忍者ブログ
神崎廉が今まで書いてきたSS保管庫。
8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18 
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

―― 温かい。
それは、失ったはずの温もり。
自ら手放したはずの。
「アス、ラン…?」
瞳を開けると同時に唇から零れた名前は、ずっと求め続けていた相手のもの。
そして、与えられた温もりも、そう。
(あ…)
夢かと思っていた。
自分にとって、都合のよい夢だと。
けれど確かに、この腕はアスランのもの。
そう認識して、キラはおずおずと顔を上げる。
目の前にある、自分だけが知っている無防備な寝顔。
胸の奥から染み渡るように、熱が体中に拡がっていく。
溢れそうになる涙を必死に押し止めて、アスランを起こさないように、そっとその腕の中から抜け出した。
そうして、脱ぎ散らかしたままのシャツを拾って羽織る。
(薬、飲まなくちゃ…)
先程までの温かい気持ちが、すっと冷えていく。
現実を思い出し、キラは唇を噛みしめた。
何かを振り払うかのように軽く頭を振ってから、寝室を出るために扉を開いた。
その瞬間、
「見事な乱れっぷりだな」
突如掛けられた声に、キラは思わずそちらに向き直る。
扉の影から現れたのは、自分と同じ姿の……
「あんたのよがってる声、扉の外まで丸聞こえ。いーね、楽しそうで。俺も混ぜてよ」
「な…っ」
目の前の相手は口元に笑みは浮かべているけれど、その瞳は笑ってなどいない。
「折角だから3Pでもする? どうせ俺、もうアスランとはやっちゃってるし」
「………っ!?」
言葉が出ない。
血の気が引いていくのが、自分でもはっきりとわかる。
そんなキラの姿を見て、”彼”は口元に浮かべていた笑みをすっと消した。
「あんたがそれを望んでたんだろう?」
「……っ」
冷ややかに響く声。
冷たく見下すその瞳は、自分の犯した罪の証。
「自分の代わりになる”自分”。なら、俺がアスランと寝ても、それはあんたが望んだこと。あんたが怒ることじゃない」
(そう、だよ…)
そうだ、それは自分が望んだことだ。
自分の代わりになる”自分”がアスランの傍にいること。
けれど、それでも。
この、胸の奥で燻る想いは。
(嫉妬、だ…)
そう、それが。
例え、自分自身であったとしても。

「キラ?」

ふいに背後から掛けられた声に、思わず振り向こうとして。
「……っ」
「キラ…?」
「ゴホッ」
「…!? キラ!!」

突然襲ってきた発作に体を折る。
ゴホゴホと苦しげに咳き込みながら、キラは床にしゃがみこんだ。
そして。
「カハ…ッ」

ポタ…

真っ赤な鮮血が、床を染めていった。

 

--- 2005.4.26 ---

PR

「キラ」
重い瞼を上げると、そこには心配そうな翡翠の瞳があって。
(知られちゃった…)
アスランに抱き抱えられた状態のまま、キラは静かに瞳を閉じた。
これがきっと、夢の終わり。
そして再び瞳を開けた時、視界に映った”彼”の姿。
無表情を装っているけれど、何を考えているかはわかる。
だって”彼”は”自分自身”。
「…どこから、話せばいいのかな」
そっとアスランの腕を振り解きながら、ゆっくりとキラは立ち上がった。
「……どうして」
アスランもつられたように立ち上がる。
「どうしてあの時、俺の元を去ったんだ?」

7年前のあの日。
戦争が終わり、すべての感覚を、すべての感情を放棄してしまったかのようだったキラ。
そのキラが、望んだこと。

『桜、見たい』

その願いを叶えて。
そして。
桜の木の下で、静かに一筋だけ涙を流し、アスランの元を去ったキラ。
あれは…

「…このままじゃいけないって、思ったんだ」
このままじゃダメなのだと。
自分ひとり逃げて、アスランに甘えたままでは。
「だから、君の元を離れて…、ちゃんと自分の力で立って歩けるようになったら帰ろうって」
…そう、思っていた。
けれど。
「突然、だったんだ」
その発作が襲ってきたのは。
咳き込んだ弾みに吐き出した真っ赤な血。
こんなことは初めてだった。
「…僕は、”最高のコーディネイター”なんかじゃない」
激しい戦闘の所為もあったかもしれない。
ぼろぼろだった。
体中が…そう、内臓も、すべて。
「怖かった。自分が死ぬことよりも…君の、傍にいられなくなることが」
たとえ今は離れていても、それでもアスランの隣にいるのは自分なのだと。
そう、信じていたからこそ、離れることもできた。
帰るつもりでいた。
けれど。
「僕がいなくなって、もしも君が、他の誰かを選んだとしたら…」
自分じゃない誰かを、アスランが選んだら。
そう考えることが、何より怖くて。
「だから…」
すっと視線を向ける。
真っ直ぐに、”彼”の方へと。
”彼”もまた、逸らすことなく視線をキラに向けて。
「だから、彼を造った」
「……っ」

……だから。
彼は、僕自身。
そして。
僕の罪の証。

 

--- 2005.4.26 ---

知らない方が幸せだったのかもしれない。
でも、知りたかった。
遺伝子の記憶だけじゃなくて。
その存在を。
その、温もりを。
知って、そして ―― …

 

     +

 

「他の誰かじゃなくて、”僕”ならいいと思ったんだ」
ぽつりぽつりと、キラが言葉を紡いでいく。
実際は、その自分自身にすら激しく嫉妬したのだけれど。
「でもね、なかなかうまくいかなくて。失敗ばっかり。やっぱり、僕自身が出来損ないだからかな…」
「キラ…」
自嘲気味に笑うと、咎めるようにアスランが名前を呼ぶ。
けれどその声音には、怒りよりも哀しみが含まれていて。
「僕は結局、父親と同じことをしたんだ」
命をこの手で造り出すということ。
その禁忌に、触れた。
己の為だけに。
「僕は…っ」
血は争えないのだろうか。
その目的は違えども、犯した罪に変わりはない。
わかっている。
赦されることではない。
(…誰に対して…?)

”彼”に、そして、”彼”にまで成りえなかったものたちに。
アスランに。
―― 自分に。

「馬鹿…っ」
噛みしめるように呟かれた言葉と同時に、ふわりと温もりに包まれる。
アスランはただぎゅっとキラを抱きしめて。
言葉に出さずとも、温もりと共に伝わってくる想い。
「…ほんと、馬鹿だよな、あんたって」
ぽつりと、それまでじっと黙って聞いていた”彼”が口を開いた。
「アスランがあんた以外を選ぶはずなんてないだろ?」
抑揚のない声でそう続けるけれど、わかってしまった。
その言葉に秘められた想いを。
(そう、だよね…)
”彼”も、”キラ”だから。
「はじめから必要なかったんだよ、俺は」

…それは、怒りだったろうか。
諦念だったのだろうか。
それとも、羨望?
いや、きっと。
その、すべて。
それでも。
キラさえ知らない瞬間を、自分は知っている。
…だから。

もう、充分だ。

「消えてやるよ。おまえの罪も全部連れて」
「え…」
「俺も”キラ”だから。プログラミングは得意なんだよ」
呆けたようにこちらを見つめるふたりを、ドンと扉の向こうに押しやって。
素早く扉に隠されたキーに指を走らせる。
昨夜のうちに書き換えておいた、自爆装置のコードを。
「おい、何をする気だ!?」
ドンドンと扉を叩きながら、その向こうにいるアスランが大声を張り上げる。
その声にすら、何故か喉の奥に熱を感じて。
「早いトコ、そいつ連れて逃げなよ。もうあんまり時間ないんだから」
「ここを開けろ!!」
「…優しくするのはキラにだけにしといた方がいいよ?」
そいつかなりのやきもち妬きだからさ、と続けるうちに、ふいに笑いたくなってくる。
(そっか)
キラのことを必死に探すアスランを見て、どうして面白くなかったのか。
(俺も充分、やきもち妬きだったってことか)
そんなこと、今更気付くなんて。
そして。
「記憶だけじゃなくて…、時間も、共有したかった」
そうすれば。
アスランは、自分を愛してくれただろうか。


ふいに景色が滲む。
頬を滑り落ちていく温もり。
(ああ、これが…)
これが、涙。
霞んでゆく。
すべてが。

…ただ、ひとつだけ。
アスランの、笑顔だけが。
こんなにも、はっきりと。

 

     +

 

たとえ、形あるものは消えたとしても。
消えることのないものもある。
犯した罪。
そして。
”彼”の想い。

過ちをどれだけ嘆いたとしても、時を戻すことなどできない。
ならば。
受け止めて、進むしかない。
(忘れない)
確かにそこに在ったことを。

本当の強さとは何だろう。
強くなった気でいた。
けれど。

幾度も迷い、幾度も過ちを繰り返して。

「…俺が望むのはおまえだけだよ、キラ」
「……」
「でも、忘れちゃいけないんだ」
「…うん」
「罪も、全部。背負っていくから」
「うん……っ」

一緒に ―― …


そこに在ったはずの景色が、白煙に包まれる。
霞む視界の中に、ふいに舞い降りた色。
それは、あの日の桜。
薄紅の、その欠片だけが。

―― 鮮明に。


end

 

--- 2005.4.27 ---

キラinザフトなアスキラ・ディアイザ。
モットーは“おばかでらぶらぶでほのぼのでシアワセ”。
無印ベースですが、後半には運命のあのキャラ達も…

「ほら、いい加減起きろよ、キラ」
「う、う~ん…」
毛布を引き剥がしてもキラは起きようとしない。
そんなキラとは対照的に、アスランはもうすでにザフトの軍服に身を包んでいた。
「まったく…」
あれから3年経った今も、相変わらずキラの寝起きは悪いらしい。
「起~き~ろ」
アスランは最後の手段とばかり、キラの鼻をつまむ。
「……っ」
―― 10秒経過 ――
「……………」
―― 30秒経過 ――
「っ、…は、く、苦しいじゃんか! 何するんだよ、アスラン!」
「キラがなかなか起きないからだ」
文句を言うキラに、アスランは悪びれもせず言う。
変わらない。
まだ別れる前、ずっと一緒だった頃と同じ光景。
「何だよ、もう。大体誰のせいだと……」
「ん? 誰のせいだって?」
小声で文句を言ったのに、耳聡く聞かれていたらしい。アスランはにっこり笑って聞き返す。
何となく昨晩のことを思い出してしまったキラは、真っ赤になって黙り込んでしまう。
それに気をよくしたのか、アスランは勝ち誇ったような顔で言葉を続けた。
「ほら、さっさと着替えないと、朝食食べ損ねるぞ」
「~~~っ わかったってば」
まだぶつぶつ文句を言いながらも、キラは着替え始めた。


キラがザフトに所属して1週間が経とうとしていた。
理由はどうあれ、一度はザフトと敵対していたキラではあったが、それを監視するという名目で、ちゃっかり同室になったアスランは、言うまでもなくすこぶる機嫌が良かった。
アスランがプラントに引っ越すまでは、ほとんど片時も離れたことがなかった二人である。
それが3年も離れていたのだから、その年月を取り戻すかのように、キラがザフトに来てからというもの、何をするにも二人一緒だった。
甲斐甲斐しくキラの世話をし、よく怒るアスランと。
アスランにはちょっとわがままで(恐らく自覚はないであろう)無条件に甘えるキラ。
”冷静沈着なエースパイロット”と”憎きストライクのパイロット”というイメージを無残にも粉々にされた周りの人間たちは悲嘆にくれていた……かもしれない。
しかし、当人達にとってはそんなことは当たり前だったので、他人がどう思っていようがまったく関係なかった。
……早い話が、お互いしか見えていないのである。


「………」
ここは食堂。
キラが着替え終わってから、いつものように連れ立って朝食を摂るためにやって来たのであるが……
「何やってるんだ、キラ。ほら、さっさとしろって」
「……アスラン~~っ」
上目遣いで後ろのアスランを振り返るキラの目には涙が滲んでいた。
「どうした?」
怪訝そうに訊くアスランに、キラが指差した先にあるものは…
「………野菜ジュースがどうかしたのか? キラ」
「僕、飲めないよ…」
ザフトの食堂では、兵士の健康を気遣って、毎日献立が決められていた。
どうやら本日の朝食の飲み物は野菜ジュースだったらしい。
「おまえ、飲めなかったっけ?」
「…アスランのせいじゃないか」
「俺の?」
「そうだよ!」
そう言われて、アスランは今までのキラとの日々を思い返す。
野菜ジュース…
「…あの時のことか……?」
「そう! あの時!!」
あの時 ――
そう、それはまだ二人が幼年学校に入ったばかりの頃。
相変わらず野菜の研究に明け暮れていたアスランの母は、大量の野菜を家に持ち帰っていた。
家に遊びに来ていたキラに、アスランは以前母から作ってもらったことのある野菜ジュースを見よう見真似で作り、飲ませようとした。
…が。
できあがったのはとても素晴らしく濃い色をした液体で、幼い子供が好んで自ら飲むような代物には見えなかった。
しかし、折角アスランが自分のために作ってくれたものである。
キラはそれを全部飲み干した挙句、お腹を壊して寝込んでしまったのだった。
「…そんなこともあったな」
「そうだよ!」
(待てよ…)
「けど俺は平気だったぞ…?」
そしてアスランはある事に思い当たる。
「ちょっと待て、キラ。おまえ、あの時…」
「…何?」
その素晴らしい色の液体は、とても苦そうに見えた。
だから…
「おまえ、砂糖いっぱい入れただろう、あれに」
「…そうだっけ…?」
少しでも飲みやすくなるかと砂糖を入れることにしたのはいいが、甘党のキラはこれでもかというほど大量の砂糖を入れて飲んだのだ。
「キ~ラ~…」
「うっ」
いつものように、アスランはひとつ溜息をつく。
「確かに俺も悪かった。けど、俺だけのせいじゃないぞ…?」
「う…、ごめん…」
「とにかく! あれとは違うし、結構うまいから、これ。飲んでみろ」
「………うん」
ばつが悪いせいもあり、渋々キラは少しだけ野菜ジュースを飲んでみる。
コクン
「………」
「どうだ?」
ゴクゴクゴク
「……キラ?」
「………美味しい」
アスランを見上げるキラの目は輝いていた。
「お代わり♪」
「ちょっと待て!! また調子乗って飲んで腹壊す気か、おまえは」


「…朝っぱらからあいつらもよくやるな」
夫婦漫才か、と呟きながらそんな光景を遠目で見る人たち。
言わずもがな、ザラ隊の面々である。
「何て言うか、旦那っていうより世話焼き女房って感じだよね、我等が隊長さんは」
そう言いながら、すかさずイザークの隣に陣取るディアッカ。
「はは…」
ちょっと複雑な心境で、アスランとキラを見遣るニコル。
イザークがフォークを手に取る。
ディアッカが無言で塩を渡す。
無言でイザークが受け取って目玉焼きにかける。
またその塩を無言でディアッカが受け取る。
イザークが目玉焼きにかじりつく。
無言でディアッカがナフキンを渡す。
「………」
(人のことは言えないと思いますけどね、ディアッカ…)


こうして今日もザフトの1日は始まる。

 

--- 2003.3.25 ---

#1 ディアッカ・エルスマンの場合

キラ・ヤマトがザフトに来てから、アスラン・ザラの機嫌は誰の目から見ても明らかなほど良かった。
冷静沈着と目されていた彼が、あんなにも世話焼きで怒りんぼだとは、誰も想像だにしていなかっただろう。
キラ・ヤマトとアスラン・ザラは、何をするにも二人一緒で行動し、片時もお互いの傍を離れようとはしなかった。
それを微笑ましいと見るか、あいつら馬鹿じゃねーのかと呆れるか、それは人それぞれだった。
そしてここに、そんなふたりの姿に苛立ちを覚える悩める少年がひとり ――
(なんであいつらはあんなに幸せそうなんだ)
そう、実は一途にイザーク・ジュールを想うディアッカ・エルスマンその人である。


「なんか今日はまた一段と機嫌良さそうじゃないか、アスランの奴は」
いつもの光景を見ながら、完全に呆れた口調でイザークが言う。
「なんでも今度の休みにキラとふたりで遊園地に行くらしいですよ」
それに答えたのはニコルだ。
「はあ? 遊園地だと?」
あいつら幾つだ、と言いながらドリンクに手を伸ばそうとするイザークにすかさずディアッカが手渡す。
(おいおい、遊園地でデートか?)
なんて羨ましい ―― と、言いそうになるのをどうにか堪えて、イザークの方を見やると、先程ディアッカが渡したドリンクを仏頂面して飲んでいる。
(これだもんね、こっちはさ)
どこか遠い目をしているディアッカに気づいたニコルは内心苦笑する。
(はは、何を考えてるかなんとなくわかりますよ、ディアッカ…)
ご愁傷様…、などとニコルが考えているとは露知らず、少しの間3人の間に沈黙が訪れる。
「でもキラって、絶叫系好きそうですよね」
「言えてそう」
「実は僕も結構好きなんですけどね」
「何を言っている、ニコル!! 遊園地といえばティーカップだろう!!!」
「……………は?」
あからさまに不審な顔をするニコル。
そして、ディアッカはといえば。
浅黒い顔が、見てわかるほど青ざめている。
そんなディアッカに気づいたニコルが何か言うよりも早く、
「なあ、ディアッカ!!」
そんなことを気にも留めず、イザークが同意を求めるように言う。
「あ、ああ…」
(目が泳いでますよ、ディアッカ…)
口に出すのも憚られて、ニコルは内心でこっそり呟いた。
(と言うか…イザークがティーカップ……?)
思わず想像して笑いが出そうになるのを必死に堪えながら、
「イザーク、ティーカップに乗るの好きなんですか?」
「勿論だ!! 昔はよく一緒に乗ったよな、ディアッカ!」
(ディアッカとイザークがティーカップ……)
「そ、そう言えば2人も幼馴染でしたっけ」(←注・神崎的設定)
「ああ」
ちらっとディアッカの方を盗み見ると、目は相変わらず泳いだまま、どうやら冷や汗も流しているようだ。
「どうしたんですか、ディアッカ」
さすがに様子のおかしいディアッカにニコルが声をかけると、
「楽しかったよな~、あの真ん中のテーブルみたいなのをぐるぐるまわすのが!!」
ディアッカが何かを答えるより先に、豪快にイザークが言い放つ。
「あれ回すと回転が速くなりますよね」
「そう! それを隣の奴らに負けじと回す!! どのカップよりも速く回す!! そしてトップスピンをかける!! これが正しいティーカップの乗り方だ!!!」
びしっと人差し指を突きつけて、イザークが断言する。
「そ、そうなんです…ね」
「そうだ!!」
嬉しそうに答えるイザークと対照的に、ディアッカは固まったままである。
「ディアッカなんて楽しすぎて失神してたくらいだからな」
「……………え?」
(それは目が回って倒れてたんじゃ…)
ディアッカはその時の様子を思い出しているのか、こめかみを押さえたまま黙り込んでいる。
(そういう事ですか…苦労が絶えないですね、ディアッカ)
ほんとにご愁傷様です…、とニコルが思っているなど思いもしないであろうイザークは何かを思いついたようにぽんと手を打つ。
「よし、決めたぞ」
「…何をですか?」
「次の休み、俺達も遊園地に行くぞ!!」
「え!?」
ニコルとディアッカの声がはもる。
「あいつらにだけ楽しい思いはさせられないからな!!」
目を輝かせながらイザークは言う。
もはや心ここに在らず。
(ていうか…僕も決定なんですか?)
突っ込みたい気持ちもやまやまではあるが、そんな状況ではなさそうである。
(仕方ないですね…)
諦めの溜息を吐きながらディアッカの方を見ると、なんとも言えない顔をしている。
イザークと出かけられるのが嬉しいのか、はたまたあのティーカップの恐怖に怯えているのか、それとも2人きりじゃないのが面白くないのか……、きっと全部ではあろうが。
(本当に…ご愁傷様)


負けるなディアッカ。
行け行けディアッカ。
栄光のゴールは近い……かもしれない。

 

--- 2003.4.13 ---

#2 アスラン・ザラの場合

それは麗らかな昼下がり。
「遊園地?」
「そ、遊園地。次の休みに行かない?」
唐突に持ち掛けられた提案に、一瞬ぽかんとしてしまったキラだったが、すぐにそれが笑顔に変わる。
「行く!!」
元気よく答えたキラに、
「断られたらどうしようかと思った」
ちょっと悪戯っぽく笑いながら(でもとてつもなく嬉しそうに)アスランがチケットをキラに見せる。
「あ、ここって…」
「行きたがってただろ、月に居た頃から」
それは地球の日本国の某遊園地。なにかのはずみでその存在を知ったキラは、まだふたりが月に居た時、しきりに行きたがった場所だった。
「覚えてたの!?」
「そりゃね」
(キラのことなら何でも覚えてるさ)
その時のキラの様子は今でもはっきりと覚えている。
思わずトリップしそうになるのをどうにか抑え、キラの方を見ると、目を輝かせながら渡したチケットを見つめている。
「ありがとう、アスラン! 凄く嬉しいよ」
「昔はよく行ってたしね」
「懐かしいね、母さんにお弁当作ってもらって持って行ったよね~」
その時のことを思い出しているのか、キラは懐かしそうに笑っている。
「じゃあ、今度もお弁当持って行こうか」
「誰が作るの?」
キラの素朴な質問に、
「俺」
アスランはにっこり笑って自分を指差す。
と、途端にそれまで楽しそうに笑っていたキラの顔が能面のように白くなる。
「……何か不満でも?」
「………野菜ジュース………」
キラがぼそりと呟く。
どうやらあの一件はキラのトラウマになってしまっていたらしい。
「と、とりあえず簡単な弁当くらいは俺にだって作れるぞ!? プラントに来てからは殆ど自炊みたいなもんだったし」
「う~…」
慌ててアスランは言うが、それでもまだキラは承服しようとはしない。
上目遣いにアスランを見たまま唸っている。
「あーもう、わかったよ! じゃあ、園内のレストランででも食べよう」
「うん!」
(だからその顔には弱いって絶対わかっててやってるだろう…)
「はあ…。ほら、昼食べに行くぞ」
完全に負けを悟ったアスランは、溜息をつきながらドアに向かう。
「………」
その背中にキラがガバッと抱きついた。
「へへ、アスラン大好き!」
「だ~か~ら~、急に抱きつくな!!(襲いたくなるだろう!?)」
「あはははは」


…その後。
昼ごはんをいただいたのか、キラ自身がいただかれてしまったのかはさておき。
いつにもまして上機嫌なアスランの姿を周りは目にすることになる。

 

--- 2003.4.14 ---

#3 宇宙より愛をこめて(前編)

その日、アスラン・ザラの機嫌は最高に良いはずだった。
まるで自分たちを祝福するかのように晴れ渡った雲ひとつない青空。
そして隣には、愛しくて堪らないキラの笑顔。
そう、最高の気分のはずだったのだ。
「お、着いたみたいだな」
「……………」
「何してるんだ、おまえら。さっさとゲートに行くぞ!」
「……………」
「へ~、本物みたいですね、あのスペースシャトル」
「………で」
「ア、アスラン…」
「なんでおまえたちまでいるんだーーーーーーーっっ」


《ここは、ス●ースワールド。ここはスペース●ールド》
赤煉瓦仕立ての駅に降り立った一行は、目の前に広がる巨大パノラマにしばし心を奪われた。
……ただ一人を除いて。
その日、アスラン・ザラは当初の予定に大きく反して不機嫌極まりなかった。
今日は、待ちに待った休日。
そう、キラとふたりっきりで遊園地でデート、のはずだったのだ。
……それなのに………
なぜかおまけ(?)が3人も付いてきたのだ。
(わざとだろう、おまえら絶対わざとだろう……っ) ←その通りです。
怒り心頭、肩を震わせてその場から動かないアスランを心配して、キラがアスランの顔を覗き込む。
「アスラン…」
心配そうに名前を呼ばれて、ようやく我に返ったアスランだが、まだ怒りが収まるわけではなく。
「ね、僕達も行こう?」
そう言いながら、キラがアスランの手を取り、ゲートに引っ張っていこうとする。
繋いだ手の温もりに、徐々に落ち着きを取り戻していくアスランだったが…
(………まあ、折角来たんだし。百歩譲ってお邪魔虫がいるにしても、キラとデートしてることには変わりないし…)
アスランがどうにか必死に自分に言い聞かせているうちに、ゲートに着いたらしい。
「じゃ、入ろう!」
「…ああ」
(それに、キラも楽しみにしてたんだもんな)
「おまえら何やってる! 遅いぞ!!!」
「ご、ごめん」
(誰のせいだ、誰のーーーーーっ)
……やはりそう簡単には怒りは収まらないようだ。


「さあ、どれから行くかな」
パンフレットをでかでかと広げたイザークが、嬉々としてアトラクションを物色し始める。
「あ、ティーカップ発見」
ぽつりとニコルが呟く。
「ティーカップ?」
アスランとキラの声が仲良くはもって訊き返す。
(いらんこと言うな、ニコルーーーっ)
ディアッカの心の叫びを知ってか知らずか(いや、きっと知っているであろう)、ニコルは何事もないかのようにしれっとパンフレットを見ている。
「ニコル、ティーカップ好きなの?」
キラが訊くと、
「いえ、僕じゃなくてイザークが」
(イザークが!?)
仲良く思考もはもったアスランとキラであった。
予想だにしなかったことに、思わずふたりがイザークの方を見るとどうやらそれは事実らしい。
「どこにあるんだ、ニコル」
必死の形相でパンフレットを凝視している。
「ほら、ここに」
ニコルがパンフレットの一隅を指差してやる。
「よし! まずはここからだ!! 行くぞ、皆の衆!!」
(なんでおまえが仕切ってるんだ…) ←イザークですから。
で、結局。
まずはみんな仲良く(?)ティーカップに乗りに行くことになったのだった。
「意外だよね、イザークがティーカップって…」
「ああ…」
こそっとキラがアスランに話し掛ける。
「でも確かにあれ、楽しいよね~」
「おまえ、真ん中のあれ回すの好きだもんな…」
「え、だって早く回る方がなんかお得な感じするじゃん」
「おかげで俺は酷い目にあってたけどな」
「なんだよ! アスランだって結構ムキになって回してたじゃんか」
どうやらアスランもディアッカと同じ被害に遭っていた模様である。
もはや日常茶飯事と化している痴話喧嘩が始まったとみるや、
「そこ! 犬も食わないからやめい!!」
先頭を行くイザークに怒鳴られたふたりは、顔を見合わせ、じきにどちらからともなく笑い出した。
ちなみにこれもいつものパターンである。
「今日はあれ回すなよ?」
「ええ~、楽しさ半減だよそれじゃ」
そんな会話を耳聡く聞きつけたイザークの目が光る。
「…今、何て言った?」
「え?」
仲良くふたり一緒に訊き返すアスランとキラに、イザークがもう一度訊く。
「今、『あれを回す』だとかなんとか言ったろう」
「うん、僕、ティーカップの真ん中のテーブルみたいなの、よく回してたんだ」
キラがそう言うや否や、イザークがガシッとキラの肩を掴む。
「!?」
アスランが文句を言うよりも早く、
「見直したぞ、キラ!!」
「……………は?」
「おまえはティーカップの正しい乗り方を知っている!」
「え、えっと…」
イマイチ状況の呑み込めないキラとアスランを置き去りに、イザークはひとりで何かを納得している。
「よし! キラ、着いたら競争だ!!」
「競争って…」
「決まってるだろう!? どちらがより速くカップを回せるか! より一層トップスピンをかけれた方が勝ちだ!!」
(だからトップスピンは違うと思うんですけどね…)
「あ、ここですね」
そうこう言う内にどうやら目的の場所に着いたらしい。
相変わらず腹の中で突っ込みを入れながら、それを億尾にも出さずニコルが一同に声をかける。
「おお! ここか」
目を輝かせるイザークと対照的に、ディアッカの顔色は冴えない。
アスランとキラはと言えば、先程のイザークの剣幕に押されっぱなしで呆然とその場に立ち尽くしている。
「よし! 勝負だ!!」
意気揚々と”パー●ィーカップ”と書かれた看板の方に行こうとするイザークに、
「イザーク、あれ」
ニコルが冷静に指差した先にはこう貼紙がしてあった。
『危険ですので真ん中のテーブルは絶対に回さないでください』
「……………」
あからさまに不満そうなイザークと、これまた対照的に安堵に胸を撫で下ろすディアッカ。
「仕方ありませんね、他のに行きましょうか」
そしてこれまたいつものように、いつの間にやらニコルが仕切っている。
アスランとキラは、まだ何が起こっているのか把握できていない。
こうしてイザークのティーカップへの夢はあっさり打ち砕かれてしまったのだった。


「うわっ、高い……」
首が痛くなるくらい見上げた先にある、頂上。
「ねえ、これ乗ろうよ!!」
興奮気味にキラはアスランを振り返る。が……
「…アスラン?」
「え? ああ…」
(こ、これは…)
微妙に血の気が引いているのが自分でもわかる。
実は今まで内緒にしてきたが、絶叫系はほんのちょっぴり(?)苦手なアスランであった。
「あ、やっぱりキラも絶叫系が好きなんですね」
「え? もしかしてニコルも?」
何気に意気投合するキラとニコルを尻目に、アスランは覚悟を決める。
(大丈夫、大丈夫だ。落ち着け、俺。これくらいの高さ、どうってことは…)
ちらと入り口に目をやると、たった今戻ってきたばかりのコースターから降りてきた人たちの姿が目に入る。
一様に蒼白な顔をし、誰も口をきくものがいない。
(……………)
決意が揺らぎそうになるアスランだった。
「よーし! それじゃ席決めるぞー」
いつの間にやら主導権を取り返したイザークが声を上げる。
「おし! それじゃ皆、手を出せよ」
輪になって片手を出す5人。
「うーらーおーもーて、てっ」
………こうして、
「よし! 俺は一番前!!」
何だかんだ言って、嬉しそうなイザークと。
「じゃあ、僕たちはその後ろにしようか」
「そうですね」
しっかり意気投合してしまった絶叫系大好きっ子・キラとニコルと。
(なんでこいつと…)
お互いに同じことを思っている、何気に報われないアスランとディアッカ。
席順も決まり、5人は最大傾斜60度のローラーコースター、タイ●ンに乗ることになったのだった。


--- 2003.4.16 ---

#4 宇宙より愛をこめて(後編)

「あー、もうすっごい面白かった~」
「ですねー」
爽やかに、とても楽しそうに降り立ったキラとニコルは満足げに笑いあっている。
そして残りの面子はといえば。
笑顔が張り付いたままのアスランと。
口元を押さえたまま俯くディアッカと。
青い顔をして胸を抑えてしゃがみこむイザークの姿がそこにはあった。
(し、死ぬかと思った…)
どうやら今回に限っては、皆、思うところは同じなようだ。
「ねえ、また乗っていい?」
無邪気に訊くキラに、アスランが慌ててパンフレットを広げて見せる。
「キ、キラ。折角だから、他のも先に回らないか?」
「あ、そうだね」
上機嫌のキラは、アスランの態度に何も気付かずにパンフレットを見つめている。
(ナイスフォロー、アスラン)
普段なら絶対思いもしないであろうことを残りのふたりは思っていた。
「あ、じゃあこれにしませんか?」
そう言ってニコルが指差したのは、”ツイン●ーキュリー”。
「ここから近いみたいだな」
「どんなのだ?」
ひょっこり顔を覗き込ませるイザークとディアッカ。どうやらどうにか回復したらしい。
「ボートみたいなのに乗って、南国の海を回るアトラクションみたいですよ」
そう言って、”ファンタジー●ルーズ”の写真を見せる。
(これなら大丈夫か…)
「じゃあ、それ行くか」
この時、密かにニコルとキラが目配せを交わしていたのを他の面子は誰も気付かなかった。
そして ――
「…おい」
「あ~、なんかドキドキするね!」
「どういうことだ、これは…」
「え? 何のことですか?」
「図ったな、ニコルーーっ!!」
バッシャーーーーーンッ
そう叫んだときには時すでに遅し。
一行の乗ったボートは、高さ16メートルの滝から急降下していた。
「あー、気持ちよかった」
「ですね~」
全身ずぶ濡れになりながらも、満足げに笑うキラとニコル。
まさに水も滴るイイ男、である。
そしてここにもイイ男が3名ほど…
「ニコル、おまえ…」
「あ、すみません。なんか”アドベ●チャークルーズ”と間違えちゃったみたいですね☆」
(わかっててやっただろう!?)
口には出さずに3人は同時に心の中で突っ込んでいた。
「僕、次はこれに乗りたい!!」
「あ、”ヴィー●ス”ですね! スペースシャトルのまわりを回転しながら回るみたいですよ」
(もう勝手にしてくれ…)
こうして、絶叫系に明け暮れることがほぼ決定したのだった。


「わ~、綺麗だね、アスラン!」
「ああ」
ここは観覧車、”スペー●・アイ”のゴンドラの中。
いつものように隣り合って座ったキラとアスランは、仲良く眼下の夜景を見下ろしていた。
「今日はいっぱい遊んだね!」
「ああ…」
(ほんとにな…)
さすがのアスランも疲れ果てていた。
結局あの後、絶叫系アトラクションをはしごし、しかもそれぞれ最低5回ずつは乗っていたのだ。
いくら軍に身を置き、身体を鍛えているとはいえ、正直かなりこたえていた。
(これでキラとふたりっきりならな…)
「楽しかったね。また来ようね、今度はふたりで」
「え…」
アスランが聞き返すよりも早く、キラの唇がアスランの唇に触れる。
「今日はありがとう、アスラン」
はにかみながら、最高の笑顔を向けてくるキラに、アスランの理性が保つわけもなく。
「……っ………ふ…」
先程のキラがした触れるだけのキスとは比べ物にならないほどの深いキスを返す。
キラもそれを大人しく受けていたが、アスランの手が下肢に伸びるとさすがに抵抗を試みる。
「ま、待った!」
「ヤだ、待てない」
慌ててキラがアスランの手を引き剥がそうとするが、アスランは一向に手を止めようとはしない。
「続きは帰ってから!!」
思わず言ってしまってから、キラははっと気づく。
(しまった……っ)
しかしそう思っても、後の祭り。
アスランは勝ち誇った顔で、キラを見つめている。
「男に二言はないよな? キラ」
「うっ…」
とてつもなく嬉しそうに、しかし有無を言わせぬ口調でアスランに念を押されてしまった。
「う…うん」
消え入りそうな声でそう答えたものの、キラは真っ赤になって俯いてしまう。
そんな様子に満足げに微笑んだアスランは、
「じゃあ、今はこれで我慢する」
そう言って、キラの肩を抱き寄せた。
「う~……」
唸りながらも、キラはそのままアスランの肩に寄りかかる。
そうしてゴンドラが地上に戻るまで、ふたりは静かに夜景を見ていたのだった。


一方。
「ホントに凄いな、ここの夜景は」
ゴンドラの窓に張りついて外の景色を堪能するイザークと、その姿をぼんやり眺めるディアッカの姿があった。
(まったくね…アスランの奴はよろしくやってるんだろーけど)
これであいつらの乗ってるゴンドラが揺れたりなんかしてたらシャレにならんぞ、などと前を先行するゴンドラに目をやると…
「……………」
(俺は何も見ていない、何も見ていないぞ)
ディアッカが自分に言い聞かせている間も、イザークは眼下の夜景に夢中になっている。
「たまには悪くないな、こういうのも」
そんなイザークの横顔に、ディアッカはしばし目を奪われる。
(ったく…なんでこんな憎たらしいくらいキレーな顔してんだか)
イザークの白い肌は、夜闇に映えてより一層白く見える。
「どうした、ディアッカ。何をそんなもの欲しそうな顔をしている?」
さすがにディアッカの視線に気づいたのか、にやりと笑いながらイザークが振り返る。
(わかってるくせに…)
「そんな風に見えるか?」
そう広くないゴンドラの中、向かい合って座っていたイザークが、触れそうなくらいの位置まで移動してくる。
「いいぞ? ディアッカ。今日は気分がいい」
挑発するように、真っ直ぐにディアッカの瞳を見つめたまま。
「おまえとこういうことするのは嫌いじゃないからな」
そう言いながら、唇に触れる。
「素直じゃないね、ほんっとに。”好き”くらい言やいーのに」
それに応えながら、ディアッカがイザークの細い腰を抱く。
「言ってほしいのか?」
クスクス笑いながら、軽いキスを繰り返す。
「ああ、言ってほしいね」
片手はイザークの腰をしっかり抱いたまま、慣れた手つきでボタンを外していく。
「なら、言わせてみせるんだな」
そう言って、深く深く口付ける。
「たまにはこういう場所でも悪くないだろう? ディアッカ」
「…ま、どこでもあんたの中はサイコーだけどね」


(さて、と)
ひとり、荷物番をかってでていたニコルはベンチに腰掛ける。
その手には、ちゃっかりカメラが握られていた。
(今日はいろいろおいしいものを見せていただきましたしね)
にっこり笑うその姿は、外見だけなら天使のようである。
(最後くらいはいい思いをさせてあげますよ)


そんなこんなで怒涛の一日は終りを告げ、戻ってきた一行であった。
先程までの疲れはどこへやら、アスランは元気そのものである。
そして対照的に、先程までの元気はどこへやら、疲れが出てきたらしいキラはへばりかけていた。
「キラ、先にシャワー行くか?」
「ううん、アスラン先に使ってよ」
部屋に戻るなり、キラは着替えるのもそこそこに、ベッドに座り込んでしまう。
アスランが部屋に備え付けのシャワールームに消えると、
(駄目だ、眠いよ…)
そのままベッドに倒れこんでしまった。
(ちょっとだけ……)
思うが早いか、静かな寝息を立ててしまっていた。
なんとなーく、嫌な思いに駆られて早々にシャワーを浴び終えたアスランは、
(やっぱりか…!)
眠ってしまっているキラを見るなり、脱力してしまう。
(まあ…そんなことだろうとは思ったんだけどさ)
無防備に眠るキラの顔を見ながら、諦めの溜息をつく。
今日は、あの笑顔が見れただけでもよしとしよう ――
柔らかい髪を撫でて、額に口付ける。
「おやすみ」
良い夢を ――
キラを起こさないように、そっと隣に潜り込む。
(明日は覚悟しとけよ、キラ)
アスランがそう心で呟いたのは言うまでもない。

 

--- 2003.4.16 ---

#5 GOOD MORNING! BAD MORNING?

「ん…」
暖かな温もりに目を開けると、ちょうど目の前にアスランの寝顔があった。
(アスラン…)
その存在に安心して、また眠りに落ちようとしたが、そこでキラははたと気付く。
(やばっ)
ガバッと思わず起き上がると、
「う…、ん……」
「あ、アスラン…?」
起こしてしまったかと名前を呼んでみるが、どうやら大丈夫だったらしい。
(えと、今何時だろう…)
時計を見ると、今は朝の4時ちょっと過ぎ。
そして自分の格好はといえば、昨夜帰ってきたままの姿である。
(あちゃー、僕、あのまま眠っちゃったんだ…)
布団はきっとアスランがかけてくれていたのだろう。
思わずアスランの方を見ると、静かな寝息を立てて眠っている。
(やっぱ怒ってる…よね?)
成り行き(?)でしたとはいえ、約束を破ってしまったのだ。
まあ、その約束の内容も内容ではあるが ――
「………っ」
約束の内容を思い出し、思わず赤面してしまうキラであった。
(と、とにかく、シャワーでも浴びてこよう)
すっかり眠気の覚めてしまったキラは、アスランを起こさないようにベッドを脱け出すと、シャワールームに向かった。


蛇口をひねり、出てきた水滴が湯気をあげるのを確認して、頭からシャワーを浴びる。
(あー、気持ちいい…)
しばし目を閉じて、熱いお湯に身を委ねていると ――
「!!??」
いきなり後ろから抱きしめられて、声にならない声を上げる。
…とはいえ、こんなことをするのはひとりしか居ないわけで。
「お、おはよう、アスラン…」
首だけ回して、その犯人を見ると、
「おはよう、キラ」
回した腕はそのままで、最上級の笑顔でアスランが朝の挨拶を返す。
「え、えっと」
「寝汗かいたみたいだから、俺もシャワー浴びようかと思って」
アスランは相変わらずにっこり笑ったまま。
…が。
付き合いの長いキラにはわかっていた。
(まずい…、本気で怒ってる……)
「ア、アスラン…?」
ダメもとで名前を呼んでみる。
「何?」
アスランは相変わらずにっこり笑ったままだ。
「えっと、その…手、離して?」
「嫌だ」
あっさり返されてしまう。
(ああ、やっぱり)
手を離されるどころか、より一層ぎゅうっと抱きしめられてしまった。
「アスラン…、苦しい……」
「俺は昨日、もっと苦しかったけど?」
「う……」
(やっぱり怒ってるよ…)
おずおずと、アスランの方を上目遣いで見る。
「ごめん…」
いつもなら、ここで怯んでしまうアスランであったが、今日の彼は違っていた。
「なんで謝るの?」
「なんでって、その…約束…破っちゃったし……」
「約束って?」
「………っ」
(わざとだ、絶対わざとだ……っ)
「ねえ、キラ。約束って、どんな?」
半泣きのキラを見ても、アスランは腕を離そうとはしない。
「だ、だから、その…っ」
「うん?」
どうやら言わないと、許してくれそうもない。
「続き…帰ってからする、って……」
真っ赤になって、それでもどうにか言ったのに、
「続きって、何の?」
「~~~~~っ」
「ねえ、キラ?」
耳元で低く囁かれて、全身が総毛立つような感覚に襲われる。
それをどうにか堪えようと、ぎゅっと目を瞑るキラのそんな姿に、アスランは満足そうにひとつ笑う。
そうして、キラの顎に手をかけると、
「続きって、これの?」
「っん… ―― 」
思うまま、キラの口内を貪る。
息継ぎする暇も与えず、苦しそうな息を漏らすキラに、アスランは容赦しない。
キラの体からすっかり力が抜ける頃、ようやく唇を離す。
「…ぁ……っ」
ぼうっとした瞳を向けるキラに、アスランは今度は軽く触れるだけのキスをする。
「!?」
突然の感覚に、キラの体はびくっと震える。
気が付くと、アスランの指はしっかりキラの秘所にたどり着いていた。
シャワーのせいか、そんなに慣らしていないのに、すんなりアスランの指を受け入れる。
「や、やだよ、こんなとこで ―― っ」
「なんで?」
「なんでって…、あ……っ」
指のかわりに自身をあてがったアスランが、そっとキラの耳元で囁く。
「キラの可愛い声が響くから?」
「くっ…、や、……聞こえちゃう…よ……っ」
そう言いながらも、キラはしっかりとアスランに抱きついていた。
「誰にも聞こえないし、俺はキラの声、聞きたい」
「う……っ」
瞳に涙をいっぱい溜めて睨むキラに、ついつい意地悪したくなるアスランではあったが、
(あんまり苛めると後が怖いかな…)
「仕方ないな」
わざとらしく溜息をつき、シャワーの蛇口を最大まで捻る。
「じゃあ、こうしとこうか」
「ンっ……」
キラの唇を自分の唇で塞ぎ、先程までとは比べ物にならない程の勢いで責め立てる。
立ち上る湯煙と、内から沸き起こる熱とで、キラはもう何も考えられず、ただ必死にアスランにしがみついていた。


「う~、まだ6時じゃないか…」
ようやくシャワールームを後にしたふたりであるが、キラは疲れきってベッドに体を投げ出していた。
「いいじゃないか。朝するのが一番気持ちいいっていうし?」
さらっと、とんでもないことをアスランが口にする。
「………なんでそんな事知ってるのさ……」
恨めしそうな目でアスランを見ると、
「さあ? なんでだろうね」
「!?」
「何? やきもち妬いた?」
「………っ」
嬉しそうに訊くアスランに、キラは思わず言葉に詰まる。
悔しいけれど、図星だから仕方がない。
真っ赤な顔してふくれているキラに、涼しい笑顔を向けながら、
「心配しなくても、俺はキラしか知らないよ?」
「~~~っ、……僕だってそうだよ…」
まだふくれっ面のまま、小声でそう呟くキラを、アスランは愛しげに抱き寄せた。
アスランの体温が心地よくて、なぜかその感覚がくすぐったくて、笑いそうになるのを抑えて、キラはまだふてくされている振りをしてみる。
「もう…っ、すっごくお腹空いちゃったじゃないか…」
「じゃあ、食堂が開いたらすぐ行こうか」
「うん」
「それまで、こうしてよう?」
「……うん…」


「おはようございます、アスラン、キラ」
いつものごとく、仲良く朝食を摂っていたふたりに、ニコルがにこやかに声をかける。
「おはよう」
「おはよう、ニコル」
「昨日は楽しかったですね」
「うん! やっぱり絶叫系はいいよね」
(俺はもう御免被りたいけどな…)
楽しげなふたりをよそに、アスランはひとり遠い目をしていた。
「ああ、そういえば」
そんなアスランを知ってか知らずか、思い出したようにニコルが言う。
「最近晴天続きだから、節水にご協力ください、ってことでしたよ」
にっこり笑ってそれだけ言い残し、足取り軽やかに立ち去っていくニコル。
その台詞に、アスランが飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになったのは言うまでもない。

 

--- 2003.4.17 ---

カレンダー
05 2026/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
フリーエリア
最新記事
(06/03)
(06/03)
(06/03)
(06/03)
(06/03)
(06/03)
(06/03)
(06/03)
(06/03)
(06/03)
プロフィール
HN:
神崎 廉
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
絵描き兼字書き。
真性アスキラー。
思いもよらずダブルOが歴代G
の中で一番好きな状況に。
成層圏の向こう側まで狙い
撃つ兄貴を愛してやまず。
BAS●RAの影響で戦国史に
どっぷり。VIVA眼帯。
えろすきーだけどホモスキー
に非ず。
オフラインでは【絶対零度】
というサークル名で活動中。
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
忍者ブログ [PR]
"神崎 廉" WROTE ALL ARTICLES.
PRODUCED BY NINJA TOOLS @ SAMURAI FACTORY INC.