ちない顔のまま、それでも仕方なしに大人しくその場で待っていると、ご飯を手に一騎が台所から戻ってくる。
その顔はやはり赤い。
そして何故か今度は視線も泳いでいる。
(やっぱりおかしい…)
そう思う総士の前に差し出されたお茶碗は、いつも出されるものと違っていて。
(ん…?)
お茶碗はお茶碗であるが、なんとなく形がちょっといびつだった。
ほかほかと湯気を上げる白いご飯がよそわれたそのお茶碗をじっと見つめていると、
「…その、今日…おまえの誕生日だろ」
たどたどしく一騎が口を開いた。
「………は?」
思わず間の抜けた声を上げてじっと一騎の顔を見つめると、一騎もまた訝しげな顔をして総士の顔を見つめ返している。
「総士、おまえ…」
「……忘れてた」
そう呟くと、一騎ががくーっと肩を落とす。
「おまえなーーーっ」
「あ、いや。その」
自分の誕生日を祝うなど、ほとんどしたことがないのだ。
「……その、クリスマスは皆でやったし」
ふいと視線を逸らして、一騎がぽつりと呟いた。
「今更かな、とか思ったりもしたけど」
ぼそぼそと続ける一騎に、ようやく総士はこの状況に合点がいく。
一騎がご飯に呼んでくれるのはこれが初めてではない。
というより、むしろよく呼んでくれている。
いつもより豪勢なのも、誕生日を祝うため、ということで。
「……その」
礼を言おうと総士が口を開きかけるよりも先に、一騎が口を開いた。
けれど、何かを言いかけて、そのまま言葉を濁している。
それでも我慢強く待っていると、ようやく一騎が言葉を続ける。
「その…、まだ父さんに習ったばっかだから」
「?」
なぜここに司令が出てくるんだろう…、と不思議に思っていると。
「形とか、まだ全然…悪いんだけど……」
ごにょごにょと続ける一騎の顔は、やっぱり真っ赤で。
視線も畳の方を泳いでいるけれど。
(あ…)
やっと納得のいった総士が、それに目を遣る。
目の前にある、今まで目にしたことのなかったお茶碗。
「これ…」
まじまじと手に取って眺めていると、慌てたように一騎が顔を上げた。
「ちゃ、ちゃんともっと巧くなってまた新しいの焼くから」
とりあえず今はそれで我慢してくれ、と言うものの、段々語尾は弱々しくなっていて。
一騎はまた俯いてしまっていた。
その顔は、耳まで真っ赤で。
まるで、それにつられるかのように。
「………っ」
総士の顔も、赤くなっていたけれど。
「ありがとう、一騎」
…本当に、嬉しかったから。
その言葉に、恐る恐る一騎が顔を上げる。
それから、照れくさそうに笑って。

「…誕生日、おめでとう。総士」

--- 2004.12.22 ---

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思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。
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