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神崎廉が今まで書いてきたSS保管庫。
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「ね、政宗。花見行こう!」
元気のよい声とともに、朝の光が部屋に飛び込んでくる。
珍しく政宗より先に起きた幸村が元気よくカーテンを開けた先、窓の外は快晴で。
「いい天気だな…」
「ね、行こうよ、政宗」
窓辺に立つ幸村と並んで階下に目を遣ると、まるで柔らかな薄紅の絨毯が敷き詰められたかのような景色が広がっていた。
もっとよく見ようと窓を開けると、春の穏やかな風が吹き込んでくる。
「こんな日に部屋に閉じこもっとくのは勿体ねーか」
「じゃ、決まり!」
嬉しそうに笑う幸村に手を引っ張られて、政宗は部屋を後にした。

ふたり揃って桜の下を歩く。
まだ朝も早い所為か、人の姿も疎らで。
見上げた空の青に映える、満開の桜。
(…何か)
一瞬。
風が梢を揺らす音のように、何故だか心がざわめいた。
(気の、せいか…)
そんなことを思いつつふと隣に目を遣ると、幸村が何故か俯いたまま立ち止まっていた。
「どうした?」
怪訝そうに幸村の顔を覗き込もうとして、政宗がぴたりと動きを止めた。
幸村の瞳には、何故か涙が滲んで。
「なんでかな…、止まんない」
幾筋も幾筋も、柔らかな頬に跡を残して滑り落ちていく。
「わからないけど…」

―― 嬉しいのか。
哀しいのか。
…愛おしいのか。
優しい光の射す、この満開の桜の下にいると。
いろんな感情が綯交ぜになって、体中を駆け巡る。
そしてふと、脳裏をよぎる映像。
切れ切れに映るそれは、
桜と。
鮮やかな、蒼と。
炎のような、紅と。
そして、
……涙と。

零れ落ちる雫を、しなやかな指が掬い上げる。
そうしてそのまま頬を包んだ手から伝わる温もりは、よく知っていて。
多分、きっと。……ずっと、前から。
「…俺と会えただろ?」
「え?」
「桜の下で。…だから」

『今生こそは』

「嬉しいから、にしとけ」
「…うん」

『ずっと…あなたの、お傍に』


--- 2007.4.8 ---

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霞んで、そして。
すべて、消えてしまえばいいのに。

二度の別れを経験したその桜の木の下での邂逅が齎したものは。

[distance]から派生した別のカタチの結末。もうひとつの[螺旋回廊]。

※一部大人向けな表現がありますのでご注意下さい。

霞んで、そして。
すべて、消えてしまえばいいのに。

 

自分の無力さを呪った。
力があれば、と切に願った。

初めてそう思ったのは、13歳のあの日。
この桜の下で、キラと別れることになったあの時。
まだこどもだった自分。
親の庇護の元でしか、まだ充分に生きることの叶わなかったあの頃。
離れたくなどなかった。
けれど、抗う術をまだ持ち得なかった。
あの時の自分にできたこと、それは。
笑うことだけ。
安心させるように。
泣かせない、ために。
ただ、それだけだった。

二度目はそう、後に”血のバレンタイン”と呼ばれることになったあの日。
ナチュラルの撃った核によって、母を喪った、あの時。
街頭のモニターに映されたその瞬間を、ただ呆然と見ることしかできずに。

失いたくなどないのに。

無力な自分。
力が欲しかった。
守れる力。
大切なものを、もう二度と、失わないように。

手に入れたと思っていた。
けれど。
結局自分は、無力なままで。

何度嘆き、何度、見えない涙を流しただろう。

それでも、少しでも。
守りたい、と。
もう二度と、間違えずに。
一度は失ったと思った相手を、…キラを。
守っていくのだと。
そう、誓ったはずなのに。

 

朝焼けに濡れる花。
確かに一緒に見上げたのに、この花を。
たった数時間前のことだ。
なのに。

『もしも、あの時…僕たち、離れなかったら…っ』

そう呟いて、流れ落ちた雫は。
その瞳に。
この花を、霞ませただろうか。

「……ラ…」
―― 届かない?
この声も。
この、想いも。

舞い散る花弁のように、この手をすり抜けていってしまった。

―― どうして?
幾度も繰り返した問い。

―― わからない。
幾度も繰り返した答え。

握り締めた拳も、噛みしめた唇も、痛くなどない。
痛いのは、心の奥。
(見つけ出す)
何処に居ても。
誰と居ても。
あいつが、何を望んでも。
(必ず、見つけ出すから)
諦めてなんかやらない。
必ず ―― …

「キラ……っ」

まるで、その声を掻き消すかのように。
吹き上げた風は花弁を散らして、そして。
嘲笑うかのように、無慈悲に時は流れた。
あの日から、7年。


彼は、そこにいた。

 

--- 2005.2.20 ---

桜が舞う。
あの日のように。
花弁が散って。
そして…

「キラ…っ」

逸る気持ちを抑えることなどできずに、震えそうになる足でそれでも彼の許へと駆け寄った。
―― けれど。

「アスラン…」

振り向くその姿はキラのもの。
微笑んだその顔も。
その瞳も。
その髪も。
名前を呼ぶ声も。

キラのもの、なのに。

「アスラン…っ」
キラは嬉しそうに、がばっと抱きついてきた。
まだ幼い頃、よくそうしていたように。

キラの匂い。
キラの温もり。
忘れるはずなどない。
それなのに。

(違う…!!)

キラだけど、キラじゃない。

肩を掴んでこの体から引き剥がす。
「君は、誰だ……?」
その問いを発した瞬間。
きょとんと見上げていたその瞳が、意地悪く揺れた。
「へえ…?」
口元に浮かべた冷笑と、その口から発せられた声に、ぞわりと総毛立つ。
「ふーん…。なるほど、ね」
くつくつと笑いながら、それでもその瞳は真っ直ぐにアスランを見つめていた。
値踏みするように。
或いは、睨めつけるように。

その瞳も、その声も。
キラのもの、だけれど。

ざあ…っ
まるでこの心のように、強い風が逆巻いて。
花弁を吹き上げていく。

「君は…誰だ……?」
もう一度、アスランは同じ問いを繰り返した。
震える声を、どうにか抑えようとしながら。

そんな様子を嘲笑うかのように、ゆっくりと唇が形作る名前、それは。


「俺は”キラ”だよ。アスラン・ザラ」

 

--- 2005.3.28 ---

「へえ、さすがにいい部屋住んでんじゃん」
扉を開けるなり、”彼”はアスランの方を見もしないでそう言った。
よく知った、声で。
案内されるのを待つでもなく、遠慮なくずかずかと中に入ったかと思うと、物珍しそうに室内を一通り物色して回っている。
そんな姿に、知らずアスランの口から溜息が洩れた。

わからないことだらけだ。
ただひとつだけ、わかっていること。
”彼”は、”キラ”じゃない。
確かにその姿も、声も、キラのものだけれど。
それでもキラじゃない。
それだけは確かだ。
理由のない確証。
それでも、それだけははっきりと言える。
自分の中の本能が、そう告げていた。

「そんな怖い顔で睨まなくてもいいじゃん」
気付かぬうちに、思考の渦に呑み込まれていたのだろう。
いつの間にか、”彼”がこちらを見つめていた。
「折角の綺麗な顔が台無し…でもないか」
つかつかと歩み寄って、アスランの顔を覗き込むように見上げてくる。
「”怒った顔も綺麗”、ね。……成程」
そう言って口元だけで笑ったかと思うと、いきなり口づけてくる。
「……っ」
突然のことに思考が止まりかけるけれど、肩を掴んでその体を引き剥がす。
「何を…っ」
よく知った、感触。
キラの、キス。

―― 眩暈がする。

「今更だろ? キスくらい」
今まで散々数え切れないくらいしてきてんじゃん…、と”彼”は悪びれもせずに言い放つ。
「君は、誰だ…」
再度問う。
そして、与えられる答え。
「だから、俺は”キラ”だって」
さっきから何度も言ってるよ、と呆れたように続ける。
その、繰り返し。
「でも君はキラじゃない」

だから、連れてきた。
キラじゃない。
キラじゃないけれど、キラに関係しているのは明らかだから。
だから、キラの行方を問う為に。
”彼”自身のことを訊く為に。

「だったら」
挑発的に”彼”が言う。
「躯に訊くのが一番てっとり早いんじゃない?」
「何だ…?」
何を言っている?
「キラがいなくなってから、どれだけ頭の中でキラを犯した?」
「な…っ」
「あんたのことだから、他の誰かを代用品にするなんて器用なこと、できなかっただろ?」
「当たり前だ…っ」
キラしか抱かない。
キラ以外を抱きたいと思ったことなど、一度もない。
キラじゃなきゃ、意味がないから。
「躯で確かめなよ。俺が確かに”キラ”だってこと」
徐に”彼”が傅いたかと思うと、中心に顔を埋めてそれを口に含む。
「やめ…っ」
引き離そうとするけれど、”彼”はその行為に没頭したまま。
煽られた自身は、徐々に硬さを増して。

―― 眩暈がする。

そのぎこちない舌の動きも、柔らかな口内の暖かさも、キラのものなのに。
(それでも…)

―― 眩暈がする。

気付いた時には床に押し倒されていた。
「やめ…」
「やめないよ」
楽しそうに”彼”が言う。
そして。
「あ、…ぁ……」
自ら、アスランの上に腰を落としていく。
「……っ」
内の熱さも、狭さも。
みんな、キラのもの。
「ぁ…、ン……っ」
甘い吐息も。
その表情(かお)も。
「ア…、アスラ…ン……っ」
名前を呼ぶ、その声も。

何もかも。

 

『アスラン』

(キラ……)

 

眩暈がする。
頭に響くノイズ。
遠のく意識。
でも、ひとつだけ確かなこと。

”彼”は、キラじゃない。

 

--- 2005.4.24 ---

意識はまるで、ゆらゆらと揺れる陽炎のよう。
朧で、けれど ――

 

     +

 

「おはよう、アスラン」
うっすらと開いた瞼の向こう、そこにある紫の瞳。
それは確かに、一番大切な相手のもので。
(違う…)
けれど、違う。
”彼”は……
「気ィ失うほど気持ちよかった?」
くすくすと、楽しそうに”彼”が問いかける。
その言葉に、アスランは思い出したかのようにまだ床に倒れこんでいたままだった体を起こした。
体に残る気怠るさは、覚えがある。
そう、これは ――
(あ……)
震える手で口元を押さえる。
そうして、”彼”の方を見遣ると、にやりと口元に笑みを浮かべて。
「何? あんたの躯だって悦んでたじゃんか」
乱れたままの着衣を直そうともせずに、擦り寄ってくる。
「俺はキラだよ。だから、あんたが罪悪感なんて感じる必要、どこにもないんじゃないの?」
まるで、思考を読み取られてしまったかのようだ。
言い当てられたアスランが何かを言いかけるのを妨げるように、唇を寄せてくる。
「よせ」
「またしようよ」
「俺はキラしか抱かない」
ぴしゃりと言い放つと、彼の動きがぴたりと止まる。
じっとその瞳を見つめたまま、首に回されていた腕をそっと離す。
ふたりの間に横たわる静寂を邪魔するのは、時計の針だけ。
どれくらいそうしていたのだろう。
視線を逸らすことなく見つめあって。
それからしばらくして、ふいと”彼”が瞳を逸らした。
床に向けられた視線は、本当はどこに向けられているのか。
「疲れた。寝る」
ぶっきらぼうに、唐突にそう言って。
”彼”はすっくと立ち上がった。
それにつられるように、アスランも立ち上がる。
立ち尽くしたままの”彼”を追い抜かし、寝室へと続く扉を開けてやる。
「君がベッドで寝ろ」
「あんたは?」
「俺はソファで寝るから」
言うや否や、クローゼットから替えのシーツを取り出してソファへと投げる。
ぼんやりとこちらを見つめる”彼”の方に振り向いて、軽く笑ってみせた。
「シャワーならその奥だ。タオルも着替えも、勝手に使っていい」
そう指で指し示すと、”彼”はおずおずとそちらに足を向けた。
”彼”の姿がバスルームに消えたのを確認してから、重い体をソファへと沈める。
(キラ…)
やがて聞こえてきたシャワーの音も、段々と掻き消えて。
まるで、考えることを放棄するかのように、深い眠りの海へと体を預けていった。

 

     +

 

熱いシャワーを浴びても、何故か心にわだかまる何かを洗い流すことができずに。
それが何かを考えたくなどなくて、早々に眠ってしまおうと扉を開けた時。
「キラ…」
微かにだけれど、聞こえてきた声。
(寝言…?)
宣言どおりにソファに眠るアスランの口から紡がれた名前。
先程触れた唇を、そっと人差し指でなぞる。
その柔らかさ。
温もり。
全部、”記憶”のとおりで。
「………」
すっと、膝を折る。
目の前に在るのは、”キラ”が好きだったすべて。
規則正しく聞こえてくる寝息は、何故かひどく安心できて。
それに包まれながら、ただじっとその姿を見つめていた。

 

     +

 

カーテンの隙間から洩れる陽光が朝を告げていた。
「…ん……?」
何故か重く感じるシーツに違和感を覚えて、その原因へと目を向ける。
「………」
ベッドで寝ているはずの”彼”の顔が、そこに在って。
まるで転寝をするかのように、両腕に頭を乗せて眠る姿に思わず苦笑する。
(風邪ひくだろうに…)
そっと起こさないように抱き上げる。
その寝顔は、確かにキラのもので。
けれど、キラじゃなくて。
静かに、寝室へと運んでやる。
泣きたいような、笑いたいような、そんな気分のまま。

 

--- 2005.4.24 ---

「なあ、何調べてんのさ?」
長い指がキーを滑る。
カタカタと部屋に響く音に負けじと声をかけるけれど、アスランは一心不乱にモニターを見つめたまま、”彼”の方を見向きもしない。
「キラのこと?」
「…わかってるじゃないか」
(聞こえてんじゃん)
むっとしながらアスランを見つめるけれど、アスランはモニターから目を離そうともしない。
「君がキラのことを話してくれたら一番早いんだけどな」
「………」
(誰が言うかよ…)
なんだか面白くなくて、ふいと視線を窓の外に移す。
柔らかい光が、窓から射しこんできていた。
(あそこは…こんな風に暖かくなんかなかったな)
人口の明かりだけしかないあの場所。
あの、冷たく暗い場所で、自分と、そして ―― …
(……馬鹿、だよな)
もう一度アスランの方に視線を戻すと、必死な顔でモニターを見つめている。
苦しげな表情(かお)。
そして、そう。
焦がれている、表情(かお)。
何よりも、誰よりも。
たったひとりを、求めている。
その表情(かお)を、知っていた。
(あいつも…)
そう、こんな風に。
必死に……
「………」
胸の奥が、ちりっと焦げるような感じがする。
なんとなく居たたまれない感じがして、がたんと席を立つ。
そのまま台所へと足を運んで、豆をサイフォンにセットした。
立ち上る湯気とコーヒーの香りが、鼻腔を擽る。
(…手持ち無沙汰だったから、だ)
誰にともなく言い訳をしながら、コーヒーを注いだカップをアスランの手元へと静かに置いてみせた。
突然のことに、アスランは一瞬ぽかんと”彼”を見つめ。
「…ありがとう」
けれど、驚きつつも穏やかに礼を述べた。
照れくさいのか、”彼”は口をへの字に曲げたまま。
無言でアスランの目の前に椅子を運んで腰掛ける。
それから、まだモニターに向かうアスランを、頬杖をついてじっと見つめた。
「俺がキラだって言ってんのに…」
文句を言うように、何度も繰り返した言葉を再度投げかけると。
アスランはぴたっと手を止めて、じっと”彼”の顔を見つめ返した。
「君はキラじゃない。キラはキラ、君は君だ」
強く、一語一語を噛みしめるように告げられた言葉。
「……じゃあ」
それにつられるかのように口をついて出た言葉は、自分でも思いもよらぬ言葉で。
「これから”俺”を好きになる可能性もあるだろ?」
言った自分も、そして目の前のアスランも。
驚きに一瞬目を見開いて。
けれど。
「俺が愛してるのはキラだけだよ」
そう、静かに告げるその言葉を耳にした時。
何故か、心のどこかが痛かった。

 

--- 2005.4.24 ---

「こんなところで寝たら風邪ひくだろう?」
少し呆れたようにかけられた声に、閉じかけていた瞼を必死に開けようとするけれどうまくいかない。
(ああ、どこかで…)
前にもこんなことがよくあったと、”記憶”が告げている。
アスランは困ったように溜息をついて、その眉間には皺が寄っている。
そう、よくあった。
同じようなことは、何度も。
そんなことを思っているうちに、ふわりと体が宙に浮く感覚に襲われて。
気がついた時には、そっとベッドに横たえられていた。
布団を肩までしっかりとかけてから、そのまま踵を返そうとするアスランに咄嗟に手を伸ばす。
「え…?」
思わず同時に洩れた声。
何故だろう。
どうして、この手はアスランのシャツを掴んでいるのだろう。
まるで、引き止めるかのように。
アスランは驚いたようにこちらを見つめている。
戸惑うように視線を泳がせるけれど、それでもこの手だけは何故か放せずにいた。
するとアスランは、小さく溜息をついて。
「じゃあ、今日は俺もここで寝ようかな」
こどもをあやすように、そう笑った。
「けど、悪さはするなよ?」
「……なんだよ、悪さって」
横に潜り込んできながらも、しっかり釘を刺されてしまった。
なんだか面白くない。
思わず不貞腐れる”彼”のそんな姿に、アスランの顔にふっと笑みが洩れる。
「………」
その笑顔は、何より綺麗で。

とくん

こんな風に見蕩れてしまうのも、刻まれた”想い”と”記憶”の所為なのか。
やがて、隣からは静かな寝息が聞こえてきた。

とくん

ぎゅっと、自分の着ているシャツを握り締める。
それはちょうど、心臓の上。
(止まらない…)
速さを増していく鼓動。
それは、想いと比例して。
「アスラン…」
その寝顔に、そっとキスをした。

 

     +

 

暖かい光。
暖かい、朝。
けれどそれは、永遠に手に入らない。
わかってる。
本当は、最初から。

「そんなに”キラ”に会いたい?」

……だから。


--- 2005.4.24 ---

カツン
無機質に響く音。
もう二度と戻ることはないと思っていた。
ほんの少しの好奇心と、解放を求めて。
あの日、この階段を昇ったのに。
カツン
階段を降りる足は止めずに、ちらと後ろをついてくるアスランの方に目を向ける。
アスランは張り詰めた空気を纏ったまま、努めて平静を装おうとはしているけれど。
(それもそうか…)
あれだけ焦がれ続けた相手がこの先にいるのだから。
(…あ)

『焦がれ続けた相手』

あの時の自分も、そうだったのだろうか。
遺伝子に刻まれた”想い”。
自分にとっては”記憶”の中だけの”アスラン”。
”キラ”が、あんなにも求めてやまない相手を、この目で確かめてみたい、と。
それは、ほんのちょっとの好奇心だと、思っていたのに。

とくん

(なのに…)
焦がれる想いは、自分が”キラ”だから?

『キラはキラ。君は君だ』

とくん

『俺が愛してるのはキラだけだ』

ずきん

―― ならば。
この、痛みは。

カツン
扉の前で立ち止まる。
アスランもまた、何も言わずに立ち止まったままで。
「着いたよ」
道を空けるように、体をずらす。
「ここ、は…」
心なしかアスランの声は震えていた。
「何? 怖い?」
わざとからかうように言ってみるけれど、それには答えが返ってこない。
「廃棄されたナチュラルのラボ。何気に結構あるんだよ、こーゆー場所ってさ」
そう言いながら、扉に備え付けられたロックの解除キーを叩く。
空気の抜けるような音と共に、扉が開いて。

「キラ…っ」

そして、そこに。
今度こそ、彼がいた。
―― 本物の、キラ・ヤマトが。


--- 2005.4.25 ---

「アス…ラン……」
大きな紫の瞳を驚きに見開いて。
その唇が紡ぐ名前。
「キラ…っ」
何も考えられずに。
ただ、その体を抱きしめた。
言いたいことも、訊きたいこともたくさんある。
けれど、何から言えばいいのか。
「キラ、キラ……!!」
それしか言葉を知らないかのように。
アスランはひたすら名前を呼び続けた。
この腕の中にいる存在を。
確かに、”キラ”だと。
「キラ…」
そっと頬を包むように、顔を上向かせる。
やつれてはいたけれど、それでも確かにキラで。
ずっと、求め続けていた。
「キラ」
「アスラ…」
名前を呼ぼうとする唇をそっと塞いで。
「ん、ぅ……」
一度触れてしまえば、歯止めなどきくはずもない。
貪るように口付けて。
キラがどうして自分の許を去ったのか。
”彼”はどうして現れたのか。
訊きたいことは山ほどあったけれど。
それでも今は、ただその存在を確かめたくて。
「ダメ、だよ…アスラン……」
「嫌だ」
耳朶を甘噛みしながらそう囁くと、ぴくんとキラの躯が震えた。
「やめない。我慢なんてできない」
「ぁ、ン…」
「キラのここ、ほら、もうこんなになってる」
「や…っ」
首筋に舌を這わせながら手をシャツの中に潜り込ませると、そこは既につんと尖りきって、爪で弾けるほど。
「キラ……っ」
「…ぁ……」
這い登ってくる快楽に耐えるようにぎゅっと目を瞑って我慢する姿も、それでも漏れ出す甘い吐息も、すべて、キラのもの。
そう、本当の ――
「キラ」
「アスラン…っ」

ただ、ひたすらに。
求めていた熱に、溺れていった。


--- 2005.4.26 ---

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神崎 廉
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非公開
自己紹介:
絵描き兼字書き。
真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。
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